なぜハイブリッド車が欧州新車販売で「34%」を占める事態になったのか? 多様な技術評価への移行が選択肢の広がりを生み出した理由

全工程の環境負荷評価

 電気自動車(EV)は、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない乗り物として広まってきた。しかし近年は、製造から輸送、使用、廃棄までの全工程における環境負荷を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を取り入れる動きが世界に広がっている。この考え方が広まるにつれ、欧州の電池規制や炭素国境調整措置にみられるように、環境負荷の算定は国際取引における新たなルールや市場参入の条件になりつつある。世界各地で事業を展開する企業にとって、排出量全体を把握し管理する力が競争力のひとつとなっている。

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 なかでもEV用電池の製造時に発生するCO2排出量は、供給網全体で大きな関心を集めている。EVはハイブリッド車(HV)よりも大型の電池を搭載するため、製造段階だけでHVより数トン多くのCO2を排出する場合があることが報告されている。このため、部品メーカーを含む関係各社の間では、製造工程ごとの排出量を共有する取り組みが世界各地で進んでいる。調達の仕組みも、電子化や情報共有の進展によって、これまで以上に結び付きが強まっている。

 また、EVの環境面での効果は、その国や地域の発電方法に大きく左右される。化石燃料による発電の割合が高い中国や東南アジア、ポーランドなどでは、発電時のCO2排出量が多いため、全工程で見るとEVの排出量がHVを上回る可能性も指摘されている。地域ごとの電力事情や製造工程まで含めて考えると、HVのほうが環境負荷を低く抑えられる場合もある。

 世界ではEVへの移行が進む一方、市場ではHVへの需要が再び高まっている。こうした動きからも、EVだけが選択肢ではない現実が見えてくる。走行時の排出量だけに注目していた初期の見方から、製造工程や電力供給まで含めて評価する考え方が広がったことで、CO2削減への取り組みは、より幅広い視点で進められるようになっている。

欧米のEV減速と市場の成熟

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自動車の排ガス(画像:Pexels)

 急速に拡大してきたEV市場だが、2024~2025年にかけて欧米の主要市場では販売の伸びが鈍っている。この動きは市場の後退を意味するものではなく、購入者の中心が環境意識の高い初期層から、価格や使い勝手を重視する一般層へ移ったことで生じた変化と見ることができる。評価の軸が新しさから日常での使いやすさへ移ったことで、市場はより広い層へ広がる段階に入っている。

 実際の数字を見ると、市場の主役の変化がより鮮明になる。欧州自動車工業会(ACEA)が発表した2025年の新車販売データによると、HVの販売台数は前年比12%増の456万6850台に達し、19%減の346万7041台へと落ち込んだガソリン車を初めて上回って動力源別で首位に立った。補助金支給の対象外でありながら新車全体の34%を占めており、手頃なエコカーとしてHVが深く浸透している様子がうかがえる。一方、一時期需要が停滞したEVも258万5187台(前年比30%増)と回復の兆しを見せ、シェアは20%に達したものの、価格の高止まりから補助金なしでも選ばれるHVの堅調さが際立つ形となった。なお、プラグインハイブリッド車(PHV)も33%増の127万2901台と大きく数字を伸ばしている

 この需要を巡り、メーカー側の競争の構図にも変化が起きている。これまでHV市場をけん引してきたのは世界で過去最高水準の販売を維持するトヨタ自動車などの日本勢だが、足元では欧州勢の巻き返しが目立つ。特にプジョーなどを傘下に持つステランティスは、低電圧の仕組みを組み込んだHVなどの拡充により欧州でのHV販売シェアを18%に伸ばし、トヨタを上回った。ルノーによる新エンジンの開発や、フォルクスワーゲン(VW)による初のフルHV開発方針の表明など、欧州主要各社が相次いでHVの手当てを急いでいる。これに対し、EV専業の米テスラが販売を27%減らす一方で、中国の比亜迪(BYD)が追加関税の中で3.7倍に急伸するなど、EVプレイヤーの間でも明暗がわかれている(以上、『日本経済新聞』2026年1月27日付け)。

 こうした市場の動きの背景には、利用者の暮らしに即した極めて現実的な判断がある。EVは依然として車両価格が高く、急速充電設備の整備状況にも地域差がある。また、電池の劣化に対する不安も残っている。こうした課題に加え、中古車として売却する際の価値の維持も、個人利用者や多くの車両を保有する事業者にとって重要な判断材料となっている。市場の見方は、将来への期待を重視する段階から、保有費用や利用時の利便性を含めた実際の価値を見極める段階へ移りつつあり、市場全体が次の安定期へと進み始めている。

重要鉱物の偏在と調達網リスク

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製錬工程のイメージ(画像:Pexels)

 EVの普及を進めるうえで、原材料の供給に関わる不安への対応は、産業全体の安定性を高める取り組みにつながっている。電池に欠かせないリチウムやコバルトなどの重要鉱物は、コンゴやチリ、中国など一部の地域に偏って存在している。そのため、地域紛争や国際関係の変化によって供給網全体が影響を受けやすい。

 こうした状況を受け、米国のインフレ抑制法(IRA)や欧州の重要原材料法(CRMA)など、自国内や域内での調達を重視する政策が進められている。これにともない、自動車メーカー各社は、これまでの世界規模の調達網に加え、地域ごとの調達体制を整えるための投資を進めている。供給先を分散し、調達経路を複数確保する動きも広がっている。

 原材料価格の変動も大きい。リチウム価格は2023年に前年の最高値と比べて80%超下落した一方、その後は再び上昇する動きも見られる。こうした価格変動はEVの製造コストを不安定にする要因となるが、同時に資源の有効活用へ目を向ける動きも広げている。使用済み電池から重要鉱物を回収する技術の開発や、役目を終えた電池を定置用蓄電池として活用する事業など、資源を循環させる取り組みが広がりつつある。

