「必要な薬」が手に入らなくなる…患者たちが抱える恐怖 石破政権が「OTC類似薬」の保険適用廃止を検討へ

 13日に閣議決定された石破茂内閣の「骨太の方針」に、市販薬と効能やリスクが似た「OTC類似薬」への保険適用の見直し検討が明記された。これに対し、影響を受ける可能性がある難病患者やアレルギー疾患の当事者らが反発を強めている。医療費の大幅な削減などを掲げる日本維新の会の要求を自民党と公明党が受け入れた形で、医療の分野で「自己責任」が広がることを危ぶむ声が上がる。(山田祐一郎、福岡範行、木原育子)

◆適切な医療を受ける機会が奪われかねない

 「必要な人に必要な薬が適切に届くようにしてほしい」。「こちら特報部」の取材に、認定NPO法人「日本アレルギー友の会」の丸山恵理副理事長(64)がこう強調した。

◆適切な医療を受ける機会が奪われかねない, ◆「自己判断では副作用が出たり、症状悪化の可能性も」, ◆インターネット署名に8万5000筆以上集まり, ◆「医療費削減の問題が、巧妙にすり替えられた」, ◆与党が維新の提案を事実上「丸のみ」, ◆「目先のことだけ考えた付け焼き刃」

厚生労働省(資料写真)

 問題視するのは、「骨太の方針」に盛り込まれたOTC類似薬に対する保険給付見直しの動きだ。丸山さん自身も生後3カ月でアトピー性皮膚炎を発症して以来、治療を続けている。

 同会を含めアレルギーの当事者、支援団体などは11日、福岡資麿厚生労働相に要望書を提出。OTC類似薬の保険適用除外によってアレルギー疾患で悩む難治・重症患者が適切な医療を受ける機会が奪われかねないとして、当事者の声を議論に反映させることなどを求めた。

◆「自己判断では副作用が出たり、症状悪化の可能性も」

 「アトピー性皮膚炎の症状が正しく認識されていない。一定期間、薬を塗れば治る病気と考えられているのだろうか。一生続く問題だ」と切実な思いを語る。「人によって重症度が違う。ステロイド外用薬を使う場合も医師の指導があって初めて有効性を発揮する。自己判断で使用すると副作用が出たり、症状が悪化したりする可能性もある」

◆適切な医療を受ける機会が奪われかねない, ◆「自己判断では副作用が出たり、症状悪化の可能性も」, ◆インターネット署名に8万5000筆以上集まり, ◆「医療費削減の問題が、巧妙にすり替えられた」, ◆与党が維新の提案を事実上「丸のみ」, ◆「目先のことだけ考えた付け焼き刃」

丸山さんが処方されているアトピー性皮膚炎の薬。一部が保険適用除外となる恐れがある=本人提供

 子どものアレルギーはいじめや不登校、引きこもりの要因になる。大人の場合も悪化により就業できないなど社会生活を阻害される。保険適用外となって負担が増えることで治療の継続をあきらめる事態を危惧する。丸山さんは「重症化することで医療費削減の目的にも逆効果になりかねない」と指摘する。

 難病患者の中には、全額自己負担となった場合、生活を脅かしかねないケースもある。

 皮膚がはがれ、体温調節も困難な難病「魚鱗癬(ぎょりんせん)」を生まれつき患う会社員大藤龍之助さん(23)は、保湿塗り薬の「ヒルドイド」(50グラム入り)を毎月30本以上使う。母朋子さん(47)は「頭の先から足の先まで全身の皮膚がはがれたりする。薬がなければ全身に湿疹が出て、痛みで動けなくなる」と話す。

◆インターネット署名に8万5000筆以上集まり

 日常的に使う計3種類の薬の自己負担は現状で年に約3万円。全て保険適用されず薬局で買うと試算すると年約82万円に跳ね上がった。指定難病のため、月の負担の上限額を1万円とする助成があるがこの対象からも外れることになる。龍之助さんは「薬を買えなくなったら仕事にも行けなくなる」と漏らしたという。

 近年、ヒルドイドの美容目的での大量処方が問題視された影響で、医療費の審査支払機関からの指導で、それまで40本ずつだった処方が個別の事情を配慮されず、一時3本ずつに減らされたことも。朋子さんは「ヒルドイドは医療費削減に真っ先に当てられるのでは」と不安を抱く。

◆適切な医療を受ける機会が奪われかねない, ◆「自己判断では副作用が出たり、症状悪化の可能性も」, ◆インターネット署名に8万5000筆以上集まり, ◆「医療費削減の問題が、巧妙にすり替えられた」, ◆与党が維新の提案を事実上「丸のみ」, ◆「目先のことだけ考えた付け焼き刃」

医療機関の窓口に配備されたマイナ保険証の読み取り装置(一部画像加工)

3月にOTC類似薬の保険適用維持を求めるインターネット署名を開始すると8万5000筆超が集まり、今月18日、厚労省に提出した。アトピー性皮膚炎や腎不全の患者らが署名に寄せたコメントも添えた。「物価高の上に保険適用外?生きていけなくなってしまう」などの訴えが並んでいた。

