ロシアの専門家が察知した「習近平は戦争準備を進めている」という確信的な予兆
中国が今、総動員で進めていること
最近、ロシアの中国専門家、ヴァシーリー・カーシンが、興味深い論文を出した(Kashin, V.B., Smirnova, V.A., and Yankova, A.D., “The New Great Wall: The Logic of China’s Foreign Policy Behavior,” Russia in Global Affairs、日本語でその内容を要約したものとして山本勝也・笹川平和財団主任研究員「ロシアから見た中国の覚悟『新たな万里の長城』――大規模戦争に備えた中国の準備」を参照)。
今の習近平政権が、あらゆる分野で異例なまでの「動員」を進めている。例えば、主要な企業を内陸に移動させたり、備蓄を進めたり、クリティカルミネラルの備蓄や、有事の際の補償に関する法律の整備など、ここ数年で猛烈にやっている。中国が今のホルムズ海峡危機に対して実はあまり困っていないのは、それを事前にやっていたからだ。
ロシアの専門家からすると、これは「戦争の準備」以外の何物でもない。今すぐかどうかは別として、長期戦に備えているという論考だ。

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山本のレポートでは、近年続いている解放軍の幹部のパージ(粛清)については、おそらくそれも、戦争準備の一環であるという解釈のようだ。その戦争というのが完全な軍事侵攻かどうかは別にして、台湾への「包囲」くらいはやるかもしれない、その準備という見立てだ。
ここ数年、中国の動きはことごとく挙動不審だ。ロシア国内では「さすがに中国は戦争をやらないだろう」というのが大方の見方だが、カーシンはそれに対し具体的なデータを出して、「中国はこれだけの準備を各分野で進めているが、どう解釈すべきか」という問いを投げかけている。
ロシアは中国の動向に敏感にならざるを得ない。それほど中国との関係にロシアは依存してるからだ。
米露関係、中露関係の延長線としての日露関係
ウクライナ侵攻以降の露中関係、あるいは米露関係、その延長線上にある日露関係を考えると、大きなトレンドとして、ロシアがウクライナに攻め込んだことでロシアと欧米の関係が悪化し、日本もロシアへの制裁に参加した。その結果、ロシアは中国に接近し、中国との関係をますます強化した。この中露で、アメリカと西側が作る国際秩序に対峙するという基本構図は、4年前から変わっていない。

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現在は、アメリカの圧力をロシアがヨーロッパ側で全面的に受けていて、中国が後ろ側に隠れている構図だ。
ところが、仮にこのウクライナ問題が解決できたならば、露中の協力関係そのものは変わらなくても、今度は中国がアメリカの正面に立つことになる。
これまでは、ロシアがアメリカの正面に立っている間、中国はある意味、アメリカとの関係においてある程度の「自由」があった。基本的な対立構図はあっても、局面によってはアメリカとの協力関係が可能だった。ところが、ウクライナ戦争が終われば、中国が今度はアメリカの圧力を全面的に受けなければならなくなる。そうすると今度はロシアが逆に、これまでの中国の立場、つまり後ろで「自由」を得る立場に回る。
この状況において、これまではロシアには絶対に中国との関係を悪化させる選択肢はなかった。ところが、仮にこの状況が変わったあかつきには、今度は中国がロシアとの関係を悪化させる選択肢がなくなる。トランプ第二期政権が誕生し、ウクライナ問題が解決して米露関係が正常化すれば、そういう形で中国とロシアの立ち位置が逆になり、ロシアは中国に対してある程度の「自由」、あるいは外交上・安全保障上の「選択の余地」が広がる。これがロシア側の当初の見立てだった。
しかし、トランプ政権が誕生して1年5ヶ月が経ったが、残念ながらウクライナ戦争はまだ終わっていない。終わっていない中で、その露中の構図というのも、基本的には変わっていない。むしろ中国のほうがトランプとの関係において、いろいろなゲームの余地を増やしていて、アメリカとの「関係の安定化」を優先するような動きをとっている。
なおかつ、中国はベネゼエラへのアメリカの攻撃において、中国と深い協力関係にあったマドゥロ政権をまったく助けず見捨ててしまった。
また、イランにおいても、今年2月末のアメリカの攻撃の直前に、露・中・イランの3カ国の海軍軍事演習をやる予定だったのが、その直前に中国だけが抜けるということがあった。
ロシアからすると、中国は、アメリカとの関係の改善、安定化を優先して、他の国との関係をある種「見捨てている」「犠牲にしている」という風に映っている。
ロシア側からだけではなく、グローバルサウスの国々は中国に対してかなりがっかりしている。「もうちょっと世界のリーダーとしてやってくれるかと思ったら、意外と自国優先だね」という状況だ。
そういう中で5月、プーチンが訪中した。
訪中したが不満、それでも……
プーチンの訪中は5月14、15日の米中首脳会談直後の19、20日だった。トランプ-習近平の話し合いが終わって「慌てて」北京に向かったように見えるが、実は会談のスケジュールは以前から決まっており、米中首脳会談が後ろに大きくずれてきたためにこのような日程になった。

