なぜ世界は「日本の軽自動車」を真似し始めたのか? 欧州「30モデル以上」消失の小型車市場、制度変化が生む新たな市場構造とは

超小型EVシフトの真相

 電気自動車(EV)市場はこれまで、「高価格化」と「大型化」を前提に広がってきた。しかし近年、その前提が崩れつつある。欧州では、小型EVに特化した新たな車両区分「M1e」の導入が検討されている。

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 ステランティスは、日本の軽自動車を参考にした低価格EV「E-Car」の開発を発表した。米国でも超小型車の導入に向けた規制の見直しが議論されている。日本では軽EV市場がすでに複数のメーカーが競う領域として成立している。

 これらに共通するのは、EVをいかに安くするかという話にとどまらない点にある。どの大きさや規格の車なら市場として成り立つのかという前提そのものを見直している。バッテリーの価格、安全に関する基準、都市部の道路事情といった制約が重なり、従来の標準的な乗用EVは成立しにくくなっている。その結果として、小型で価格を抑え、用途を限った車が、制度や産業の中心に近づきつつある。

 本稿ではこの動きを、制度、市場、技術、事業者の構造という四つの観点から整理し、小型EVがなぜいま各地域で同時に注目されているのかを構造的に読み解く。

欧米で進む新車両区分

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風になびくEU旗(画像:写真AC)

 欧州委員会は、2025年秋ごろから新しいEV専用の車両区分「M1e」の導入を検討している。報道によると、全長3.5~3.8m、重量は約1t、出力は約40~50馬力の街乗り仕様と高速道路対応仕様の両方が想定されており、目標価格は1万5000ユーロ(約280万円)とされている。

 現在、欧州連合の乗用車区分は「M1」に限られている。それより小型の四輪車として「L1e」があるが、こちらは時速45km/h以下、最大車両重量425kgと制約が多く、用途も限られている。このため「M1e」は、欧州における新しい乗用車の枠組みを示すものとなる。

 米国でも動きがある。トランプ大統領は2025年12月に、超小型車の生産に向けた規制緩和を指示していた。連邦自動車安全基準(FMVSS)では、乗用車、トラック、多目的乗用車、バスといった区分しかなく、小型車向けの明確な枠はない。

「LSV」という小型車区分はあるものの、時速25マイル(約40km)未満、最大車両重量3000ポンド(約1361kg)という制約があり、用途は限定される。なお、トランプ大統領が示した超小型車の具体的な仕様は明らかになっていない。

 ただし、「M1e」や米国で想定される超小型車はいずれも、日本の軽自動車規格を参考にしているとされる。軽自動車は全長3.4m以下という基準を持つため、「M1e」はそれよりやや大きい水準になる可能性がある。ただし重要なのは、規制によって車の大きさや仕様を決める

「枠組みそのものが見直されている」

点である。車両サイズの基準は、EVの小型化や簡素化を進めるだけでなく、安全基準や環境基準、都市部の交通規制にも影響を及ぼす可能性がある。

中価格帯EVの深刻な空白

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MICRA(画像:日産自動車)

 これまでのEVは、高価格帯に寄った展開が中心だった。その背景には、バッテリー自体の価格の高さに加え、安全基準の強化や排出規制の厳しさ、開発費の増加がある。

 本来であれば、生産量の拡大により価格は下がるはずだが、希少金属や銅の価格動向も影響し、コストが下がるペースには限りがある。こうした事情から、自動車メーカーは中価格帯以下のEVを積極的に出す判断をしにくい状況にある。

 日産が欧州でコンパクトEVとして投入した「MICRA」でも、価格は27990ユーロ(約510万円)に達する。利用者の側から見ると、補助金を使った場合でも、走行距離や充電にかかる時間、充電施設の整備状況を合わせて考えると、購入は可能でも割高に感じやすい水準にとどまる。

 一方で、自動車メーカーが中価格帯以下のEV投入に慎重になる中、欧州ではコンパクトカーの車種数が10年前と比べて30モデル以上減っている。小型車を求める利用者が十分に満たされないまま、中価格帯EVの不足という問題が残っている。

小型EVに挑む大手各社

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「E-Car」プロジェクトのプレスリリース(画像:Stellantis)

 中価格帯EVの品ぞろえ不足に対応するため、小型EVを投入する動きが出ている。フィアット、プジョー、クライスラーなどを傘下に持つStellantisは、2028年を目標に小型EV「E-Car」の開発を進めている。新設が検討されている車両区分「M1e」に合わせた位置づけで、「手頃な価格で買える小型で見た目にも配慮したEV」という需要に応える狙いがある。

