トヨタ、新世代バッテリEV「レクサス LF-ZC」開発中止 中嶋裕樹副社長は「後続車があったからこそ責任を持って中止した」と新技術など新型車に転用

開発中止が決定された次世代バッテリEV「レクサス LF-ZC」。写真はジャパンモビリティショー2023登場時のもので、圧倒的なデザイン、性能を持って市販化されるはずだった

6月5日~7日の3日間にわたって富士スピードウェイで富士24時間レースが開催された。この富士24時間レースに、トヨタ自動車は液体水素を燃焼して走る液体水素GRカローラで参戦。燃料ポンプに超電導モーターを用いるなど、技術的に最先端のものを投入した。

トヨタ自動車のCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)である中嶋裕樹副社長も富士スピードウェイに訪れ、取材陣に対し説明会などを開催した。

富士24時間レースで、次世代バッテリEV「レクサス LF-ZC」の開発中止経緯について語るトヨタ自動車株式会社 代表取締役副社長 中嶋裕樹氏。トヨタの技術トップでもある

その質疑応答の中で、先日明らかにした次世代バッテリEV レクサス LF-ZCの開発中止について触れ、開発中止の背景にあるものを詳細に語った。

レクサス LF-ZCは、2023年のジャパンモビリティショー2023で世界初公開された次世代バッテリEVのフラグシップモデルで、2026年の発売が当時は予告されていた。このLF-ZCでは、新モジュール構造「ギガキャスト」の採用、電子プラットフォームに「Arene OS」を全面採用、航続距離1000km、Cd値0.2以下、生産工程における「自走組立ライン」採用、新型バッテリ「次世代電池パフォーマンス版(角形)」採用など、設計、構造、生産とすべてを刷新したクルマとして、「クルマの未来を変えていこう!」を象徴するモデルに位置付けられていた。

ジャパンモビリティショー2023で大きなインパクトを来場者に与えたモデルでもあったため、その登場が待たれていたクルマになる。

トヨタ自動車は、開発が進んでいたLF-ZCの発売中止を決定。発売中止の決定タイミングは、ボディのプレス型発注など大規模生産設備への投資などを決める商品化決定会議と思われ、突然の決定だったことから大きな話題となっていた。

中嶋副社長は、記者の質問に答える形で次世代バッテリEV LF-ZCの発売中止に関して詳説。諸般の事情を考慮した決定であり、LF-ZCで開発した技術やチャレンジが「後続車」に引き継がれるものであることを明かした。

中嶋裕樹副社長の質疑応答

──次世代EVの開発の今後について教えてください。

中嶋副社長:私が勝手に質問者の意図を読み取ることしてはいけないのかもしれませんが、先日のLF-ZCが開発中止ということも含めてのご質問だと思うので、そこまで含めてお答えします。

正直、開発中止にしました。ただ、そこで培ったさまざまな技術、ジャパンモビリティショーでもご紹介したのでご存じだと思いますが。

例えばギガキャストの技術だとか、新しいADASをするための電子プラットフォームの構成を変えてみたりだとか、ダウンサイジングのコンポーネントだとか。さまざまな技術があって、正直開発としては一旦完了したレベルまであのクルマは来ました。

ちょうど、それ以降、実際に作っていくための準備、例えば金型を手配するだとか、量産の設備を手配するだとか、ここで一気にたくさんのお金を使うというタイミングでありました。

技術は完成している、実は(開発中止を)決めた日に、社内で別の会議(おそらく商品化決定会議)が、同じ会議なんですけど。

実はもうあのクルマの技術を使った次のクルマの開発が進んでおり、そのクルマをゴーかけるか、それともノットゴーか決める場があるのです。

確か、会議の名前を商品化決定会議と谷川さんがおっしゃってましたが。多分そのような会かもしれません。

その場で後継のクルマを決めさせていただいて。そのクルマのボリュームがどのくらい出るかだとか、さまざまな条件をその場で合意したという場があります。

技術はそれぞれのクルマに転用するというその場で決め、意思決定が終わった後に開発中止というのをその場で判断したということです。クルマとしては開発中止なんです。ただ、ちゃんと後続のクルマに、もっと言うと後続車があったからこそ責任を持って中止した。

ただ、開発をやっている連中は、例えばデザインやっている人だとか、それからアッパーボディを担当している人とか、そのクルマがなくなればその仕事がなくなるということで……。説明会を開きましたが、涙ながらに悔しさをにじませてくれたエンジニアがたくさんいた。これ自身は本当に申し訳ない気持ちとともに、うれしかったというのが本音です。

