eMAXIS Slim生みの親・代田秀雄氏「信託報酬を運用会社がコントロールするなんて無理」の理由【新NISA応援】

 本連載12回目は代田(しろた)秀雄さんの登場。純資産総額首位の投資信託「eMAXIS Slim」シリーズの生みの親だ。2025年4月1日付で常務を退任した三菱UFJアセットマネジメントでは特別業務顧問として長期投資の伝道師を務めるとともに起業し、シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズの代表となった。【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025秋号」から抜粋しています】

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 預貯金として滞留しがちなお金を投資へ送り出すための太いパイプが新NISAだとすれば、お金の受け皿の代表格はインデックス投資信託(以下、投信)「eMAXIS Slim」シリーズだ。

 このシリーズの「米国株式(S&P500)」と、オルカンこと「全世界株式(オール・カントリー)」は日本の追加型株式投信5000本以上の中で純資産総額1位と2位を独占。

 2本合計で17兆円を超える(2025年10月10日現在)。

 eMAXIS Slimと代田さんの名前は間違いなく、新NISAの成功とともに日本の資産運用の歴史に残ることになる。

■「絶対にシェア1位を」と

 eMAXIS Slimがインデックス投信のトップブランドとして成長した背景には、世界の資産運用の潮流を知る代田さんが、つみたてNISAのスタートを勝機と見抜いたことにある。

 eMAXIS Slimの発売はつみたてNISA開始1年前の2017年。当時はニッセイアセットの販売手数料ゼロの「購入・換金手数料なし」やアセマネOneの「たわらノーロード」などが人気で、個別ではニッセイの外国株式ファンドが目立っていた。

「2014年に旧NISAがはじまりましたが、2018年からのつみたてNISAでこそ圧倒的なシェアを取りにいかないと、インデックス投信の戦いを勝ち抜けないと考えていました」

 と代田さんは振り返る。

「旧NISAはどちらかというと課税口座(特定口座、一般口座)の資産を非課税口座に移動させる動きが多かった。

 しかし、つみたてNISAでは新たなお金が入ってくると予測していました。最初の流入は少なくても、つみたてを続けてもらえば将来的にすごい規模になる。

 だから絶対に取りたいと思い、つみたてNISA開始前にSlimシリーズの発売をなんとか間に合わせたんです」

 それより前の2009年、投信名に「Slim」が付かない「eMAXIS」シリーズが発売されていた。代田さんが三菱信託銀行から三菱UFJ投信(社名は当時)に移って2年目だ。

「信託報酬(税抜き、年率、上限/以下同)は国内型が0.4%、海外型が0.6%、国内外一体型が0.5%とわかりやすい商品設計にしました。当時の業界最低水準です。

 ただ、すでに三菱UFJではインデックス投信を運用しているし、既存のものよりはるかに低コストなので儲からない。

 社内では『これ、本当にやるの?』という雰囲気も一部ありました。販売会社さんの反応も全社大歓迎とまではいかなかったです」

 新卒で入った信託銀行時代は主に年金資金の運用を手がけた代田さん。2008年に三菱UFJ投信へ移ったときは、「インデックス投信がそんなに売れていないのが不思議でならなかった」という。

 代田さんは、年金運用の世界で運用規制緩和によりインデックス運用を得意とする外資系運用機関のシェアが急激に増加する様子を目の当たりにした。

「年金運用と同じように、個人の資金運用でも『インデックス化』が進むと考えました」

■約束を守るしか…

 オルカンの信託報酬(税込み)は現在、年0.05775%。投資家にとって運用コストは安いほどうれしいが、安すぎて金融機関が儲からなさすぎるのもどうか。

 0.05775%に引き下げる前は0.1133%だった。年0.1%台でも「高い」と文句を言う投資家はほぼ見かけなかった記憶がある。

「自由競争経済ですから。コストや価格を運用会社側でコントロールするなんて無理ですよ」

 全世界株式インデックス投信の信託報酬の最安水準が0.1133%だった時代に、日興アセット(現アモーヴァ・アセット/2025年9月1日社名変更)が「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」で0.05775%(その他コスト別途)で参戦。

 そこに野村アセットが「はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)」を0.05775%でそろえてきた。