 さらに「M1e」では、車両1台あたり1.3台分として扱うCO2排出クレジットの優遇措置も検討されており、他の自動車メーカーにも小型EVの投入が広がる可能性がある。

 中国の比亜迪(BYD)は、2026年の夏に軽EV「ラッコ」を日本に投入する計画だ。これにより日本市場では、日産「サクラ」、三菱「eKクロスEV」、ホンダ「N-ONE e:」「N-VAN e:」、さらにトヨタ・ダイハツ・スズキの3社が共同開発した軽バンEV、そして「ラッコ」が加わり、軽EVの選択肢がそろいつつある。

 BYDは「M1e」区分の動きも見ており、将来的に「ラッコ」の欧州投入も視野に入れている。「M1e」や米国の超小型車区分が制度として固まれば、軽EVは価格の安い車という枠にとどまらず、制度に合わせた車として世界のEV市場に影響を与える可能性がある。

世界が軽に近づく背景

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スズライトSS(画像:スズキ)

 日本で軽自動車市場が広がり、今の形に落ち着いたのは、

・自動車メーカーの事情

・需要の変化

・道路の条件

・税制の仕組み

などが重なった結果である。メーカー側から見ると、小型で比較的作りやすい点がある。1949(昭和24)年の法改正で、それまでの「小型自動車」が「小型自動車」と「軽自動車」にわけられ、1950年代半ばにかけて中小企業や異業種の企業が製造に加わるようになった。

 需要面では、高度経済成長期に小口の運搬需要が増え、三輪や四輪の軽トラックの生産が伸びた。その後の成長期には乗用車の需要も取り込む形になった。さらに、道幅の狭さなどの道路条件や税制上の優遇もあり、軽自動車が選ばれる要因となった。

 欧州でも、都市部では道路の幅や駐車スペースの制約から、小型の車が求められている。環境面の課題への対応という点でも、EVの需要を広げる手段として「M1e」を導入する意義があると考えられる。米国では、報道を見る限り低価格性や実用性への関心が高い。このように、軽自動車に近い枠組みが求められる理由は地域ごとに異なる。

 つまり、日本の軽自動車が意図して求められたわけではなく、それぞれの課題を踏まえて検討した結果として、

「日本の軽自動車に近い仕組み」

に行き着いたということになる。

普及を占う3シナリオ

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電動車のグローバル販売台数とパワートレイン別構成比(BEV/PHEV/HEV)(画像:マークラインズ)

 軽EVは、都市部での使い勝手が高く、小型車を求める需要にも応えやすい。価格面でも新しい市場を生む可能性がある。ただし、市場はまだ立ち上がりの段階にある。今後の見通しとして、「穏当」「楽観」「悲観」の三つが考えられる。

 穏当の場合、欧米で規格として整えられるが、広がるのは道路条件が合う都市部に限られる。自動車メーカーも、欧州のようなCO2排出クレジットの優遇がなければ、利益の少ない軽EVの生産には慎重な姿勢を続ける。

 楽観の場合、扱いやすさや小回りの良さ、価格の面から利用者を多く集め、急速に広がる。自動車メーカーは利益は薄くても数を売る形で参入し、加えて作りやすさから新興のEV専業企業も参入する流れになる。

 悲観の場合は、規制や基準の制約により、軽EVを投入できる国や地域が限られ、市場の広がりが止まる。例えば米国道路安全保険協会(IIHS)によると、現行の安全基準では軽自動車への適合は難しいとされている。

 このように、軽EVの広がりは技術や価格だけでは決まらず、CO2排出クレジットや安全基準といった制度の整い方に左右される部分が大きいのだ。

性能からサイズへの転換

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サクラのインテリア(画像:日産自動車)

 今の軽EVへの流れは、実用性や道路事情への対応、さらに価格面での評価が重なっている。欧州ではEVを広めたい政策の意図とも重なり、車両区分の新設という動きにつながりつつある。これは、これまでのEVが進んできた高価格化中心の流れとは明らかに異なる。EVに求められる条件が、性能よりも

「車の大きさや区分」

のほうへ移ってきたともいえる。ただし軽EVは、今の制度、市場、技術の中でのひとつの調整点にとどまる。世界で広く使われるには、安全基準の見直しや、自動車メーカーが参入しやすくなる制度面の支えが必要になる。

 それでも、市場は広がりと縮小を繰り返す中で動いており、軽EVの位置づけも変わりつつあることは確かである。読者の皆さんは軽EVが世界で広く使われる車になると見るか、それとも特定の地域に限られた存在のままと見るか――。