TR(トヨタレーシング)を立ち上げたのも、技術屋が思いを持って開発するためでありますので、そういうことをまさに地で行ってくれている若い連中がいたということを感謝します。

次世代のバッテリEVをどうしていくかっていうのは、優等生の答えしかないんのですが、エネルギー事情が国によって変わるもんですから、我々バッテリEVを止めるつもりもまったくありませんし、プラグインハイブリッドも、それから別の場で水素関連のお話もさせていただきますが、それぞれの国のエネルギー事情が異なったり、それからお客さまの志向が異なっている限りは、グローバルでフルラインアップを作らせていただいてるトヨタ自動車としては、積極的に全方位でやっていく。これはまったく変わっていません。

ただ、足元、確かにバッテリEVの勢いが、もしくは台数が、というのは正直ありますけど。それはもっと長い目で見たら、やっぱりバッテリEVっていうものは、有効なCO2を減らす手段の1つであることは間違いないですから、おそらくマーケット的にも広がっていく。それに向けた準備はしっかりしていかなきゃいけないと思いますし、まだクルマに搭載してない新しい電池の開発だとかということも、継続してございます。その辺は、しっかり進めていくとコミットさせていただきたいと思います、以上です。

──後続車っていつごろ出るんですか?

中嶋副社長:それは内緒ですね(笑)。

「後続車」に活かされるLF-ZC由来の技術

中嶋副社長のやりとりから分かるように、LF-ZCのために開発された技術は開発手法やクルマの構造、そして生産と多岐にわたっており、それらの要素技術は「後続車」に引き継がれていくことを明言している。

実際、LF-ZCコンセプト発表の際は電子プラットフォーム「Arene OS」として紹介されていた技術も、新型「RAV4」には自動車のソフトウェア開発を加速する統合基盤である「ソフトウェアづくりプラットフォーム『Arene』」として登場しており、当初のコンセプトと異なるものの形を変えつつ引き継がれている。OSがミドルウェアとなったのは、車載半導体の種類が多岐にわたることもあり、現時点では広い形で使っていこうというものであるからだろう。

同様に、LF-ZCのために開発された技術は、そのままの形で登場するかもしれないし、形を変えて登場するかもしれない。

気になるのは「後続車」なるものが、商品化決定会議(記者予測)を通過したのに対し、開発が先行していたLF-ZCが商品化決定会議を通過しなかった理由だ。

中嶋裕樹副社長は、LF-ZCがあったからこそできたものとして別の機会に低ハイトの1.5リッター新型4気筒エンジンを挙げており、この新型エンジンによって1つのプラットフォームで、バッテリEVもプラグインハイブリッド車も、そしてハイブリッド車やICE(Internal Combustion Engine、内燃機関)車も成り立つとしていた。

このエンジンを記者はM型に続くものであることから「N15型」(トヨタからは未発表)と呼んでいるが、バッテリEVもハイブリッド車も成り立つものが「後続車」であることが予想される。逆に言うと、LF-ZCは完全なバッテリEV専用車であったために、昨今の事情からトヨタのグローバル車戦略と合致しにくくなっていたのかもしれない。

つまり「後続車」は、トヨタが語るマルチパスウェイプラットフォームに合致したクルマであることが予想され、最初のマルチパスウェイプラットフォーム車はジャパンモビリティショー2025で佐藤恒治社長(当時)が言及したマルチパワートレーンが可能なクルマ「カローラコンセプト」の発展形であることが予想される。

「後続車」の可能性が高い、マルチパワートレーンが可能なクルマ「カローラコンセプト」

マルチパスウェイワークショップで次世代1.5リッター4気筒エンジンを紹介する中嶋裕樹副社長。低ハイトが特徴のエンジンで、バッテリEVのようなスタイリングを実現することもできるとされている

このマルチパスウェイプラットフォーム、マルチパワートレーン車であれば、充電設備が普及していない国ではICEとして販売でき、逆に充電設備が普及した国ではバッテリEVとしても販売できる。多くの地域では、PHEVやHEVとして販売できるため、世界的に柔軟な展開が可能だ。

そのため、価格面もスペシャルなものではなく、トヨタが志向するアフォーダブルなものへ導きやすく、そのようなクルマが普及することで地域の実情に合わせた低炭素化を商品力を高めつつできる。

いずれにしろ「後続車」がなんであったのかは、「後続車」の発表の際に明かされるかもしれない。LF-ZCの技術がどう採り入れられ、どう発展したのか? 「後続車」の登場を待ちたい。

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