三井金属【5706】株価「垂直上げ」年初来2.9倍 大型株化のナゼ AI商機のスマホ材料、期待の全固体電池材料に注目のワケ

三井金属【5706】株価「垂直上げ」年初来2.9倍 大型株化のナゼ AI商機のスマホ材料、期待の全固体電池材料に注目のワケ
株価急上昇 起爆剤は鉱山停止とノーベル賞
三井金属の株式が急激に買われています。株価は2025年8月ごろからほぼ垂直に上昇し、年初来で2.9倍に値上がりしました。時価総額は2670億円から、7780億円まで増加します(25年10月23日終値)。大型株が対象の「JPXプライム150指数」にも、資本収益性の高さから25年8月に新採用されました。
【三井金属の株価チャート(過去5年間)】
・株価:1万3605円(25年10月23日終値)

出所:Tradingview
株価急騰の背景には銅の供給懸念があります。25年の8月にチリのエル・テニエンテ鉱山が、9月にはインドネシアのグラスベルグ鉱山が事故から操業を停止しました。23年には世界最大級の産出量だったパナマのコブレ鉱山が閉山を決定しており、供給の縮小が危惧されています。
AI需要などから銅のニーズが高まるなか、世界有数の鉱山が相次いで停止したことから、銅市況は大幅に上昇しました。三井金属はペルーの自社鉱山から銅鉱石も産出(※)するほか、銅製品も生産しており、利益拡大の思惑から投資家の資金が向かっていると思われます。さらに、25年10月には金属有機構造体(MOF)の開発がノーベル化学賞を受賞し、同事業を展開する三井金属にも「ご祝儀買い」が入った模様です。
※三井金属のペルーのワンサラ鉱山およびパルカ鉱山の主な産出は亜鉛・鉛
このように、足元の株価上昇は外部要因が大きく影響しています。外部要因は予見が難しく、今後も高値が続く保証はありません。
株式の価値の源泉は、その企業が稼ぎ出す利益です。三井金属の今後を占うなら、同社の事業内容に目を向けるほうが望ましいでしょう。三井金属が展開する素材ビジネスを解説します。
スマホ材料で世界シェア95% 今後はAIサーバーで需要拡大、増産へ
三井金属は大きく4つの事業を手掛けます。足元は「金属」が伸びていますが、中核は「機能材料」です。金属は利益変動が大きく、直近10年で3度の赤字を経験しています。一方、機能材料は比較的安定して利益を稼いできました。なお、自動車関連の事業は、子会社の三井金属アクトを売却したこともあり、縮小の方針です。
【セグメント情報(25年3月期)】

※26年3月期より「モビリティ」は「自動車部品」に変更、排ガス浄化触媒は「機能材料」に、ダイカスト製品および粉末冶金製品は「その他の事業」に移管
出所:三井金属 決算短信