5月20日の中露首脳会談 by Gettyimages
結果としてロシアとしては全く満足のいかない訪中となった。特に期待をしたエネルギー関連の交渉で、ガスパイプライン「シベリアの力2」に関して合意できなかったことには失望したようだ。
先に解説した根底の中露の力関係の「構図」自体が変わっていない。ウクライナ戦争が始まって、むしろその構図はますます深まっている。時間が経てば経つほど中国に有利な状況になっている。したがって、交渉で全く満足出来ない結果となったとしても、中国により「寄り添って」行くしかないのである。
最近のロシアの日本への向き合い方も、この構図の中で理解出来る。
2025年9月、北京で習近平が第二次大戦戦勝80周年記念の軍事パレードをやり、そこにプーチンと北朝鮮の金正恩・総書記を呼び、日本の「軍国主義」の復活を批判演説を行った。
それだけではない。歴史問題をまたあげつらい、その延長線上で、特に高市政権になってからの、いわゆる日本の「新軍国主義」というナラティブを、積極的にロシア側にも言わせるようにしている。
先の5月20日の習近平・プーチンの首脳会談でも、まさに共同声明で、
「現在の日本の路線は再軍備化を急いでいる、加速化させている今の路線は、世界と地域の平和と安全に対して深刻な影響を与えている。……今年は極東国際軍事裁判(東京裁判)80周年。あの軍事裁判の中では、日本の軍国主義者の膨大な戦争犯罪が明らかになった。だから両国は日本政府に対して歴史から学ぶことを要請する」。
この共同声明での日本に対する批判展開は、当然、先に説明したロシアが中国に全面依存しなければならなくなっているという、両国の力の構図が反映しているといえる。
全くの中国の事情であっても、お付き合い
ロシアが日本に対し軍事力強化の問題で非難を始めたのは、昨年9月のプーチン訪中直前からだ。前述したように、昨年9月、プーチンは第二次世界大戦戦勝80周年記念の軍事パレードに参加すべく北京を訪問している。その直前の8月30日付けの新華社通信とのインタビューでプーチンは「ロシアや中国の架空の脅威を口実に、日本の軍国主義が復活している」と述べたのだ。アメリカ陸軍の中距離ミサイルシステム「タイフォン」が、日米共同訓練の一環として米軍岩国基地(山口県)に初めて日本国内へ一時展開されたのは、まさにその直後のことだった。

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また毎年1月にロシアのラブロフ外相は前年のロシア外交についての記者会見を行う。今年1月20日に行われた会見で、「(ロシアは)日本の隣国であり、日本人に伝えた。アメリカが日本領土に、アメリカの陸上発射型の攻撃システム(「タイフォン」)を配置することは受け入れられない」と再び日本の軍事力強化に対する批判を行った。
「昨年9月にタイフォンの移動型のミサイルシステムの発射装置が、山口県の岩国基地に展開された。報道では一時的となっていたが、しかし、まだ撤収されていない。このことが単なる演習にとどまらず、より恒久的な配置になることを示唆している。また2025年11月に小泉防衛大臣は、与那国島に中距離ミサイルを配備する計画を発表した。これは決して平和志向のステップとはとても言えない、まったく逆だ。我々は日本の同僚たちに、再軍備化の道を進まないように促したい、日本国憲法の原則に立ち返り、その専守防衛に限定する日本の憲法の原則に立ち返ることを促したい」、と、続けた。
しかし、考えてみてほしい。岩国、与那国配備の中距離ミサイルは、モスクワまで届きはしない。これらは、中国、特に台湾、尖閣諸島(そして北朝鮮)をにらんだ配備だ。ロシアの安全保障への影響は限定的だ。当然のことながらロシア側もそんなことは分かっている。このミサイル配備への批判のタイミングは、昨年から始まった中国の「日本軍国主義批判キャンペーン」、そして高市政権叩きに呼応したものと見るべきだろう。
ウクライナという大きな問題が存在していて、そのために中国に擦り寄らざるを得ない。そのために口頭の批判といった日本に対して直接的な被害を与えない件であれば、中国に徹底的におもねる。それは高市早苗がトランプに擦り寄るのと全く同じ理屈だ。それが現在の構図だ。
しかし、ロシアでは、必ずしもそれで良いと考えられているわけではないようだ。そして、突破口の一つと見られているのが、意外にも日本なのである。
【つづきを読む】実はいま、ロシアで「ウクライナ戦争終戦」に向けたシナリオ作りが始まっている…日本人が知らない具体的な中身