女性を悩ませる「トイレの行列」…政府は何をやっている? 不安で外出ためらう人も 解決する日はくるのか

 休日の駅や商業施設など、外出先でよく目にする女性トイレの行列。石破政権の「骨太の方針」に「対策を推進する」と盛り込まれ、注目が集まっている。我慢してきた女性たちはどんな思いを抱えているのか。国は今後、工夫事例を紹介し、トイレ設置のガイドラインを作っていく。すっきり解決できる方策はあるのだろうか。(山田雄之)

◆男性用はスイスイ、女性用は行列…どうして?

 9月中旬の休日の昼下がり、東京都心部の商業施設に出向くと、女性トイレの前に15人以上の行列ができていた。

 20代とみられる男女が訪れ、「うわっ」「えーっ」と苦笑い。男性は女性に軽く頭を下げ、列がない隣の男性トイレに入ってすぐ出てきた。子連れで並ぶ別の女性は多機能トイレが空くと、周囲を気にしながら申し訳なさそうに入った。

◆男性用はスイスイ、女性用は行列…どうして?, ◆百瀬さんが調べてわかった「男女の不平等」, ◆トイレのタイミングを意識したり、水分摂取を控えたり, ◆女性のトイレ問題解決へ政府も動き始めた, ◆施設はどんな工夫をしている?, ◆「幅広い実態調査に基づきガイドラインの検討を」, ◆「学校にもトイレ問題がある」という声も

休日の商業施設の女性トイレ。長い行列ができている=東京都内で(読者提供)

 男性用は混んでいないのに女性用は行列ができる。駅やデパート、イベント会場でよく見かける光景。どうしてなのだろうか。

 「女性の方がトイレにかかる時間が長いのに、便器の数は男性の方が多いから」。こう即答するのは、東京都目黒区の行政書士、百瀬まなみさん(61)。首都圏を中心に駅や公共施設の不特定多数が使うトイレの便器数を調べている。

◆百瀬さんが調べてわかった「男女の不平等」

 きっかけは2022年夏、電車に長時間乗ってJR倉敷駅(岡山県)でトイレの列に並び、脂汗をかくほどの「ピンチ」を乗り切った後に目に入った案内図だった。女性用の個室4に対し、男性用は小便器4、個室3が設けられていた。小便器を含め、男性用は女性用の1.75倍あった。

 百瀬さんは以降、外出先のトイレをチェックし、X(旧ツイッター)で発信。駅や商業施設の便器の設置数は各事業者の判断に委ねられているといい、百瀬さんは案内図を基本に、図がない場合は一緒にいた知人男性や掃除スタッフに手伝ってもらいつつ、情報を集めてきた。

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トイレの案内図を基本に、便器数の男女格差を調べてきた百瀬まなみさん=東京都渋谷区で

 今月27日時点で計1043カ所を調査し、平均すると男性用が女性用の1.70倍。女性用が上回ったのはわずか66カ所だった。百瀬さんは「フロアの面積を男女同じにしてあるトイレが多く、女性用は個室ばかりになるため男性用に比べて便器数が少なくなる。男女の不平等が生じている」と分析する。

◆トイレのタイミングを意識したり、水分摂取を控えたり

 トイレの所要時間の差も輪をかける。中日本高速道路(NEXCO中日本)が2021年度に複数のパーキングエリア(PA)で調べたところ、男性の小便器は平均35秒(個室は249秒)、女性の個室は3倍の105秒だった。百瀬さんは「女性は衣類の上げ下げや生理時のナプキンの交換で時間もかかる。女性ばかりがトイレ行列を我慢する状況はおかしい」と訴える。

 国土交通省の2016年の調査でも、女性の約4〜5割が駅や交通施設、大規模商業施設でのトイレの行列に「不満」を感じていた。

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公衆トイレ(資料写真)

 記者の姉(46)に尋ねると、花見や花火大会、お祭りを挙げ「尿漏れパッドを準備する知人もいるが、トイレに並ぶ怖さでイベント自体に行くのをためらうこともある。女性の行動を妨げる要因になっている」。

 6月に音楽ライブに行った東京都杉並区の鈴木久美子さん(39)も「始まる前に長蛇の列を見て、本番中に行かないように水分摂取を控えた。映画館や百貨店も行列が心配。行きたくなくても事前に済ませておこうという心理が働く。外出先では常にトイレのタイミングを意識する」と明かした。

