新幹線の“見返り”から40年… なぜ埼玉の短距離路線が「満足度2位」へと躍進したのか?
県内人気路線の地位確立と躍進
大東建託は2026年5月13日、居住満足度調査「いい部屋ネット 街の住みここちランキング2026<埼玉県版>」の結果を発表した。調査は、調査会社の登録モニターを対象に、インターネットで調査票を配布・回収し、生活の便利さや静かさ、治安など8項目を偏差値化して分析したもの。回答者は埼玉県に住む20歳以上の男女で、調査期間は2022年~2026年(一部回答は2019年~2021年を追加)。計4万9359人分を集計した。このうち、最寄り駅別の人気ランキングでは、1位がJR京浜東北線の浦和駅、2位が埼玉新都市交通伊奈線(ニューシャトル)の加茂宮駅、3位が同じくニューシャトルの東宮原駅だった。
【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが63年前の「浦和駅」周辺です!(計10枚)
ニューシャトルは9位にも羽貫駅が入り、県内でも人気の高い路線のひとつであることがうかがえる。とくに2位の加茂宮駅は、前年の14位から大きく順位を上げた。同駅は、さいたま市が指定する「副都心景観拠点(日進・宮原地区)」の区域内にあり、周辺では再開発や宅地開発が進行。比較的短い期間で人気の街となった。
1位の浦和駅は、JR各線で東京方面へ直通列車が運行され、一定規模の商業施設が集まる一方、落ち着いた住宅街も広がる。県内では以前から人気駅として知られていた。一方、ニューシャトルは東京方面へ直通する路線ではなく、始発の大宮駅を除けば知名度もそれほど高くない。そのため、今回のランキング結果はやや意外な印象を与えている。
新幹線の補償から始まった歴史

ニューシャトルの終点・内宿駅(画像:写真AC)
埼玉新都市交通伊奈線(ニューシャトル)は、1983(昭和58)年に大宮~羽貫間が先に開業し、1990(平成2)年に羽貫~内宿間が開業した。全長12.7kmの第三セクター鉄道である。
もともと大きな利用を見込んで計画された路線ではなく、東北・上越新幹線の高架建設にともなう地元自治体への補償として整備された経緯がある。新幹線が高速で通過するだけの地域にとっては負担も大きかったことから、埼玉県とJR東日本グループがそれぞれ35%を出資し、そのほか沿線自治体なども加わる形で発足した。
軌道は、東北・上越新幹線の高架の張り出し部分に沿って整備された。ゴムタイヤ方式の新交通システムを採用したのは、一般の鉄道ほどの利用が見込まれていなかったことに加え、高架の張り出し部分に併設する都合から、車両を小型化する必要があったためだ。また、新幹線の騒音対策という面からも、騒音を抑えやすいゴムタイヤ方式が適していた。
なお、東北・上越新幹線の高架建設にともなう補償という点では、大宮~赤羽間に整備されたJR埼京線も同様である。ただ、こちらは一定の利用が見込まれていたため、一般的な鉄道として建設され、現在に至っている。
ニューシャトルは、新幹線関連の事業として整備された経緯から、初期の建設費負担を抑えることができた。一方で、利用需要を前提に整備された路線ではなかったため、開業当初の経営は厳しかった。1987年には、埼玉県と沿線自治体、JR東日本が経営支援を開始し、車両購入費や駅施設への支援を行っている。
債務を解消した三セクの優等生

沿線最大の集客施設・鉄道博物館(画像:鉄道博物館)
その後は、各種支援に加え、沿線開発が進んだことで利用客が増え、経営状態も改善した。2007(平成19)年に沿線で開館した鉄道博物館も、新たな利用を生み出した。2013年度決算では累積債務を解消。近年は営業利益、純利益ともに黒字基調が続いている。
同社は公式サイトで、直近の損益計算書(第45期、2024年4月1日~2025年3月31日)の要旨を公表している。これによると、同期の営業収益は35億9600万円、営業利益は3億1100万円、純利益は4億200万円で、利益率は11.2%だった。営業収益は前期比3.1%増、純利益は同12.6%増となった。純利益はコロナ禍で一時赤字となったものの、その後は回復している。
また、埼玉県の公式サイトでは、県が出資する株式会社の情報公開ページを掲載している。これによると、2025年12月18日時点で、同社に対する補助金、利子補給金、税の減免額、金利軽減額、債務残高、貸付金残高はいずれもゼロとなっている。
埼玉県は同社へ出資し、常勤役員ひとりを派遣しているが、累積債務の解消後は、公的支援はほとんど行われていない。赤字や補助金頼みの第三セクター鉄道が多いなか、同社は本業で利益を確保しており、
「第三セクターの優等生」
と見る声もある。ニューシャトルは、特殊な経緯で開業し、当初は厳しい経営が続いた。しかし、今回のランキング結果は、長い年月を経て、県内でも人気路線のひとつとなった現状を示している。
値下げ要望と慎重経営の板挟み

埼玉新都市交通の公式サイト(画像:埼玉新都市交通)
一方、安定して利益を確保している同社に対しては、近年、「運賃、とくに通学定期が高い」との声も出ている。自治体が出資する第三セクターである以上、利益が出ているのであれば、沿線住民へ還元すべきだとする意見である。
埼玉県議会では、2018年12月定例会の決議で、「通学定期乗車券運賃の値下げに向けた検討を行うよう、県が埼玉新都市交通株式会社ニューシャトルに対して働き掛けること」を求めていた。2019年6月定例会では、議員からの質問に対し、上田清司知事(当時)が、引き続き会社側へ働きかける考えを示した。一方で、鉄道事業は設備更新や車両交換に備え、多額の資金を積み立てる必要があり、運賃は会社の経営判断との認識も示している。
また、埼玉県の石川英寛企画財政部長(当時)も、鉄道事業は運賃収入などによる経営が基本であり、通学定期値下げのために運賃補助を行うことは望ましくないとの考えを示していた。値下げをめぐる議論は、現在も埼玉県議会などで続いているが、実施には至っていない。こうしたなか、同社は公式サイトで2026年2月16日、
「2026年3月の運賃改定は実施いたしません」
と発表した。多くの鉄道事業者が2026年3月に運賃改定(値上げ)を予定していることから、同社にも問い合わせが相次いだためとしている。ただ、この発表は値下げも行わないという姿勢を示したものとも受け取れる。
経営環境や事業規模が異なるため単純な比較はできないが、第三セクター鉄道では、秋田県の由利高原鉄道が通学定期を大幅に値下げした結果、利用客が増えた事例もある。一方、同社は将来を見据え、当面は慎重な経営を続けるとみられる。