矛盾だらけ? 高市首相「COP30欠席」で揺れるEV戦略――日本の自動車産業“地盤沈下”は始まるのか
欠席決定の衝撃と背景
高市早苗首相が、11月上旬にブラジルで開かれる国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の首脳級会合を欠席する見通しとなった。10月23日、共同通信が報じた。理由は臨時国会への対応を優先するためとされる。
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首相のCOP欠席は今回が初めてではない。石破茂前首相も同様の判断を下しており、気候変動対策をめぐる国際的な議論の場から日本の首脳が続けて姿を消す形となる。
確かにCOP29では、主要国で首脳級として参加したのはイタリアのメローニ首相と英国のスターマー首相のみにとどまった。首脳不在が必ずしも異例とはいえない。しかし、長期的に見れば、日本が国際社会での発言力を失うリスクは小さくない。
特に、自動車をはじめとする環境技術産業において、日本の外交的・経済的立場に影響が及ぶ可能性は高い。欧州やアジアの市場では、脱炭素戦略と産業政策が一体で議論されており、首脳が不在であることは交渉上の不利にもつながりかねない。
国内政治の優先は理解できるが、
「国際競争力の維持」
とのバランスをどう取るのか。短期的な政治判断が、長期の国益を損なうことにならないかが問われている。COP欠席が浮き彫りにしたのは、日本の気候外交における戦略的空白である。
国際環境の現状

ドナルド・トランプ米大統領(画像:EPA=時事)
米国はもともと二酸化炭素削減に積極的ではない。共和党のトランプ前大統領の考え方にも賛否がある。トランプ氏は、パリ協定のような国際的な温暖化対策によって米国産業が弱体化し、雇用が失われると主張してきた。自国の経済と雇用を優先する立場からすれば、排出削減に慎重になるのは自然な流れともいえる。
トランプ政権はまた、化石燃料産業の復興を経済政策の柱に据えた。石炭やシェールガスといった資源を国内産業の再生として掲げ、短期的な利益を重視した。結果として、石油・ガス関連の産業支援に政策の重点が移り、二酸化炭素削減への姿勢は後ろ向きなものとなった。
欧州でも、巨額の投資負担を背景に、温暖化対策への慎重論が強まっている。特にエネルギー価格高騰や産業競争力の低下を懸念する声が増えており、理想だけでは立ち行かない現実が浮き彫りになりつつある。
他方で、再生可能エネルギー産業が一部の大企業や特定の国に利益を集中させているという批判も根強い。太陽光パネルや電気自動車(EV)、電池などの主要部材は中国に生産が集中しており、各国の政策には中国経済の台頭を牽制する意図も透けて見える。
こうしたなかで、日本はアジア市場に位置する地理的優位性を持つ。世界の脱炭素競争が激化するいまこそ、積極的に国際的な議論に関与し、自国の戦略を発信する姿勢が求められる。国内では
「首相が出席しなくても政策発信は可能」
との意見もあるが、現実には首脳級の交渉の場に不在であることが、将来の国益を損なう懸念も大きい。
高市首相はとかく「国益」を強調するが、国際的な交渉の舞台から距離を置く姿勢には
「矛盾」
が残る。アジアではEVや電池の技術開発競争が激しさを増し、中国や韓国が国際標準の主導権を狙っている。日本がこの動きに出遅れれば、産業競争力の低下は避けられない。真の国益とは、外交の場で存在感を示し、技術と市場で主導権を握ることにある。
日本自動車産業への影響

2025年10月24日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ)
国際的な二酸化炭素排出規制とEVシフトの流れのなかで、日本の自動車メーカーの競争力は低下傾向にある。中国の台頭により、今後さらに地盤沈下するリスクも指摘されている。
国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Outlook 2025」によると、EV市場を牽引しているのは中国だ。2024年の販売台数は1130万台に達し、世界全体の約64%を占める。欧州は318万台で約18%、米国は152万台で約8%にとどまる。
一方、日本のEV普及率は2025年10月時点でわずか
「2.8%」
販売台数でも国際市場から大きく取り残されている。技術開発や市場参入の遅れは、他国との交渉力にも影響を及ぼす。結果として、国際的な規制や基準策定の場で不利な立場に追い込まれる恐れがある。
長期的に見れば、二酸化炭素削減への消極姿勢こそが国益を損なう可能性が高い。日本がEV分野で覇権を握るのはもはや現実的ではないが、
・技術力
・サプライチェーンの遅れ
をこれ以上拡大させるわけにはいかない。
国内市場を優先する戦略が一時的な利益をもたらしても、世界市場での成長機会を失えば産業基盤の衰退につながる。EV業界は変化が激しく、このままでは日本勢が取り残されるのは時間の問題だ。
国内政策との対比
高市政権の政策課題として掲げられているのは、物価高対策、給付金付き減税、そして燃料税の調整である。臨時国会で補正予算が成立すれば、国内経済の安定には一定の効果をもたらすだろう。しかし、短期的な景気対策が長期的な国際競争力を損なうリスクもある。
ガソリン減税は消費者や運送業界には直接的な支援となる。暫定税率が廃止されれば、ガソリン価格は1Lあたり約25円下がる見込みだ。暫定税率25.1円分に加え、消費税の課税対象も減るため、一般家庭では年間7000~9700円程度の負担軽減が見込まれている。
物流業においては、燃料費が総コストの約2割を占める。価格下落は経費削減につながり、運賃の引き下げ効果も期待できる。ただし、暫定税率を廃止した場合、国で約1兆円、地方で約5000億円の税収減が見込まれる。財政への影響は小さくない。
問題は、こうした政策が
「短期的な視点」
で設計されている点だ。長期的な産業構造の変化や技術転換を見据えた議論が欠けている。特に、ガソリン減税はEVへの関心を確実に冷ます要因となる。ガソリン車や中古エンジン車で十分という空気が広がれば、国内自動車産業全体の競争力はさらに低下する恐れがある。
景気対策の名目でガソリン依存を強めれば、結果的に技術革新の遅れを招く。国内経済の安定を重視すること自体は理解できるが、国際的な技術競争とのバランスを欠いた政策運営は、長期的な国益に反しかねない。新政権には、産業構造変化を見据えたリスク管理の視点が求められる。
国内外の評価・議論の分断

