カツ丼を片手で 栃木市ツルミ食堂の「カツ煮まん」はなぜ生まれたのか 「フタすら開けられてなかった…」きっかけは「子ども連れのお母さん」

栃木市にある「ツルミ食堂」の人気商品「カツ煮まん」。カツ煮を具にした中華まんだが、店主の鶴見恵子さんが2012年に開発した。そのきっかけは「子ども連れのお母さん」だった。前編では開発秘話を聞いた。
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蒸したての「カツ煮まん」を一口ほおばると、じゅわっと甘辛のタレがしみたカツがゴロゴロと出てきた。肉のうまみがガツンとくるが、玉ねぎ、卵と相まってやさしい味わい。ほのかに甘いモチモチの皮との相性もばつぐんだ。

この「カツ煮まん」は、栃木市にあるツルミ食堂の人気商品で、店主の鶴見恵子さんが、看板メニュー「カツ丼」を食べやすいようにと開発したもの。「バナナマンの早起きせっかくグルメ!!」などテレビでも取り上げられ、多いときは1日で50個ほどがすぐに売り切れる。
しかしなぜカツ丼を中華まんにしたのか。そのきっかけは、子ども連れのお母さんの姿だった。
■「これは難しいなと」
食堂を継いで5年ほど経った2012年のこと。鶴見さんはあることが気になっていた。
「カツ丼を頼まれた子ども連れのお母さんに、食後にコーヒーをお持ちしようかと思って声をかけたら、『まだ食べ始めてないんです』と。カツ丼のフタすら開けられてなかったんです」
子どもの食事の面倒を見るのに忙しく、子どもが食べ終わるまで母親は食事ができない。何度かこういうことが続き、鶴見さんは子ども連れのお母さんにも熱いうちにカツ丼を食べてもらえないかと考え始めた。
片手で食べられるようにしたらいいのではと、最初に思いついたのは「おにぎり」。具をカツ煮にしようと考えた。
「でも、カツ煮の汁が多すぎて、おにぎりにしたときにポロポロと崩れてしまって。丸められないし、食べづらいし、これは難しいなと」

それでもなんとかおにぎりにできないかと悩みながら研究していると、店の手伝いをしてくれている鶴見さんの高校時代の友人がポロッと言った。
「中華まんは? ピザまんとかカレーまんとかあるくらいだから、カツ丼を中に入れてもいいんじゃない?」
そうか! 鶴見さんは、すぐに中華まんの開発にとりかかる。しかし作ったことのない料理。まずは本やネットでレシピを集めるところからスタートした。
■何度も試作を重ねた
鶴見さんの思いは、自慢のカツ丼そのままの味を食べてもらうこと。それをどうやって中華まんで再現したらいいのか。試行錯誤の日々が始まった。
まず皮はお米のようにもちもちとした食感を出すため、米粉を使用することにした。生地に入れる油はカツを揚げるラードを使うことで、カツ丼の味わいに近づけた。さらに少し甘味を出すために砂糖を少々。
だが、米粉の分量が多すぎると餅のようになってしまうし、少なすぎると生地のもっちり感が失われる。砂糖の分量も難しく、すべてを調和させる配合を見つけるまで、何度も試作を重ねた。
カツ煮も一工夫が必要だった。カツ丼で提供するカツ煮をそのまま入れると、カツが大きすぎて食べづらい。肉を一口サイズに切り、一つひとつ衣をつけて揚げ、最後にフライパンで煮つけて卵でとじる。タレは、祖父の代から50年以上継ぎ足して使っている秘伝のタレ。カツ丼より少し濃いめにすると、皮とのバランスがよくなった。
「一つひとつ包んでいくので、正直、カツ丼よりも手間はめちゃくちゃかかるんです。でも、これでお母さんたちに喜んでもらえるなら価値があると思って」

閉店後や、休日を使って、毎日のように試作を作った。そのつど常連の客に食べてもらい、「ツルミのカツ丼の味」になっているかを確認してもらう。「これだと味が薄すぎる」「皮との相性がよくないね」など客の感想をもらっては、少しずつ改良を重ねる。約半年間、試作を1千個以上作って、常連から「これはツルミの味だよ!」とお墨付きをもらった。
店でカツ煮まんを出し始めると、鶴見さんの狙い通り、子ども連れのお母さんが頼んでくれた。
「でも、お母さんが食べていると、子どもさんが『私も食べる!』と言って取られちゃって、結局お母さんは食べられないことも多いんです(笑)。ただ、お土産で買って帰る方が増えました」
最初は店での提供しか考えていなかったが、ある日、地域で祭りが行われた際に、「カツ煮まんをふかして売ってよ」と頼まれた。売れるのかな、と半信半疑だったが、出してみると大好評。大勢の客がカツ煮まんを買ってくれた。
■1日に50個作るのが精いっぱい
そんなに人気ならと、冷凍のカツ煮まんをテイクアウトで販売すると、鶴見さんが思った以上の広がりを見せていく。
昼食に一つのカツ煮まんを半分ずつ分け合って食べるのがちょうどいいという年配夫婦や、遠くに住む子どもに送りたいという母親が買いに来てくれた。そして「片手で食べられるから夜食にいい」と受験生を持つ親が来たときは、「勝」の焼き印を押したカツ煮まんを用意した。
「カツだから縁起もいいんです」
人気メニューとして定着し、今では冷凍のカツ煮まんを通販で買えるようにしているが、鶴見さんは手で一つひとつ作ることにこだわっているため、1日に50個作るのが精いっぱい。
「機械を導入して大量生産することもできるとは思うんです。でも、カツ丼を1杯ずつ作ってお客さんに出す気持ちと同じように、自分たちの思いも一緒に包んで完成させるのが、私の性には合ってるかな」
(AERA編集部・大川恵実)
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