出所:三井金属 決算短信より著者作成
機能材料の主力が銅箔です。「マイクロシン」と呼ぶキャリア(支持体)付きの極薄銅箔が看板商品で、半導体デバイスのパッケージ材料やプリント配線基板などに用いられます。最終品としては、スマートフォンが主な用途です。キャリア付き極薄銅箔の世界シェアは95%に達しており、世界中のスマートフォンに三井金属の製品が使われているといえます。
マイクロシンは今後、非スマホ領域での成長が期待されています。AI需要などからデータセンターは世界的に増設の傾向で、それらの機器向けに販売が伸びる想定です。さらに、自動運転の進展に伴うセンサーやレーダーの需要増加から、車載向け部品での採用も期待されます。既存のスマホ市場が成熟するなか、新領域での需要を獲得し、成長を図ります。
ほかに、表面が極めて平滑な「VSP」や、基盤に内蔵できるキャパシタ(コンデンサ)材の「ファラドフレックス」といった銅箔も提供しています。いずれも通信インフラ機器が主な用途で、AIサーバーや5G通信基地局向けに高成長が続く想定です。
【販売量の年予想成長率(23年3月期~31年3月期)】
・マイクロシン(パッケージ向け):13%
・マイクロシン(HDI向け)(※):6%
・VSP:13%
・VSPのうちハイグレード:43%
・ファラドフレックス:18%
※HDI(High Density Interconnected)…高密度実装配線基板
出所:三井金属 機能材料事業説明会資料
三井金属は、需要の高まりに増産で応えます。マイクロシンは現在の月490万平方メートルから27年に月520万平方メートル、30年には月560万平方メートルに引き上げます。また、VSPは26年9月までに1.45倍に、ファラドフレックスは26年3月までに1.6倍に生産能力を増強する計画です。
さらに、報道では半導体向けに熱膨張抑制材を量産開始すると伝えられています。いずれもデジタル化が進む世界で成長が期待される領域で、三井金属は生産を増やし収益につなげる狙いです。
全固体電池が産業用でも実用化フェーズに 採用相次ぐ中核材料を本格量産
銅箔に続き、成長が期待されるのが全固体電池向けの材料です。三井金属は16年に固体電解質「Aソリッド 」を開発し、量産化を進めています。
全固体電池は、すべて固体の材料で作られる電池です。一般的な電池と異なり、可燃性の電解液を用いません。近年はモバイルバッテリーの事故が多く報道されていますが、全固体電池なら発火や破裂などの抑制が期待されます。
また、Aソリッドは硫黄系の電解質で、一般にセラミック系やポリマー系よりも大容量化・高出力化に向いています。さらに、作動温度域がマイナス40度~150度と広範です。このため、大きな電力を要し、かつ過酷な環境での稼働も想定される産業機器や電気自動車での採用が期待されます。
実際、産業用ではすでに実用化が進んでいます。Aソリッドはマクセル(旧・日立マクセル)に提供され、同社は22年にFA(工場自動化)機器向けに製品化しました。大容量の全固体電池の量産化は世界初とみられます。マクセルの全固体電池は23年にニコンのFA機器向けセンサーに採用されたほか、25年8月にはSUBARUの産業用ロボットにテスト採用されます。さらに、Aソリッドはカナデビア(旧・日立造船)の全固体電池にも使用されており、24年には初の商業受注を半導体製造装置向けに獲得しました。
このように、全固体電池は産業用でも試験段階から実用化段階へとステージを移しています。従来は、電子部品向けといった比較的小さい容量の製品化にとどまっていました。産業向けでも活用が進んできており、市場の拡大がうかがえます。今後は電気自動車の普及に伴い、全固体電池市場は2030年代に急激に拡大することが想定されています。
三井金属は、25年中にAソリッドの生産能力を4倍に増強するほか、27年には新しく初期量産工場を稼働させる計画です。稼働すれば、同社の生産能力は世界最大規模になる見込みです。24年には、Aソリッドが経済産業省の「蓄電池に係る供給確保計画」に認定され、投資額198億円に対し最大99億円の助成が決定しました。本格的な量産体制を構築し、全固体電池向けの材料を新しい利益の柱に育てます。
最高業績も今期は大幅減益を予想 30年度に経常益1000億円を計画
最後に全体の業績も押さえましょう。コロナ禍は比較的堅調でしたが、23年3月期に大幅な減益となりました。全体の売り上げは堅調だった一方、主力の機能材料で販売が減少したほか、エネルギーコストの上昇が利益を圧迫した格好です。
以降はV字回復となっており、機能材料が持ち直したほか、金属の利益拡大が貢献しています。25年3月期は売上高および各段階利益は過去最高を更新しました。

出所:三井金属 決算短信および決算説明会資料より著者作成
ただし、今期(26年3月期)は一転して大幅な減益の計画です。機能材料は増益を見込みますが、金属の減益や金属を中心とした市況変動に伴う在庫要因の悪化を見込んでおり、経常利益は大きく減少する予想となっています。
また、純利益はさらに落ち込む想定です。前期に特別利益として計上した投資有価証券の売却益がはく落すること、第1四半期に三井金属アクトの売却に伴う特別損失を計上したことが影響します。もっとも、冒頭のとおり金属市況は足元で上昇しており、利益は想定より上振れる可能性があります。
【三井金属の業績予想(26年3月期)】
・売上高:6650億円(-6.6%)
・実力ベース経常利益:464億円(-20.5%)
・経常利益:440億円(-42.4%)
・純利益:170億円(-73.7%)
※()は前期比
※同第1四半期時点における同社の予想
※実力ベース経常利益は、経常利益から在庫要因と触媒貴金属価格影響を除いたもの
出所:三井金属 決算短信および決算説明会資料
また、今期は大幅な減益ですが、中長期では成長を見込みます。経常利益は28年3月期に700億円(26年3月期予想比:+59.1%)、31年3月期には1000億円(同+127.3%)まで引き上げる計画です。主力の銅箔で積極的な拡販に取り組むほか、全固体電池向け材料も育成し、目標の達成を目指します。
若山 卓也/金融ライター
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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