エコノミストのイメージ(画像:Pexels)
政治専門家やエコノミストは、首相不在でも二酸化炭素削減における国際的な存在感は維持可能だと評価する。しかし高市政権の外交姿勢を見る限り、その見方には疑問が残る。首相がCOPに出席しなくても、外相らの代表を派遣すれば代替は可能である。
消費者の間では、長引く不景気や年収低下、物価高を背景に短期的な経済政策に流される傾向がある。特に高市首相の支持層は、インターネット上で
「国内重視は正しい判断」
と強く評価し、それを拡散する傾向がある。この傾向は保守層に特有のもので、安倍政権時代から指摘されてきた。
冷静に見れば、短期的政策の評価に踊らされ、長期視点とのギャップに気づきにくくなる。オールドメディアは高市政権に厳しい論評を展開することが多いが、消費者はSNS中心に情報を得るため、政策判断の実効性評価にも偏りが生じやすい。
国際的な視点では、首相不在によるリーダーシップの欠如が、自動車産業など主要産業の競争力低下につながる可能性がある。国益を考えれば、短期的な国内優先の政策判断だけでは不十分である。長期的視点での戦略再考が求められる。
技術・産業戦略の視点
EVや脱炭素技術の競争では、中国や韓国の政策主導型投資が市場標準を形成しつつある。一方、日本は技術力自体は高い。
・リチウムイオン電池:吉野彰氏の研究
・ネオジム磁石:佐川眞人氏の研究
など、EV関連の技術は伝統的に優れている。
では、なぜ日本は技術力が高いのに国際市場で後れを取るのか――。答えは社会科学、特に
「政治や企業政策の質の低さ」
にある。国際協調や交渉力で後手に回り、EV開発や電池技術、サプライチェーンへの参入を本気で後押しする国内政策や企業政策はほとんど見られない。
中国のように、85%完成でも市場にまず投入し、調整で完成度を高める前向きな姿勢も欠けている。この結果、欧州やアジアでの規制対応力も低下してきた。今後5年以内に、
「日本メーカーが市場主導権を失う可能性」
は極めて高い。国内優先政策による短期利益と国際市場での失地のトレードオフを十分に考えていない。政策決定の現場から逃げているようにすら見える。
高市首相の政治的強みと国際的リスク

強い日本のイメージ(画像:写真AC)
高市政権は財政余力を活用し、株式市場の支持を得て、SNS発信力を高めることで長期政権化を目指しているようだ。しかし
・強い日本を取り戻す
・日本をもとの形に戻す
という表現の意味は不明瞭である。高市首相の発言では
「戻す」
という言葉が目立つが、国内外の環境変化はDX化も手伝って速く進んでいる。いつの時点に戻すのかも明確でない。
欠けているのは、未来の日本を国際社会で経済的に強い立場へ押し上げる視点である。政治の基本的な役割が認識されておらず、国際社会との乖離は広がるばかりだ。COP欠席により、対外政策や環境外交での発言力が弱まる可能性は高い。
企業の立場から見ると、新政権発足期で批判しにくい空気はあるが、政治的な発言や交渉の情報は重要である。特に自動車産業にとって、規制調整や技術協力の機会を失わないかの点検は必要だ。企業活動と国際競争力を守る視点が求められている。
短期安定と国際競争力のジレンマ

2025年10月24日発表。主要12か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)
現在の日本は、
・短期的な安定経済政策
・国際競争力維持
の間でジレンマにある。この状況を消費者自身が認識すべきだ。インターネット上での高市首相支持層の発言に踊らされる傾向も見られる。実際、各社調査で高市首相の支持率は60%後半から70%程度となっており、国民の一部は支持にシフトしていることが従前の動向からも明らかである。
日本の自動車産業は、政治動向に左右されず、アジアや欧州市場でのEV技術連携や規制標準化への積極参加を進める必要がある。新規ビジネスの検討や、国内政策優先と国際交渉のバランスを企業主導で補うことが求められる。
企業サイドから政策を刺激しなければ、国内志向のポピュリズム政策が増える恐れがある。
COP欠席の一時的合理性と長期的損失

環境問題イメージ(画像:Pexels)
高市首相のCOP30欠席は、国内政治上の判断として理解できる。しかし長期的に見れば、日本自動車産業の国際競争力を削ぐリスクを含む。国内メーカーは国内市場の恩恵に依存しつつも、国際的な技術競争で遅れを取らない戦略構築が求められる。
国内優先策と国際戦略のバランスは、単なる政策判断ではなく、産業戦略そのものである。企業側から政策を刺激しなければ、日本は国際市場で取り残される。政治と産業の共存共栄を考える上では、政策を動かす産業側の決断も必要だ。
COP不在の影響を軽視せず、戦略的にリスクを管理することが、日本の自動車産業の将来に直結する。産業界は短期的利益にとどまらず、長期的視点での行動が求められている。