「松屋」大御所つけ麺店買収で描く新たな勝ち筋

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…, とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ, 「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた, 松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

松屋フーズホールディングスが買収した「六厘舎」。業界はザワついている(写真:筆者撮影)

2025年12月15日、ラーメン業界にとって見逃せないニュースが飛び込んできた。牛丼専門店「松屋」などを展開する松屋フーズホールディングスが、つけ麺の名門「六厘舎」を手掛ける松富士を買収すると発表したのだ。同社は今回の買収を通じて、つけ麺分野を拡充し、ラーメン事業のさらなる成長につなげる狙いだという。

【写真】「六厘舎」の大人気商品『濃厚豚骨魚介つけ麺』。見るだけでお腹が空いてくる…!

この一報は、単なる企業買収の話にとどまらない。牛丼チェーン各社が水面下で繰り広げてきた「ラーメン」を巡る主導権争い、いわば牛丼チェーンのラーメン大戦争が、ついに表舞台に出てきたことを意味している。

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…, とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ, 「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた, 松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

東京駅にある「六厘舎」の人気店舗には、スーツケースを抱えた客もよく見られる(写真:筆者撮影)

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…

まず押さえておくべきは、ラーメン分野で先行してきたのが吉野家ホールディングスであるという点だ。吉野家HDは早くからラーメンを次の収益の柱として位置付けてきた。

牛丼市場はすでに成熟期に入り、価格競争は限界に近づいている。原材料費、人件費、物流費が高騰するなか、ワンコイン前後の商品で利益を出し続けるのは至難の業だ。その一方で、ラーメンは牛丼よりは客単価が高く、専門性があり、海外展開もしやすいという特性を持つ。

吉野家HDはこの点に早くから目を付け、ラーメン専門店のM&Aを通じて、ノウハウとブランドを一気に取り込む戦略を取ってきた。自前主義にこだわらず、すでに支持を得ている店を仲間にすることで成長を加速させる。この合理的な判断が、同社のラーメン事業を一段階押し上げたのは間違いない。

そうした流れの中で、松屋フーズがここに参戦してきたことには、率直に言って驚かされた。

というのも、松屋は“自前で育てる”ことに成功してきた企業だからだ。

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…, とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ, 「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた, 松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

松屋がついに大きな勝負をしかけてきた……! なぜ買収に踏み切ったのか(写真:筆者撮影)

とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ

代表例がとんかつ業態「松のや」である。牛丼チェーンのサイドビジネスではなく、専門店として成立させ、いまや松屋グループの重要な収益源に育て上げた。商品開発、オペレーション、価格設計、出店戦略――そのすべてを自社で組み立てる力を、松屋は持っている。

実際、ラーメン分野でも「松太郎」などの自社ブランドを立ち上げ、試行錯誤を重ねてきた。それだけに、いよいよラーメンも本腰を入れて育てていくのかと思われた矢先の、「六厘舎」買収だった。

ここが実に面白い。とんかつは自前で育てた松屋が、ラーメンではあっさりと“買収”を選んだ。

この判断には、ラーメンというジャンルの難しさを知り尽くした、松屋らしい現実主義が透けて見える。

ラーメンは料理として見れば、再現性は高い。スープも麺もセントラルキッチン化は十分に可能で、大規模展開にも向いている。しかし問題は、味そのものよりも「ブランド」だ。

日本のラーメン市場は成熟しきっており、消費者は単に「美味しい」だけでは動かない。どんな歴史を持ち、どんな思想で作られてきた一杯なのか。そこに物語がなければ、熱狂的な支持は生まれにくい。この点で「六厘舎」は、圧倒的な物語性を持つブランドである。

「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた

「六厘舎」は『濃厚豚骨魚介つけ麺』という一大ブームの火付け役のひとつだ。2000年代後半、「つけ麺」というジャンルを一気にメインストリームへ押し上げた存在であり、その影響力は計り知れない。

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…, とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ, 「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた, 松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

「六厘舎」の『濃厚豚骨魚介つけ麺』。ファンが多く、店前に長蛇の列ができることも(写真:筆者撮影)

ほぼ同期には「つけめんTETSU」や「つじ田」といった名店があり、彼らもまたつけ麺文化を支えてきた。ただし、これらのブランドは比較的早い段階でM&Aを選択し、拡大路線へ舵を切っている。

一方の「六厘舎」は、長らく独立性を保ち、ブランドの価値を守り続けてきた。だからこそ、今回の買収は“横綱がついに動いた”という印象を強く与える。

これは「六厘舎」個別のニュースであると同時に、つけ麺というジャンルそのものが次のフェーズに入ったことを示す出来事でもある。

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…, とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ, 「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた, 松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

「六厘舎」にはおみやげを売っている店舗も(写真:筆者撮影)

では、松屋は「六厘舎」をどう広げていくのか。ここで重要になるのが、松富士のもう一つの顔、姉妹ブランド「舎鈴」の存在だ。

松富士は、「六厘舎」の出店をあえて最小限に抑えつつ、「毎日食べられるつけめん」をコンセプトにした「舎鈴」を積極展開してきた。現在、松富士の約120店舗のうち、多くを「舎鈴」が占めている。

濃厚で非日常的な「六厘舎」に対し、「舎鈴」は日常に寄り添うつけ麺・ラーメン。この棲み分けが見事に機能し、結果として安定した店舗展開を実現している。

ラーメン分野の開拓は吉野家HDが早かったが…, とんかつは“自前”、ラーメンは“買収”の面白さ, 「六厘舎」は長らく独自性を保ってきた, 松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

「舎鈴」は煮干しがビシッと効いた「らーめん」も旨い(写真:筆者撮影)

松屋が取り込んだ“横綱”はどんな活躍を見せるのか

これは、松屋にとって極めて「勝ちの絵」が描きやすいモデルだ。「六厘舎」という圧倒的ブランドを旗艦に据えつつ、「舎鈴」を拡大のエンジンにする。牛丼や定食で培ってきた出店・運営ノウハウを重ねれば、再現性は高い。

牛丼チェーンがラーメンに本気になる理由は、もはや明白だ。国内市場が頭打ちになるなかで、ラーメンは数少ない成長余地を持つ分野であり、海外展開の切り札にもなる。吉野家が先行し、松屋が横綱を取り込んだ。この先、他の大手がどう動くのかも含め、ラーメン大戦争はますます激しさを増していくだろう。

牛丼チェーンの一手は、日本の外食産業がどこへ向かうのかを映し出す。松屋×六厘舎の決断は、その未来を占う重要な分岐点と言えそうだ。

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