米国民の経済的不満、共和党に逆風 再び選挙左右

ニューヨーク市長選で当選したゾーラン・マムダニ氏は、経済が全ての人のために機能していないと主張した
米国3州で4日に実施された選挙は、経済情勢に対する国民の不満が結果を決定づけ、権力を握っている政党が敗北する形となった。経済的な不満が、国内政治を動かす大きな要因であることが改めて示された。
経済問題を中心に取り上げた3人の民主党候補が、米国内の最大都市と二つの州を率いていくことになる。
ニューヨーク市の市長選では民主社会主義者のゾーラン・マムダニ氏(34)が勝利。選挙では手頃な価格の住宅や、大都市における生活コストが取り上げられた。またニュージャージー州では、ここ1年で電力料金が20%近く上昇し、有権者の不満が高まっていた。バージニア州では、トランプ政権による連邦政府職員の削減や、政府機関の閉鎖により、多くの労働者が収入を得られない状況にある。
4日の選挙は、いずれも地域の最も大きな問題として経済や生活コストを挙げた有権者によって決定づけられた。調査会社SSRSが実施した出口調査によると、このような有権者は三つの選挙の全てで、ほぼ2対1の割合で民主党候補に投票していた。
昨年の大統領選でドナルド・トランプ大統領を勝利へと導いた不満の多くは、現在は共和党にとって不利に働いているとみられる。食料品や交通コスト、住宅の価格高騰は、有権者が受け入れられる水準を大きく上回ったままとなっている。物価上昇率は2022年の高水準こそ大きく下回っているものの、トランプ氏が打ち出した関税政策の影響もあり、最近はやや上向いている。その中で採用の低迷など、有権者の不満をあおる新たな問題も浮上している。
株式市場は投資家に大きな利益をもたらし、高所得者の支出は経済をけん引してきた。だが低所得者の賃金上昇は停滞し、多くの若い国民は住宅市場や雇用市場から締め出されている。
この二極化経済の力学は、今回ニューヨーク市長に当選したマムダニ氏にとって有利に働いた。同氏は経済が全ての人のために機能していないと主張し、家主と億万長者を敵として描いた。
無名の州議会議員だったマムダニ氏は、市長選の当選者へと躍進。その中では、生活費を巡る問題に焦点を当てたソーシャルメディア上の選挙戦を展開した。同氏はバスや保育の無償化、特定の集合住宅の住民に対しては家賃凍結を約束。これらはバイデン前政権時代のインフレに焦点を当てたトランプ陣営の成功戦略を参考にしたという。
フィル・ルビアネスさん(26)は、民主党予備選でマムダニ氏に票を入れた際、人生初の投票を行ったと述べた。また同氏のために数回にわたってボランティア活動に参加。宅配・航空貨物大手のユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の運転手を務めるルビアネスさんは、長年にわたりバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)を支持してきたが、投票所まで足を運ぶ価値のある他の政治家を見つけたことはなかったという。
ルビアネスさんは、マムダニ氏が住宅価格の高騰を解決することに期待していると言及。新型コロナウイルス流行中の2021年、ニューヨークに引っ越してきた際には家賃が下落しており、ブルックリンのベッドフォード=スタイベサント地区の集合住宅をシェアするコストは1000ドル(約15万4000円)だった。だがその後は家賃上昇で2度の引っ越しを余儀なくされ、現在はマンハッタンからより遠いクイーンズのリッジウッド地区で、4人の男性と集合住宅をシェアして月1500ドルを支払っているという。
ルビアネスさんによれば、24年にトランプ氏を支持した同僚の運転手の多くは、手頃な価格の実現を約束したマムダニ氏を支持している。また「無料保育、家賃凍結と聞けば、ノーと言うのは難しい。市にこれほど大きな変化をもたらすチャンスがあるなら、賭けてみる価値がある」と述べた。