◆女性のトイレ問題解決へ政府も動き始めた

 百瀬さんの調査もあり、長く見過ごされてきた女性たちの「不満」の解消に向け、国が動き始めた。

 6月の参院決算委員会で野党議員が行列問題を取り上げ、石破茂首相が関心を持った。同月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針2025」、いわゆる「骨太の方針」に「女性用トイレの利用環境の改善に向けて対策を推進する」と明記した。

 国交省や経済産業省など関係府省は7月、連絡会議を開催。花火大会などイベント主催者に通知を出し、「行列を心配して水分補給を控えれば、熱中症の危険につながる」として、男女で混雑に差が出ないよう「仮設トイレのバランスの取れた設置」を要請した。

 現在は各省で行列改善に向けた好事例を収集しており、分析後に事業者らに広く導入を呼びかける。

◆施設はどんな工夫をしている?

 たしかに工夫したトイレは各所にある。NEXCO中日本は、PAなどのトイレで奥側の空き状況が分かりにくいことから、各個室の扉上部に付けたランプで示し、入り口のモニターで全体の利用状況を見られるようにしている。

 群馬県高崎市のコンベンション施設「Gメッセ群馬」は多くのトイレで男女を隔てる壁が可動式となっており、催しに参加する男女比で便器数を調整できる。

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Gメッセ群馬では男女を隔てるトイレ内の壁を動かし、便器数を調整できる=群馬県高崎市で

 佐賀市の多目的アリーナ「SAGAアリーナ」はトイレ入り口のピクトグラム(絵文字)を変更し、男性用を女性用にすることができる。国交省の担当者は「既存空間で便器数を増やすのは難しい。さまざまな取り組みを集め、行列の改善に役立てたい」と話す。

◆「幅広い実態調査に基づきガイドラインの検討を」

 国は10月以降に有識者会議を設け、来年度までにトイレ設置に関するガイドラインを策定する。

 検討対象となる便器数の男女比を巡っては、災害避難所を想定して定められた国際基準「スフィア基準」で、使用時間などから「1対3」が望ましいとされるが、同省の担当者は「施設によって来場者の男女比は異なる。具体的な数字は明示せず、考え方をまとめたい」と方向性を見通す。

 NPO法人「日本トイレ研究所」の加藤篤代表理事は「公共トイレは駅や公園、商業施設など、多様な場にある。一部の改善にとどまらないよう、幅広い実態調査に基づく検討が必要だ。ガイドラインは全体の方向性を打ち出すだけでなく、実際に行列が深刻化したトイレでの改善法など具体策も盛り込めると効果的だ」と期待する。

◆「学校にもトイレ問題がある」という声も

 一方、今回の改善の対象には含まれず、疑問の声もあるのが学校のトイレだ。

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記事の内容と直接関係ありません

 仙台市や埼玉県ふじみ野市の議会で9月中旬、男女比に関する一般質問が続き、仙台市の小中学校は男子用が女子用の1.27倍、ふじみ野市は1.49倍だった。ふじみ野市の民部佳代市議は「女子は休み時間をトイレ行列に費やし、遊びや休憩が十分でない。私も経験したが今も続いている」と問題意識を語る。

 文部科学省の担当者に尋ねると、「学校の便器数の設置基準はなく、一般に設計者が決めていると承知している。いくつかの自治体に聞いたが『著しい待ち』が発生する状況はないとのことだった」と話した。

 だが、ジェンダー問題に詳しい京都光華女子大の加藤千恵名誉教授(社会学)は「そもそも女性は『仕方ない』と受け入れ、声も上げず、混んでいたら我慢するなどして、自分たちで対処している。国や自治体はまず子どもの率直な声を聞く必要がある」と強調し、「今後の設置や改修の際は、フロア面積による形式的な『平等』ではなく、男女の所要時間を考慮した『公平』なトイレ環境を意識してほしい」と提言する。

◆デスクメモ

 外出先の男子トイレにいた際、年配女性が「ごめん、ごめん」と言いながら入ってきて、個室に駆け込んだことがある。さすがにそれはと思いつつ、女性用の列を考えると何とも言えなかった。我慢すれば体調を崩しかねないし、我慢できないと大惨事に。自己責任には限界がある。(榊)

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