「人殺した」も実家まで送り届け…保護見送りは妥当か 母娘殺害・容疑者死亡で遠のく解明

大山賢二容疑者がかつて住んでいた民家(手前)と、母娘の遺体が見つかった住宅(左奥)=5月28日、兵庫県たつの市(久保文音撮影)
容疑者死亡により、真相解明は大きく遠のいた。兵庫県たつの市の母娘殺害事件で指名手配され、3日に遺体で発見された大山賢二容疑者(42)について、兵庫県警は事件発覚前に職務質問し、「人を殺した」という話も聞いていた。しかし、信憑(しんぴょう)性が薄いと判断し、当時は捜査に着手しなかった。意味不明なこともつぶやいていたというが、身元を引き受ける人もいない状態で保護を見送っており、有識者は一連の対応について検証の必要性を指摘する。

遺体で発見された大山賢二容疑者(兵庫県警提供)
明確なやり取りできず

母娘の遺体が見つかる3日前の5月16日夜、同県高砂市内の路上で寝ていた大山容疑者を高砂署の警察官が発見、不審事由ありとみて職務質問していた。
「人を殺した」「たつの」。そんな言葉を口にしたため、警察官は署まで同行を求め、そこで改めて話を聴いた。だが単語をぼそぼそとつぶやくのみで、被害者や日時、場所などについて、明確なやり取りができないような状態だった。
警察官職務執行法は、泥酔や精神錯乱で自傷他害の恐れがある場合や、保護者を伴わない病人などについては「保護しなければならない」と規定する。ただ、容疑者は飲酒や薬物の服用をしている様子もなく、返り血のような痕跡や凶器の所持も認められなかったため、警職法の保護要件に該当しないと判断。その後、署から直線距離で約30キロ離れたたつの市内のかつての実家のある事件現場周辺まで、警察車両で送り届けていた。
「自力帰宅が筋では」県警OB指摘
「結果から振り返れば『こうすべきだった』というのは分かるが、当時われわれは殺人を全く覚知していなかった」。ある県警幹部はこう説明、署の対応は「やむを得なかった」とする。
これに対し、ある県警OBは「保護対象ではないと判断したのなら自力で帰宅してもらうのがルールのはずだ」と指摘、実家付近まで送り届けたことに首をかしげる。
容疑者の実家だった民家は一見して廃屋と分かるような荒れ具合で、玄関まで立ち会っていれば異常に気付けた可能性もある。ただ付き添いの警察官は、その周辺の路上で、身元引受人もいない状態で容疑者を車から降ろしていた。
「たとえば泥酔者や高齢者は玄関先まで送っても、そこで倒れて死んでしまうことがある。ちゃんと家族に安全を確保してもらわなければ」。何度も保護にたずさわった経験のある元警察幹部もこう話し、「引き渡す相手がいなかったのなら、保護すべきではなかったか」と疑問を呈した。
「プロセス説明を」
元警察大学校長の田村正博・京都産業大名誉教授は「『人を殺した』といっても、具体性がなければ拘束はできない」としつつ、県警に対し「対応に疑念が持たれている以上、プロセスや判断について、世の中に明らかにすることが大事だ」と求めた。