◆「医療費削減の問題が、巧妙にすり替えられた」

 そもそも「OTC類似薬」とは何か。医薬品には三つの区分があり、効能が高く副作用などリスクが高い「処方箋医薬品」と、リスクが低く処方箋なしで薬局で買える「OTC医薬品」だ。OTCは「Over The Counter」の頭文字で、「カウンター越し」を意味する。これとは別に、効能やリスクはOTC医薬品程度だが、原則処方箋が必要なものを「OTC類似薬」としている。

 日本総研の成瀬道紀主任研究員は「何をもって類似なのか、OTC類似薬に定義はなく、グレーゾーンにある薬だ」とし、「OTC類似薬は現在7000品目あり、市場規模は1兆円規模に膨れ上がる」と説明する。

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社会保障改革に関する合意文書を交わす(左から)公明党の西田実仁氏、自民党の森山裕氏、日本維新の会の岩谷良平氏の3党幹事長=11日、国会で(佐藤哲紀撮影)

  OTC類似薬の保険適用除外には、現場の医師も首をひねる。インターパーク倉持呼吸器内科(宇都宮市)の倉持仁院長は「医薬品メーカーをもうけさせる仕組みに過ぎない。患者は負担が増えるので病院に行かなくなり、薬局で薬を購入するため業界は潤う。医療費削減の問題が、巧妙にすり替えられた」と話す。

 全国保険医団体連合会(保団連)事務局の本並省吾氏は「多くの患者が治療や症状を安定させるために使っているOTC類似薬が、保険適用から外されると、価格が格段に高い市販薬を買わなければいけなくなり、大幅な患者負担増になる。医師は価格が高くても保険適用される薬を処方するようになる。結局、医療保険財源は削減されず、医療費もかえって増加するのでは」と本末転倒になる懸念を語る。「保険料を払っても必要な薬が処方されない事態が一気に広がると、皆保険制度の崩壊にもつながりかねない」とも訴えた。

◆与党が維新の提案を事実上「丸のみ」

 ただ、薬剤師の資格を持つ成瀬氏はOTC類似薬は保険適用除外に賛成の立場だ。「日本の薬剤師は32万人おり、世界で突出して多いが、調剤業務に徹している。地域の軽症患者の対応はできておらず、本来の役割を果たしていないのではないか」と投げかける。「患者の自己負担増加による医療へのアクセス悪化を懸念する声もあるが、子どもや特定の疾患の患者へ例外的に保険適用するなど丁寧に制度設計することで対応可能だ。膨らみ続ける医療費を何とかせねばならない」と抜本的な議論を促す。

◆適切な医療を受ける機会が奪われかねない, ◆「自己判断では副作用が出たり、症状悪化の可能性も」, ◆インターネット署名に8万5000筆以上集まり, ◆「医療費削減の問題が、巧妙にすり替えられた」, ◆与党が維新の提案を事実上「丸のみ」, ◆「目先のことだけ考えた付け焼き刃」

参院本会議で日本維新の会の猪瀬直樹氏(手前)の質問を聞く石破首相㊨、福岡厚労相=4日、国会で(佐藤哲紀撮影)

 年間47兆円に膨らむ医療費削減の標的になったOTC類似薬。保険適用除外を強く求めてきたのが日本維新の会だ。参院予算委員会で、猪瀬直樹氏が1300億円余削減できる試算を示し、石破茂首相から「きちんと(骨太の方針に)書き込むというような認識で今後とも協議を進めていく」との答弁を引き出した。

 そして11日に自公維が社会保障改革に合意し、骨太の方針に盛り込まれた。少数与党の自公が維新の提案を事実上丸のみした形だ。

◆「目先のことだけ考えた付け焼き刃」

 長年、日本維新の会の母体の大阪維新の会を見てきたジャーナリストの吉富有治氏は「大阪維新は行政のコストカットによる行財政改革を掲げてきたが、うまくいったとはいえない。無駄をなくしてくれたとのイメージを持たれやすいが、本来必要だったものもカットして疲弊させてきた」と振り返り「今回も本当にカットしていいのか慎重に判断すべきだ」と話す。

 昨年の衆院選で過半数割れし、厳しい国会運営の自公。国民医療費の年4兆円削減、1人当たりの社会保険料の年6万円引き下げを掲げる維新との連携は何を意味するのか。

 ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「都議選で自公は敗走し、参院選の結果次第では、政策での部分連合や連立を模索することになる。その下地として維新の政策をのんだのではないか」と指摘し、こう訴える。「目先のことだけ考えた付け焼き刃で、改革のポーズに過ぎない。社会保障について全体を見据えた根本的な議論をすべき時にきている」

◆デスクメモ

 わが家もアレルギー疾患の子どもが10年近く保湿塗り薬を使い続けている。季節や体調によって症状は一進一退。今後も付き合い続けなければと覚悟している。ただ、それができるのも保険適用されているから。もっと深刻な人は多い。医療費削減の大義の下に切り捨てないでほしい。(祐)

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