NISA貧乏は本当か?貯金貧乏や保険貧乏も…データの偏った解釈が生む誤解、お手軽「自己投資」こそ意味ない時代に
ここしばらくの間「NISA貧乏」という言葉がメディアを騒がせていました。
NISA貧乏とはなにかというと、生活費や自己投資の資金を削ってまでもNISAの枠を埋めることを優先する若者の生き方を批判的に表現した言葉で、要は「投資なんかするよりも若いうちはもっと大事なものに金を使え!」ということです。
私は大学院(修士課程)まで行ったため就職したのが25歳とやや遅く、大型バイクのローンもあり、20代の頃は基本的に金がありませんでした。当時仮にNISAがあったところで積立はできなかったし、しなかったとは思います。しかし、当時でも堅実な人は財形貯蓄などをしっかりとしており、結局は人それぞれでしょう。
個人的には、20代のうちから無理に投資をする必要はないと思っています。以下の図表は内閣官房が作成したものですが、諸外国に比べてもやはり日本は「年功序列」の傾向は強いようで、30代後半から40代に賃金が急上昇する傾向があります。

(写真:ideyuu1244/イメージマート)
30歳までにNISA枠1800万円を埋めたら70歳には2.7億円
資産形成が早ければ早いほど有利なのは間違いありませんが、老後資金が本当に必要になるのは70代以降であることを考えれば、40代から始めても決して遅いということはありません。

(出典) 内閣官房新しい資本主義実現事務局資料
単純計算では、30歳までにNISAの枠1800万円を埋めてしまい、全世界型インデックスファンド(年リターン7%)で40年間運用すれば、70歳時点で2.7億円になります(実際はリスクがあるので上下にブレます)。
これだけの資産があればさすがに老後困ることはなく、世界一周クルーズに出かけたりもできるでしょう。ただ、それが若いうちの貧乏旅行と比べてどちらに価値があるかは難しい話です。
30歳までにNISA上限の1800万円を貯めようと思うと、働き始めてから毎年の上限である360万円に近い積み立てをする必要があります。平均的な20代の年収を考えれば、それこそ「爪に火をともすような」生活をしなければ達成できない金額です。当然、旅行に行っている余裕などはないと思われます。
また私の個人的な話で恐縮ですが、ローンで買った大型バイクで夏に北海道半周旅行をしたことがあります。あれはいままでの人生でも最も楽しかった記憶のひとつなのですが、では70代になってからの世界一周クルーズがそれより楽しいかといわれると、どうもそんなこともないような気がしますし、70代になってからバイクで北海道旅行をするというのも現実的ではないでしょう。
そうしたことを考えれば、お節介ながら、「無理してNISAするより、いまはもっとお金使っていろんな経験積んだ方がいいよ」と中高年目線からの説教をしたくなる気持ちはわからないでもありません。
300万円の資金をNISAのインデックス投資信託(年利7%想定)で30年間運用すれば2000万円以上になることが期待できますから、賃金が低い若いうちは無理に投資をせず、賃金が上がって貯蓄に余裕が出始める40代から資産形成を始めるというのもひとつの合理的な考え方です。
NISA貧乏は本当にいるのか?
ただ、そもそもの疑問として、本当にNISA貧乏などという状態の人が存在するのかというものがあります。
最近、NISA貧乏が話題になったきっかけは、国民民主党の田中健議員が2026年3月10日の衆議院財務金融委員会で行った国会質問のようです。
そしてその元ネタとなった調査が、SMBCコンシューマーファイナンスが実施した「20代の金銭感覚についての意識調査 2026」です。

(出典)SMBCコンシューマーファイナンス調べ(20代の金銭感覚についての意識調査 2026)、以下特に断りのない限り同じ
この調査によれば、20代が毎月自由に使えるお金が、3万4605円から3万2159円と、前回調査(2025年)よりも2446円減少しています。それにもかかわらず、投資額の平均が、2万4610円から2万9678円と5068円増加しているため、「若者が投資をしすぎて貧しくなっている」すなわち、「NISA貧乏が広がっている」ということになるわけです。

(出典)SMBCコンシューマーファイナンス調べ
ただ、出典のデータを見ると、本当にそんなことがいえるのか、やや疑問に思います。
たとえば、この調査によれば、そもそも投資している人の数は1000人中268人から255人と、誤差の範囲とはいえ前回調査から微減しています。
また、グラフを見ると顕著に増加しているのが毎月の投資額が5万円超~10万円以下の層(4.5%から10.2%への増加)ですが、人数に直してみると1000人中12人から26人への増加であり、こちらは誤差の範囲とまではいえないにしても、「若者がNISAのせいで貧乏になっている」ことを示すようなデータではないように思われます。
また、「若いうちにしかできないことをしろ!」というのは一理あるのかもしれませんが、やはり基本的には「余計なお世話」であり、なにに価値を見いだすかは人それぞれというのが原則です。若いうちからNISAで長期投資をすることは貧乏になるどころか、むしろ豊かになるための有力な選択肢であることは間違いありません。
むしろ「貯金貧乏」と「保険貧乏」
この調査にはほかにも興味深いデータがあります。
20代の若者の平均貯蓄額(正確には、上下10%の極端な値を除外した調整平均)は69万円から74万円と5万円ほど増加していますが、NISA貧乏を問題視するのであればこれも「貯金貧乏」として問題視しなければならないでしょう。

