全固体電池で挑む日本の逆襲――なぜリチウムイオン電池大国・日本は「中国依存8割」の現実に陥ったのか?

世界シェア37.5%の圧倒的CATL台頭

 世界の車載電池市場で、中国勢の独走が続いている。2024年1~5月の世界シェアでは、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が37.5%で首位、比亜迪(BYD)が15.7%で2位につけた。上位10社のうち、中国企業が6社を占めている。

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 一方、日本勢は苦戦している。パナソニックは7位以下にとどまり、韓国のLGエナジーソリューション、SKオン、サムスンSDIの後塵を拝している状況だ。リチウムイオン電池を発明した技術大国・日本が、なぜここまで後れを取ったのか。その背景には、部材から製品までを中国に依存する産業構造がある。

 とはいえ、日本にも巻き返しの芽はある。再編や技術革新によって、反攻の準備は着実に進みつつある。

原料で封じる中国の供給網支配

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韓国の国旗(画像:写真AC)

 中韓が7割、日本は1割強――。これが世界の車載電池市場の実情である。中国メーカーは上位6社中6社を独占し、韓国3社を合わせると全体シェアは7割を超える。一方、日本勢のシェアは1割台にとどまる。

 国内の車載電池生産額を見ると、2023年の販売金額は7795億円。電池生産総額の57%を車載用が占め、2012(平成24)年の統計開始以来、増加傾向は続いている。だが、世界市場では存在感が希薄だ。

 より深刻なのは、部材供給における中国依存の構造である。正極材・負極材・電解液は8割超、セパレーターも7割超を中国が握る。2018年から2021年にかけ、各部材でシェアを10~20ポイント拡大した。

 韓国も状況は同様だ。韓国の車載電池原材料の97.5%が中国製との調査もある。前駆体97.5%、水酸化リチウム84.4%、硫酸コバルトは100%と、原料段階での依存度が極めて高い。

 この構造が意味するのは、中国が供給を止めれば日本も韓国も電池産業が機能不全に陥るという現実だ。技術では競争できても、資源調達で主導権を握られている状態に変わりはない。

全固体電池、反転攻勢

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全固体電池とは、有機電解液(可燃性)を固体電解質に置き換えたリチウムイオン電池の新型だ。安全性の課題を解消し、難燃性や液漏れの心配がない高い安全性が期待されている(画像:FDK)

 こうした状況のなかで、「全固体電池」に日本の反転攻勢への期待が集まっている。トヨタは2027~2028年の実用化を視野に、全固体電池を搭載した電気自動車(EV)の開発を進めている。単独ではなく、材料から製品までを一貫して手がけるため、出光興産と共同で取り組んでいる。

 技術面での優位性も際立っている。全固体電池に関する特許出願数では、トヨタと出光がともに世界のトップランナーだ。トヨタは電池の設計から製造までを担当し、出光は硫化物系固体電解質の研究開発で独自の特許網を構築してきた。

 出光はすでに2001(平成23)年から研究を始め、20年以上にわたる実績を積み重ねている。全固体電池の性能は群を抜いている。急速充電はわずか10分以下。目標とする航続距離は約1200kmで、これは現行EV「bZ4X」の約2.4倍に相当する。

 政府も支援に本腰を入れている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金は、総額2兆7564億円に拡充された。出光も量産体制の構築を着実に進めている。

 千葉事業所では、硫化リチウムの大型製造装置を建設中で、年産1000トンの生産能力を計画している。これはEV換算で5万~6万台分に相当する。総事業費は213億円で、そのうち最大71億円は助成金でまかなわれる見通しだ。

 この戦略のカギを握るのが

「垂直統合」

である。出光は石油精製の副産物である硫黄成分を活用し、原料から固体電解質までを一貫生産する。トヨタは電池の組み立てから車両への搭載までを担う。部材を中国に依存せず、日本の技術で世界市場への再挑戦を図る構えだ。

米IRA追い風の巨額投資

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カンザス州(画像:OpenStreetMap)

 米国では思わぬ追い風が吹いている。パナソニックは米国のIRA法によって、2023年度に純利益ベースで1118億円の優遇を受けた。現在、カンザス州に約6000億円を投じて新工場を建設中だ。

 当初は次世代電池「4680」の生産を想定していたが、まずは従来型の「2170」からスタートする。理由は単純で、従来型の需要が逼迫しているためだ。

 生産現場では試行錯誤が続く。ネバダ工場では生産の安定化に数年を要したが、カンザス工場ではその経験を活かし、安定稼働までの期間を大幅に短縮する計画だ。

 競合の動向も注目に値する。量産力で中国勢が先行する一方、日本勢は安全性と高品質で差別化を狙う。パナソニックの渡辺CTO(最高技術責任者)は「中国製との価格競争には巻き込まれない」と語る。あくまで技術力で勝負する姿勢を明確にしている。

 2030年には車載電池市場が6080GWh規模へと拡大する見通しだ。現在の約8倍に相当する巨大市場である。日本の2030年目標である150GWhも、現状の投資ペースが維持されれば前倒し達成の可能性が出てきた。

 なかでも注目されるのが全固体電池だ。実用化されれば、10分の急速充電で1200kmの走行が可能になる。これはEVの常識を塗り替える革新となりうる。

 特許出願数では日本勢が優位に立っており、技術面での主導権を握る展開も見込まれる。中国依存の構造も全固体電池によって変わる可能性がある。液体の電解質やセパレーターを使わず、新しい材料設計が求められるためだ。

 現時点で部材では中国が8割のシェアを握っているが、次世代技術で主導権が移る可能性がある。EVに全固体電池が搭載され、公道を走る日も遠くない。