フェラーリは一生モノか?

大谷 達也:自動車ライター

本物のクラシック フェラーリとは?, フェラーリの認定中古車は新車さながらの検査を受ける, アプルーブドからクラシケへとつなぐサポート体制, アプルーブドフェラーリをテスト, あなたが好きだったフェラーリもきっとどこかで生きている

今回、大谷達也氏がフィオラノで試したのはフェラーリの中古車

本物のクラシック フェラーリとは?

 まだ日本がバブル経済に沸いていたころ、自動車マニアの間で「この間●●さんが買ったフェラーリのクラシックカー、どうやらニセモノだったらしいよ」なんて噂話がときたま流れることがあった。

 フェラーリのクラシックカーといえばどれも高価だが、そのなかでもとりわけ希少なモデルには数億円とも数十億円ともいわれるほどの高値がつけられる。そこで一部の悪徳業者は、そんな特別なフェラーリを捏造。それを市場に流して不当な利益を得ていたのだ。

 こうした事態を防ぐためにフェラーリがとった行動は、実に徹底したものだった。

 1台1台のクラシック・フェラーリがホンモノであるかどうかを見分けるシステムを社内に構築すると、ホンモノと判断されたフェラーリには認定証を発行。

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フェラーリ クラシケの認定証(出所:フェラーリ)

 ここで認められたフェラーリについては、フェラーリ本社でメンテナンスを行い、オーナーが安心してクラシック・フェラーリを楽しめる環境を整えたのだ。いわばフェラーリに「永遠の命」を与えることになるこのシステムは「フェラーリ・クラシケ」と呼ばれ、新車で発売されてから20年以上経過した“跳ね馬”が対象とされている。

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2009年にフェラーリが公開したフェラーリ・クラシケの写真

 ここまで特別なフェラーリでなくとも、中古車として売買されるフェラーリのなかに「怪しい個体」が紛れ込んでいたとしても不思議ではない。走行距離を示すオドメーターがまだ機械式だった当時は、メーターを戻して走行距離を短く見せかけるインチキができなかったとは言い切れないし、不当な改造を受けたため、本来の性能を発揮できなかったり寿命が短くなってしまうケースもあっただろう。

 こうした事態を防ぎ、フェラーリの中古車を安心して購入できるようにするためにマラネロが立ち上げたのが、フェラーリ・アプルーブドと呼ばれるシステムである。

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フェラーリの認定中古車は新車さながらの検査を受ける

 これもクラシケと同じように対象となる個体を徹底的に調査して「ホンモノのフェラーリ」であるかどうか確認することから始まるのだが、その検査項目は最大で202を数えるほど厳格なもの。私は先日、全世界のフェラーリ正規ディーラーで働くメカニックたちをトレーニングするために作られたフェラーリ・アカデミーと呼ばれる施設を訪問。そこでインストラクターが実際に車両を検査する様子を見学したが、その入念な作業は新車完成時に行われる品質検査と変わらないように思えたほどだった。

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 しかも、外装や内装に細かなキズがあればそれらも修正されるほか、検査終了時にはテスト走行も行うという。こうした手順も、新車完成時に行われる品質検査となにひとつ変わらないように思えた。

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 こうした検査に活用されているのが、フェラーリが構築した膨大なデータベースである。そこには、新車で販売したフェラーリのスペックなどが記録されているだけでなく、販売後に実施された点検結果なども登録。もしも前回の検査結果との矛盾(たとえば走行距離が減っていた、など)が見つかれば、即座にフェラーリ・アプルーブドの枠組みから外され、フェラーリの認定中古車としては販売されなくなる措置がとられる。

アプルーブドからクラシケへとつなぐサポート体制

 したがって、フェラーリ・アプルーブドもまた、ユーザーがフェラーリの中古車を安心して購入できるようにサポートするためのシステムといえるのだが、認定中古車には手厚い保証制度が設けられているのも、フェラーリ・アプルーブドの特徴といえる。