(出典)SMBCコンシューマーファイナンス調べ
しかも、金利が上がったとはいえ普通預金・貯金の金利はインデックス投資信託と比べれば遙かに低く、資産形成手段としては適していません。貯金が増えているのは中長期的にはあまりいい傾向ではなく、これをインデックス投資信託に回していくのが「貯蓄から投資へ」の目標だったわけです。
NISA貧乏を批判することで貯金貧乏を生み出してしまっては本末転倒です。
また、この調査では貯蓄型保険への加入状況についても調べています。
それによると、貯蓄型保険への毎月の支払額は、1万894円から1万3967円と、3073円増加しています。これも、いうなれば「保険貧乏」です。

(出典)SMBCコンシューマーファイナンス調べ
この設問では加入しているのが利回りの低い積立保険なのか一定の利回りが見込める変額保険なのかはわかりませんが、いずれにしてもNISAを利用して非課税で投資するインデックス投資信託に比べれば非効率な商品です。
たとえ現在は貧しい生活を送ったとしても将来的には豊かになる可能性の高い「NISA貧乏」を批判するよりも、現在も将来も貧しくなってしまいかねない「保険貧乏」を批判する方が、重要性ははるかに高いはずです。もちろん、このデータから「NISA貧乏」が読み取れないのと同様に、「保険貧乏」も読み取ることはできませんが。
また、貯蓄型保険への加入意向は低下傾向が見られます。

(出典)SMBCコンシューマーファイナンス調べ
「若者は貯蓄型保険など入らない方がよい」というリテラシーが普及してきたことのあらわれなのであれば大変喜ばしいことですが、すると今度は平均支払額が上昇していることがグロテスクに思えてきます。
カモが減った分だけ、ひとりから搾り取る額が増えているという解釈が成立する可能性もあるからです。
この連載でも何度もいっていますが、(特に若い世代は)貯蓄型保険には入らず、そのぶんNISAをやったほうがよいという「常識」がもっと普及して、この調査における「してないし、したいと思わない」がもっと増えていくことになれば理想的でしょう。
金融トラブルに巻き込まれやすいのは男性
この調査にはもうひとつ価値のあるデータがあります。それは、男女別の金融トラブル経験です。

(出典)SMBCコンシューマーファイナンス調べ
20代では明らかに男性の方が金融トラブルの経験が多いことがわかります。
これはイメージ通りだとは思いますが、男性の方がリスクを好む人が多いので、そのぶん詐欺や粗悪な金融商品に手を出して、金融トラブルに巻き込まれてしまうことが多いということなのでしょう。
以前も紹介しましたが、J-FLECの「金融リテラシー調査」と合わせると、特に若い男性に対して、金融トラブル防止に重点を置いた金融リテラシー教育が必要なことがわかります。

(出典)金融リテラシー調査(2022年)のポイント、金融リテラシー調査(2025年)のポイント
「自己投資」に価値はあるか?
NISA貧乏を批判する人は「若者は貯蓄や投資ではなく自分への投資をすべき」というようなことをいいがちです。それをすべて否定する気もないのですが、その「自分への投資」はほんとうに将来価値を生み出してくれるのでしょうか?
たとえば、「自分への投資」の定番のひとつとして英語・英会話がありますが、これから非英語話者がちょっと英会話教室に通って勉強をしたとして、AIの翻訳を超えることは極めて困難であり、おそらくは不可能でしょう。
これからはプログラミングが重要になるというようなこともいわれていましたが、現実はもはやAIがプログラムを書く時代になっており、素人が少し勉強したところでそれに勝つことはできません。
人生を賭けて研鑽(けんさん)を積んでいくのであればともかく、ちょっと空いた時間に「自分への投資」をしたところで、その程度のスキルはAIが安価に代替してしまうので、それが将来大きな収益を生むことが期待できない時代がもう既に来てしまっています。
若い世代が「自分への投資などという不確実なものよりも確実に期待できるNISAにお金を分配しよう」と思うこと自体は、むしろ合理的な考え方であるともいえます。
「NISA貧乏」はごく一部の極端なケースであり、わざわざ話題にする必要はありません。無理のない範囲で効率の良い金融商品(=全世界株式のインデックス投資信託)でコツコツ資産運用を続けていくのがリーズナブルな選択でしょう。
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