 最安水準を約束している三菱UFJアセットは好む好まざるにかかわらず約束を守る以外の選択肢はなく、検討期間を経てオルカンの信託報酬を0.05775%に下げた。「やっぱりeMAXIS Slim」と安心した投資家も多かっただろう。

 確かにこの状況はコントロールできない。ただ、採算度外視で引き下げたわけではない。

「運用会社の収入は『純資産総額×信託報酬×投資家の保有期間』です。信託報酬を下げても、投資家のみなさんの支持を得て純資産総額が増えれば打ち返せます」

 代田さんによれば、信託報酬の引き下げもブランド戦略の一環。

 そんな代田さんのことを、メディアは「eMAXIS Slimの生みの親」と呼ぶ。ご本人はそう言われることをどう思っている?

「ご存じの通り、投資信託は一人で作れるものではありません。その投資信託の企画書や設計図を作ったり、目論見書や約款を仕上げたりする事務方の仕事がある。正確に運用するため、1円ではなく1銭のコストを抑えるために、運用チームも信じられないような努力を重ねています。

 私が『eMAXIS Slimの生みの親』と言われると複雑な気持ちです。ただ『eMAXIS Slim』というブランドをより高めていくためには『顔が見えること』も大切な要素。私だけでなく、このブランドに関わる多くの社員の顔がもっとみなさまに見えるようになるといいと思います」

 ブランディングのゴールは一般人の感情移入だ。

「SNSなどで『俺たちのeMAXIS Slim』というフレーズを目にすると本当にうれしい」

 と語る代田さんは、普段のキリッとしたお顔から想像もできないほど相好を崩していた。

■退社しっぱなしはダメ

 代田さんは2025年4月に三菱UFJアセットマネジメント常務取締役を退任。これからは経営自体には関わらず、同社の特別業務顧問としてeMAXIS Slimをはじめ長期投資の普及に尽力する。

「シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ」という会社も立ち上げた。企業向けにブランド戦略や資産運用のアドバイスを行う。実はこの取材の時間がなかなか決まらなかったほど多忙な日々だ。

「eMAXIS Slimシリーズ全体で延べ1000万人以上の方に保有していただいています。

 多くの方が投資をはじめてくださったのに、長期投資を推進してきた私が『退社しました。あとは知りません』ではいけない。引き続き投資家のみなさんに寄り添っていきたいと思います。相場が乱れたときの情報発信やブロガーミーティングなどのイベントで投資家に声援を送っていきたいです」

 いわばeMAXIS Slimの伝道師というわけだ。ちなみに代田さんご自身も新NISAで満額、つみたてを続けている。

 eMAXIS Slimシリーズの投信は全部で16本ある。おなじみのS&P500やオルカン(全世界株式)に加え、日本株ではTOPIX(東証株価指数)と日経平均株価、最近では「読売333」も登場した。

 国内外の債券やREIT(不動産投信)、バランス型もある。

 20年後の純資産総額はどうなっているだろう?

「2024年にシリーズ全体の資金流入は約4.9兆円、運用益が約3兆円でしたから、年間で約7.9兆円、純資産総額が増えました。

 今つみたてをしていただいている方が運用を継続してくださり、新たにつみたてをはじめる方を取り込むことで、この資金流入のペースが今後も続くなら、5年で25兆円近く。現在の純資産総額と合わせると40兆円規模になります。これに運用益が加わります」

 代田さんは続ける。

「仮に純資産総額が50兆円になれば、運用面もコスト面もさらなる余裕が生まれます。

 そして重要なことですが、欧米のインデックス投信と伍(ご)していくには、少なくともこのくらいの規模が必要ではないかということです。

 これがインデックスビジネスなんです」

取材・文/中島晶子(AERA編集部)、大場宏明

代田秀雄(しろた・ひでお)シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ代表。1985年、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。数年間、法人融資などを担当後、年金運用業務に従事。その後、三菱UFJ投信(現三菱UFJアセットマネジメント)に移籍。投信商品企画部長などを経て2019年より常務取締役、商品マーケティング部門長。2025年4月、同社常務取締役を退任し特別業務顧問に就任するとともに、シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズを設立。国内で最大規模のインデックス投資信託「eMAXIS Slim」シリーズの生みの親として名高い

編集/綾小路麗香、伊藤忍

『AERA Money 2025秋号』から抜粋

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