 たとえば、フェラーリ正規ディーラーを通して販売されたすべての新車には3年間のメーカー保証が無料で付帯しているが、ワランティエクステンションという名の延長制度も用意されており、こちらは有償ながら最長8年目まで(一部のモデルは7年目まで)保証が適用されるという。

 さらには7年間のメンテナンスプログラムも無償で付帯されており、こちらには定期点検などが含まれている。

 このうちメンテナンスプログラムについては、フェラーリ認定中古車として購入したユーザーにも引き継がれるほか、万一主要なコンポーネンツなどにトラブルが発生した場合には、その工賃や部品代金などがカバーされる保証も受けられるという(一部条件あり)。

 しかも、7年間のメンテナンスプログラムが終了してからも、8年目から16年目までのメンテナンスをサポートするパワー16などのプログラムを用意。最終的にはフェラーリ・クラシケに結びつけることにより、まさに万全の体制を整えているのだ。

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Ferrari SF90 Stradale

アプルーブドフェラーリをテスト

 今回はフェラーリ・アカデミーを訪問するだけでなく、フェラーリ・アプルーブドのサンプルにも試乗できた。試乗したモデルはV8ツインターボエンジン+プラグインハイブリッドでシステム出力が1000psに達するハイブリッド4WDのSF90ストラダーレ、新開発のV6ツインターボエンジンにプラグインハイブリッドを組み合わせることで軽快な走りを実現した後輪駆動の296GTB、そして優雅なスタイリングで人気を呼んだローマの3台である。

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Ferrari 296 GTB

 このうち、フィオラノ・サーキットでステアリングを握ったSF90ストラダーレと296GTBは、新車時とまるで変わらないしっかりとした印象を伝えつつ、SF90ストラダーレは圧倒的なパワー感と抜群のスタビリティ感を、そして296GTBは速さではSF90ストラダーレに及ばないものの後輪駆動らしい軽快な走りを披露し、キャラクターの違いをしっかりと感じさせてくれた。

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Ferrari SF90 Stradale

 残るローマは公道で試乗したが、こちらは新車時と変わらないしっかり感を残していただけでなく、驚くべきことにデビュー当時よりもしなやかな乗り心地で私を魅了した。おそらくは年次改良が入った結果だろうが、こうしたモデルイヤーごとの細かな違いが楽しめるのもフェラーリ・アプルーブドの魅力のひとつといっていいだろう。

あなたが好きだったフェラーリもきっとどこかで生きている

 それにしても、フェラーリ・アプルーブドというシステムを構築し、交換部品を作り続けるには膨大なコストが必要となるはず。にもかかわらず、彼らがここまでして「歳月を重ねたフェラーリ」のサポートに尽力しているのは、なぜなのか。

 ひとつには、フェラーリが愛情と自信を持って1台1台の製品を作り上げていることが挙げられる。だからこそ、ユーザーが永遠にフェラーリを愛用することを願っているのだ。

 ちなみに、フェラーリは1947年の設立以来、これまでに28万台以上のスポーツカーを世に送り出してきたが、驚くべきことに、そのうちの90%以上がいまも存在しているという。

 こうした残存率の高さは、オーナーが自ら所有する“跳ね馬”に深い愛情を注いでいることを示すと同時に、フェラーリが作り上げたスポーツカーの耐久性や信頼性が傑出して高いことを物語っている。

 そして、もしも1台1台のフェラーリが永遠ともいえる生命を授かっているのであれば、購入後の取り引きでも高い価値を維持することができる。つまり、これは良好なリセールバリューを実現するにも役立つ活動なのだ。こうすることで製品の価値を高め、ひいてはブランドバリューの向上にも結びつける。フェラーリ・アプルーブドやフェラーリ・クラシケといった活動の源にはこうした思いがあるはずだが、それにしても、販売後の製品にこれだけの労力とコストを投じることができるフェラーリは、やはり特別な存在というしかないだろう。