低迷するロシア経済、回復の見通しはあるか 「戦費」が尽きても攻撃が続けられる理由とは

5月9日、記者会見するロシアのプーチン大統領=モスクワ(タス=共同)

 ロシア経済は2025年に続き26年初頭も低迷が続いた。そこで始まったイラン戦争。経済は息を吹き返すのか。ロシアには5年目に入ったウクライナ戦争を続ける力がなお残されているのか。北海道大スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授に聞いた。(共同通信=太田清)

服部倫卓氏(本人提供)

▽元凶はすべて戦争にある

―開戦時の2022年を除き、23、24年と高成長が続いたロシア経済も昨年25年には成長率1・0%と明らかに鈍化の兆候が表れた。この状況をどう見ればいいでしょうか。

 「一言で言って、軍需産業を中心に経済を引っ張っていく『軍事ケインズ主義』(ケインズ経済学における「不況期の財政出動(公共投資)」の代わりに軍事支出で経済をけん引してもよいという考え)が限界を迎えたということだ」

 「ロシアでの軍事ケインズ主義の弊害として、まず挙げられるのが慢性的な人手不足だ。徴兵を嫌った若者の海外流出や軍事産業による労働力の囲い込みで、ほぼ完全雇用となり、人手不足が深刻化した。24年頃には飽和点に達し成長を阻害した」

 「次に、巨額の軍事費などによる財政赤字穴埋めのための政府借り入れが、民間経済を圧迫するという『クラウディングアウト』が発生した。さらにインフレ抑制のために一時政策金利を21・0%まで引き上げたことで景気を冷え込ませた。現在は段階的に引き下げ14・5%となったが、なお日本など西側と比べればすさまじい高金利だ。こうした弊害の元凶はすべて戦争にあり、責任は政府にある」

▽油価

―他に、経済にかかわる要因はありますか。

 「対外的な要因としては、ロシアの主要輸出品である石油価格の低迷がある。ロシアの代表的油種であるウラル原油価格は制裁の影響で買いたたかれた上、軍事支出など歳出は拡大し、石油・ガス税収に頼る予算の赤字は深刻化。25年の財政赤字は国内総生産(GDP)比2・6%の約5兆6000億ルーブル(約12兆4000億円)と、現代ロシアで最大の赤字幅となった」

 「ロシア政府は天然資源頼みという予算構造の弱みを十分認識しており、非石油・ガスからの歳入の割合は近年、高まっているものの、付加価値税など安定財源と比べると石油・ガス歳入の変動幅は大きく、その減少は予算に大きな影響を与える」

ホルムズ海峡付近で停泊中、飛翔体の衝突により損傷したとされる韓国の貨物船(韓国外務省提供・共同)

▽イラン情勢の影響は?

―そこで今年2月28日、米国とイスラエルがイランを攻撃、ホルムズ海峡封鎖もあり世界的に油価が跳ね上がりました。これは、ロシア経済にとっては、プラスに働いたのでしょうか。

 「全面的にすぐ好転するかといえばそうではない。貿易黒字基調と高金利により通貨ルーブル高が続いており、輸出企業の収益悪化、予算歳入減を招いている。また、国内の燃料価格抑制のため、国が石油会社に補助金を出す仕組みが歳入増を打ち消している。とはいえロシア経済が一息ついたのは間違いない」

―今年第1四半期の赤字額が約4兆5800億ルーブルと、既に通年予想の3兆8000億ルーブル(対GDP比1・6%)を超えています。

 「今年4月の赤字幅は予想より縮小した。イラン情勢の緊張がこの1年続き、ウラル原油が1バレル=100ドル超を維持できれば、当初見込みの赤字幅に収まる可能性はある。経済の大幅な悪化には至らないこともありうる」

―ウクライナが3月以降、ロシア中部、南部などの石油施設を無人機で重点的に攻撃、石油精製能力に打撃を与えたとの報道もあります。

 「新型コロナウイルス感染症の流行時と同じくらい、生産量が減少したとの報道もあるが輸出量は落ちていない。ロシア政府は流通の目詰まりに過ぎず解消に努めるとしているが、今後の進展を注視する必要はある」

▽出口模索も

―プーチン・ロシア大統領は5月9日の戦勝記念日の記者会見で、戦争が「終結に近づいている」と発言。さまざまな観測が飛び交った。この発言は、どう受けとればよいでしょうか。

 「ロシア経済は短期的にはイラン戦争の影響で持ち直すかもしれないが、中長期的には戦争という根本的な原因は解消されておらず、その継続に伴うひずみが蓄積している。プーチン氏には経済状況が厳しくなっているとの認識はあり、国民の不満も考慮して戦争の出口を模索し始めている可能性もある」

▽戦費の問題ではなく…

―経済が低迷し、戦費が尽きれば戦争を終えざる得なくなるのでしょうか。

 「『いつ戦費が尽きるか』というのは愚問だと考えている。ロシアには油価が高い時代に蓄積した『国民福祉基金』があり、これが底をつきかけているというのは事実だ。

 しかし、こうした財源が尽きればすぐに、継戦能力も尽きるというのは間違いだ。実際の国家の経済運営には課税、国債発行、通貨・為替政策、軍需への資源再配分と言った政策手段はいくらでもあり、名目的戦費は相当期間、動員可能だ。特にロシアのように資源という外貨獲得源を持ち、反対派や国民の不満を一定程度抑え込める体制では、なおさらそうだ。

 むしろ、ロシアがどの程度、戦争による経済的ゆがみや次世代への負担など、将来コスト、つまりロシアの未来を削る用意があるかにかかっている」

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 はっとり・みちたか

 1964年静岡県生まれ。北海道大大学院文学研究科博士後期課程修了。ロシアNIS経済研究所長を経て、2022年10月から現職。