 また、重要鉱物の精製工程では中国が大きな割合を占めている。米中対立が続くなか、供給網の安定確保が課題となっており、産業界では原材料リスクを抑えるため、代替材料の活用や新たな電池技術の開発が進められている。

 一方、HVは既存の部品供給網を活用しやすく、大量生産を前提とした調達体制がすでに整っている。EVほど多くの重要鉱物を必要としないため、製造コストの安定性にも強みがある。電動化を進めるうえでは、環境負荷の低減だけでなく、原材料の確保や供給網の安定性も含めて高めていくことが、産業の持続性を支える重要な課題となっている。

既存インフラの活用と費用効率

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充電設備(画像:Pexels)

 CO2の削減策を評価する際には、削減量だけでなく、その効果が費用に見合うかを確かめることが欠かせない。環境省の試算によると、製造から廃棄までを含めた全工程で見た場合、CO2削減に対する費用効率はHVがEVの6倍以上になる場合があるという。同じ量のCO2を減らす場合でも、社会全体の費用負担という観点では、それぞれの技術が異なる役割を担っている。

 その理由のひとつは、必要となる設備投資の規模の違いにある。EVの普及には急速充電設備の整備が欠かせず、全国規模で進めるには兆円単位の投資が必要となる。一方、HVは既存のガソリンスタンド網を活用できるため、新たな社会基盤への投資を大幅に抑えられる。

 こうした既存設備は、現在の利便性を支えるだけではない。将来は水素や合成燃料など新たなエネルギーを供給する拠点として活用できる可能性もある。そのため、今ある設備を生かしながら段階的に移行を進める手法は、費用を抑えつつ環境対策を進める方法として注目されている。

 また、各国政府の間では、補助金に頼ったEV普及策が財政面で長く続けられるかを見直す動きも出ている。これにともない、将来の道路維持を見据えた自動車関連税制のあり方についても議論が進み始めた。限られた財源の中で、どの技術にどの時期まで支援を行うべきかという視点は、産業全体の今後を考えるうえで重要性を増している。

利用環境で異なる最適な技術

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自動車選びのイメージ(画像:Pexels)

 EVとHVのどちらが適しているかは、利用者の立場や使用環境、走行条件によって異なる。そのため、それぞれの特性に応じた使いわけが進んでいる。

 利用者の視点では、HVは購入時の負担が比較的少なく、維持費も抑えやすい。航続距離への不安も小さく、日常利用での扱いやすさに強みがある。一方、EVは市街地での利用や、自宅に充電設備を持つ利用者に向いている。また、夜間にまとめて充電し、日中に決まった経路を走る配送業務などでは、静粛性や運行コストの低さを生かしやすい。

 これに対し、長距離輸送や充電環境が十分でない地域では、HVやPHVのほうが適している場合が多い。利用目的や走行条件に応じて最適な技術を選ぶ市場へと変化が進んでいる。

 メーカーの視点では、トヨタやホンダなどが長年培ってきたHV技術が、改めて競争力として評価されている。一方で、EVへ大きく力を注いできた欧州メーカーの中には、市場環境の変化に対応するため方針を見直す動きも見られる。生産現場では、同じ生産ラインでEV、HV、エンジン車を柔軟につくりわける取り組みが進んでおり、需要の変化に対応しやすい体制づくりが広がっている。

 各国の政策にも変化が見られる。欧州では2035年のエンジン車販売禁止を巡り、PHVや合成燃料を含めた複数の選択肢を認める方向で議論が進んでいる。また、新興国では電力インフラの整備状況や所得水準の事情から、HVへの需要が伸びている。

 CO2削減の進め方は国や地域によって大きく異なる。車両技術の選択は一律の優劣で決まるものではなく、それぞれの経済状況や社会基盤に応じて、多様な選択肢が併存する方向へ進んでいる。

技術の組み合わせと産業の融合

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自動車(画像:写真AC)

 今後のCO2削減では、「EVかHVか」という二者択一の見方から離れ、市場ごとの多様な需要に応じる段階に入っている。国や地域によって発電方法や経済水準、社会基盤の整備状況は大きく異なるため、ひとつの技術だけで世界全体の課題に対応することは難しい。

 こうした背景から、EV、HV、PHV、FCVなどを状況に応じて使いわける考え方が広がっている。複数の技術を組み合わせながらCO2削減を進める手法は、供給面や市場面のリスクを抑える方法として各国で受け入れられつつある。

 この流れは、自動車産業とエネルギー産業の結び付きを強めている。例えば、EVを蓄電池として活用し、電力網の需給調整に役立てる取り組みや、再生可能エネルギーから製造した水素や合成燃料を活用する試みが進んでいる。これにより、自動車は移動手段にとどまらず、電力利用の効率化にも関わる存在となりつつある。産業の枠を越えた新たな取り組みも広がっている。

 日本はHV技術で世界市場をけん引してきた実績を持つ。とりわけトヨタは、多様な技術を並行して進める方針を掲げてきた。市場環境の変化を受け、こうした現実的な取り組みは世界でも改めて評価されるようになっている。これは特定の技術の優劣を競うものではなく、不確実性の高い市場に対応するための柔軟な事業運営として受け止められている。

 今後は走行時の排出量だけでなく、製造から廃棄までを含めた全工程を対象に、技術や制度の効果を総合的に評価する考え方がさらに広がるとみられる。「EVか、それ以外か」という対立的な見方ではなく、客観的なデータに基づいて投資や技術開発を進めることが、産業と社会の持続的な発展を支え、CO2削減を着実に進めるうえで重要になる。