東京メトロ決算、鉄道依存度「92%」という現実――利益895億円でも変われない収益モデルの実像
鉄道事業が支える堅調な決算
東京メトロ(東京地下鉄)は2026年4月28日、2026年3月期(2025年4月1日~2026年3月31日)の連結決算を公表した。同期の営業収益は旅客運輸収入が堅調に推移したことなどにより、前年比3.6%増の4224億円となった。
【画像】「記事の要約」を見る!
営業費は経費や人件費の増加などで同3.7%増の3328億円となり、営業利益は同3.0%増の895億円だった。このうち旅客運輸部門は、営業収益が同3.8%増の3866億円、営業利益が同2.7%増の761億円となった。
・営業収益の92%
・営業利益の85%
を「旅客運輸」が占めている。他の大手私鉄が不動産事業などへ事業領域を広げてきたのに対し、同社は鉄道事業が安定して高い収益を生み、その比率が依然として大きい状態にある。
また同社は、連結決算の発表と同日に、表参道交差点近くの青山通り沿いでサンケイビルとの共同による複合施設開発に着手したと発表した。同施設は地下2階から地上2階を商業施設、地上3階から14階をホテルとする計画で、東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線が乗り入れる表参道駅との接続を予定している。完成は2032年度を見込む。
この計画は決算資料にも記載されており、不動産事業(共同事業を含む)として新宿駅西口地区の開発計画など、6件の案件が示されている。
こうした状況を踏まえ、鉄道事業への依存度が高い同社において、不動産事業を軸とした今後の事業領域の広がりについて整理する必要がある。
営団から上場企業への変遷。

サンケイビルとの共同事業となる複合開発の完成予想図(画像:東京メトロ)
東京メトロの前身である東京地下鉄道は1920(大正9)年に設立され、1927(昭和2)年に上野~浅草間で日本初の地下鉄を開業したことで知られている。
1941年には、同じく地下鉄を運営していた東京高速鉄道と統合され、日本政府と東京都が出資する帝都高速度交通営団が設立された。2004(平成16)年に東京メトロ(東京地下鉄)として株式会社となるまで、長く「営団地下鉄」の名で広く知られていた。
2004年の株式会社化により、分類上は公共企業体・特殊法人から大手私鉄へ移った。さらに2024年10月23日には東京証券取引所プライム市場に上場している。上野~浅草間2.2kmで始まった路線網は、戦前から戦後にかけて段階的に広がり、2024年時点で9路線・195kmとなっている。ほかの鉄道事業者と相互直通運転を行う区間を含めると361.6kmに及ぶ。
大手私鉄のひとつに数えられるものの、他社が都心と郊外を結ぶ路線を中心に持つのに対し、同社の路線は都心部に集まっている。初期に開業した銀座線と丸ノ内線を除き、他の大手私鉄やJRと相互直通運転を行っており、競い合う関係よりも協力関係が強い。また、長く公共企業体として運営されてきた経緯から、不動産事業など鉄道以外の分野は限られた範囲にとどまっていた。
優良企業であった営団地下鉄が株式会社化と上場に至った背景については複数の見方があるが、事業の広がりを見据えた判断であったことは確かだといえる。
少数精鋭で高利益な不動産

東急・JRとの共同事業となる渋谷駅街区計画の完成予想図(画像:東京メトロ)
前述の連結決算によると、同社の同期の不動産事業は、営業収益が前年比0.2%増の146億9400万円、営業利益が同4.7%増の43億9900万円となった。営業収益に占める不動産事業の割合は3.5%にとどまるが、利益率は30%と高い水準にある。同期は物件売却による賃貸収入の減少があった一方で、新たに取得・開業した物件(TS青山ビル、メトロステージPLUS中野弥生町など)や、渋谷マークシティの賃貸収入増加により増収増益となった。
同社の不動産事業は、賃貸を中心とした安定収入型を主軸としつつ、不動産の売却・取得・開発の動きを早めることで、売買をともなう事業の強化も進めている。賃貸用不動産は、自社施設や保有地の周辺を中心に、オフィスビル、商業ビル、住宅、ホテル、開発用地などの取得を進めている。取得範囲は駅徒歩圏まで広げる方針である。売買型の事業では、価値を高めた不動産を東京メトロプライベートリート投資法人などへ売却し、回収した資金を新たな取得や開発に回す考えだ。
なお、4月28日の説明会では、不動産取得額が当初計画を下回った理由について質問があり、同社は
「投資基準に見合う物件が想定より少なかった」
と説明した。同社が重視する「駅直結」「駅至近」といった条件を満たす案件は市場に多くなく、その結果として投資枠に届かなかった形である。一方で、基準に合わない案件を無理に取得する考えはないとしている。
また同社は、店舗賃貸事業、広告事業、光ファイバー賃貸事業をライフ・ビジネスサービス事業としてまとめている。同期の営業収益は263億8800万円、営業利益は85億2700万円で、利益率は32%と高い水準にある。
地下駅ゆえの開発上の制約

2026年夏に一時移転予定、東京メトロ本社が入居するビル(画像:東京メトロ))
上場を機に、不動産事業を軸に事業の広がりを強めるようにも見えた同社だが、実際の動きは慎重だ。不動産事業では
「自社施設・保有不動産の隣接地が中心」
「投資基準に見合わない案件は無理に取得しない」
といった姿勢が目立つ。これは、鉄道事業が足元で安定した収益を上げていることの裏返しともいえる。ただし「自社施設・保有不動産の隣接地が中心」という点には、事業拡大の余地の狭さもうかがえる。
他の大手私鉄は、多くの路線が地上を走り、駅やその周辺、高架下などの土地を広く持つ。また郊外では、路線の延伸と沿線開発を一体で進めてきた経緯があり、自社の不動産を起点に開発を広げやすい構造を持っている。
一方で同社は、東西線のように高架区間を持つ路線もあるが、多くは地下を走る。地上でまとまった規模の駅ビルを単独で整備できる場所は限られる。
多くの利用客を抱えながらも、その需要を事業として取り込むには、すでに開発が進み地価も高い駅周辺の土地や建物を新たに取得する必要がある。この点で、他の大手私鉄に比べて不動産展開の出発条件は厳しい状況にある。
共同事業で見出す成長の道

東京メトロのウェブサイト(画像:東京メトロ)
一方で、すでに相互直通運転などで協力関係にある大手私鉄やJR、さらに開発事業者にとって、東京メトロは組む価値の高い相手といえる。乗降客数が多く、駅の出入口に直結する土地や建物は、それだけで価値が上がるためだ。
実際、決算資料に示された六つの事業計画のうち、ふたつは他社との共同事業であり、ふたつは再開発に協力側として関わる案件となっている。
また同社によると、不動産事業の次期見通しは、営業収益が前期比4.1%増の153億円となる見込みである。取得や開業した物件(浅草スクエア、メトロステージ亀有など)による賃料増加が背景にある。一方で営業利益は、開発や改装にともなう費用の増加により前期比9.1%減の40億円を見込む。
当面は急な拡大ではなく、投資を抑えながら着実に進める姿勢が続くとみられる。