ニューヨーク市内の食料品店。マムダニ氏は、勝利を収めた市長選の選挙活動で大都市の生活費に焦点を当てた
一方でニューヨーク市内の最富裕層の一部は、マムダニ氏勝利の可能性に反発し、富裕層が住むアッパー・イースト・サイドとトライベッカ地区では、ニューヨーク州知事を務めていたアンドリュー・クオモ候補が支持を集めた。世帯年収30万ドル以上の有権者は、出口調査によると62%がクオモ氏、33%がマムダニ氏に投票した。
だがマムダニ氏の看板は、ブルックリンにある価格が数百万ドルのタウンハウスの窓などでもよく見られた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がニューヨーク市選挙管理委員会のデータを分析したところ、高級住宅地のパーク・スロープでは55ポイント以上の差でマムダニ氏が支持された。
手頃な物価を実現するとしたマムダニ氏のメッセージは、国内の他の多くの地域では裕福と見なされる有権者にも響いた。ニューヨークでは中産階級の所得者でさえ、市内の天文学的な物価上昇に対応するのが困難となっている。SSRSの調査によれば、マムダニ氏は年収10万ドルから29万9999ドルの層では、53%対39%で勝利した。
ニュージャージー州では急騰する電力料金が、知事選を左右する大きな要因となった。出口調査によれば、有権者のほぼ10人中9人は、電気料金が地域の問題になっていると回答した。
出口調査によれば、民主党候補のマイキー・シェリル氏はこうした有権者の過半数を獲得し、電気料金の上昇に対する住民や事業主の怒りの波に乗った。米エネルギー情報局(EIA)の最新データによると、同州の小売り電力料金は8月に前年同月比で19%上昇し、全米で最も急激な値上がりを示した地域の一つとなった。
シェリル氏は選挙期間中、公共料金に関する非常事態を宣言すると述べ、これによりコスト削減措置を追求する間、料金を凍結できると説明した。共和党から出馬した対立候補のジャック・チャタレリ氏は、電力料金を下げる方法として地域の炭素削減プログラムからの脱退を約束していた。

民主党のマイキー・シェリル氏は、電気料金上昇への怒りを追い風にニュージャージー州知事となった
一方、国内で最も多くの連邦職員が集中する地域の一つであるバージニア州では、1カ月間の政府機関閉鎖とトランプ氏による連邦政府職員削減が多くの有権者の怒りにつながり、民主党への投票を後押ししたと複数のエコノミストは述べた。出口調査によると、政府による人員削減の影響を最も受けた有権者は、知事選で民主党のアビゲイル・スパンバーガー氏を支持。これら有権者のスパンバーガー氏への支持は、共和党のウィンサム・アールシアーズ氏を40ポイント上回っていた。
政府機関の閉鎖で多くの連邦職員の給与が支払われない中、州全体としても経済活動は週10億ドル以上減少している。バージニア州ノーフォークにあるオールド・ドミニオン大学のロバート・マクナブ経済学部長は、その影響について、州北部にある首都ワシントン郊外とハンプトン・ローズ地域の軍事拠点に集中しているとした。
マクナブ氏は「北バージニアの有権者にとって主要な問題は、明らかに連邦雇用の削減と連邦補助金・契約を巡る不確実性だったと思う」と指摘。「2025年のバージニア州の継続失業保険申請件数は、24年や23年と比較して毎週高くなっている。継続失業保険申請の構成をみると、申請の大部分は北バージニアとハンプトン・ローズからのものだ」と述べた。
スパンバーガー氏は選挙戦で経済問題を中心的に取り上げ、支持を獲得した。一方のアールシアーズ氏は「分裂的な社会や文化問題」に焦点を当てたと、米ジョージ・メイソン大学シャー公共政策大学院学部長のマーク・ロゼル氏は述べた。
ロゼル氏はこれらの社会および文化的な問題について、4年前はより重要だったと指摘。その際の選挙では、新型コロナ流行に伴う学級閉鎖に対する保護者の不満や、トランスジェンダーの権利に関する問題を追い風に、グレン・ヤンキン氏が知事選で勝利したという。
だがロゼル氏は「これは4年前の共和党にとっては、うまく機能した」ものの、今回は「ある程度の経済不安が生じている中で、有権者には通用しなかった」とした。