【2026年の自動車産業】中国に負ける日本、ハード・ソフトで圧倒的な差も…現実を直視し技術を盗み返すべき理由

BYDや浙江吉利だけではない、中国勢が世界を席巻, 日本を圧倒する巨大「ギガキャスト」メーカー, 自動運転ソフトで世界をリード, いまや日本が技術を「盗む」立場に

BYDなど中国自動車メーカーの国際化が加速している。写真は2025年11月のサンパウロ国際モーターショー(写真:ZUMA Press/アフロ)

(井上 久男:ジャーナリスト)

 中国車が2025年の世界販売首位に、日本車抜く――日本経済新聞電子版は12月29日、こう報じた。国別では米国車を追い抜き、長年、日本車が世界首位を守ってきたが、中国車に追い抜かれて2位になるという。

◎中国車が25年の世界販売首位に、日本抜く 低価格EVで摩擦強まる

 すでに23年には自動車の輸出台数で日本は中国に追い抜かれて2位に落ちていた。いずれ世界販売でも中国車に抜かれる日が来るだろうとは思っていた。台数で日本車が再び中国車を抜き返すことはおそらく難しいのではないか。

 25年1~6月の世界市場における新車販売台数でも中国勢の台頭が著しい。トヨタ自動車は1位の座を死守したものの、トップテンの中に中国のBYD(7位)と浙江吉利控股集団(8位)が食い込み、ホンダ(9位)を上回った。日産自動車はトップテン圏外の11位だった。

 BYDは日本でもその名が知られるようになったが、浙江吉利は、スウェーデンのボルボやマレーシアのプロトンを買収したことで知られる。

 その中国BYDが26年夏に軽自動車EV「ラッコ」を日本市場に投入する。「ラッコ」は日本市場専用に設計した車で、同社にとっては初の海外専用モデルとなる。BYDはおそらく、軽自動車の国際化を推進してアフリカなど世界の新興国市場の獲得を狙っているのではないか。アフリカではスズキがシェア1位の国がかなりある。こうした市場を狙っているのではとみられる。

 さらにBYDはタイで新工場を建設し、トルコやハンガリーでも現地生産を始める計画で、欧州市場攻略にも動いている。特に中国勢は、日本車の牙城であった東南アジアに攻め込んでおり、日本車のシェアを奪っている。東南アジアを収益源とする三菱自動車はタイで乗用車を製造する第3工場を休止することになった。

 歴史は繰り返すという。日本車もグローバル市場に打って出て、そこで貿易摩擦が起こった。1995年の日米自動車協議での合意を契機に日本の自動車メーカーは海外での現地生産を加速させた。中国の輸出攻勢により、世界の市場は警戒感を強めている。こうした流れを受け、現地化を進めているのだろう。

BYDや浙江吉利だけではない、中国勢が世界を席巻

 BYDや浙江吉利だけではなく、勢いのある中国の新興EVメーカーも国際化を進めている。筆者は25年7月、新興EVメーカーの一角、小鵬汽車(本社・広州市)を訪れた。14年に創業され、20年にはニューヨーク証券市場に上場も果たした。CEO(最高経営責任者)の何小鵬氏はIT企業の経営を経て小鵬汽車を創業した。

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小鵬汽車本社(写真:2025年7月筆者撮影)

 23年には独フォルクス―ワーゲンから7億ドルの出資を受け、戦略的な提携契約を結び、共同購買などを進めている。インドネシアにもノックダウン式の工場を設けた。米シリコンバレーなどにも開発拠点を持つ。

 小鵬汽車はすでに30以上の世界・地域に進出しているが、25年末までに60以上を目指す計画で、33年までに販売台数の半分以上を海外で売ることを目標にしている。中近東やアジア太平洋、欧州が強化する市場と位置付けている。

 小鵬汽車の24年の全販売台数は前年比34%増の19万台。このうちオランダやデンマーク、ノルウェーなど海外での販売が4万7000台だった。

 小鵬汽車は、技術志向が強く、社員2万1000人のうち4割が研究開発に従事している。「我々が力を入れている分野は、AIカー、スマートカー、人型ロボット。グローバルに成長するAI企業になりたい」と説明した。

 そして現在、力を入れているのが空飛ぶ車だ。大型のミニバンのような車の天井が開き、そこから電動式で垂直離着陸できる「eVTOL」が飛び立つ。充電が切れそうになれば、車に戻って再び充電できる。地上を走る空母をイメージして開発され、26年から発売予定だ。価格は200万元(約4400万円)。すでに中近東でプレオーダーが始まっているという。

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小鵬汽車の空飛ぶクルマのイメージ写真(小鵬汽車のウェブサイトより)

 中国政府はいま、高度1000メートル以下を物流や観光などに活用する「低空経済圏」の開拓を推進しているが、こうした流れにも沿っている。

 中国車のグローバル戦略の強化は、完成車メーカーだけで成し遂げられるものではない。生産設備メーカーなども国際化を推進している。

日本を圧倒する巨大「ギガキャスト」メーカー

 25年7月には、香港に本社を置き、世界最大の鋳造機メーカーと言われるLKテクノロジーホールディングスにも訪れた。同社の劉卓銘CEOは「日本人の記者を受け入れたのはおそらく初めてだと思います」と語った。

 同社が注目を浴びたのは、EVで先行する米テスラが上海工場を建設後、20年から生産を始めた「モデルY」の車体軽量化に大きな貢献をしたからだ。その技術は「ギガキャスト」や「ギガプレス」と呼ばれる。車体の骨格の一部である床部分は数百の鉄のプレス部品を溶接して製造するのが主流だったが、鉄よりも軽いアルミ合金を溶かして巨大な金型で一体成型する技術のことだ。

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LK製の巨大鋳造設備。さらにこれよりも巨大なものを製品化している(写真:2025年7月筆者撮影)

 テスラが世界に先駆けてこの技術を導入し、それを担当したのがLKだった。LKは1979年、香港で劉CEOの父である劉相尚氏が創業した。最初は玩具や日用品などを作るための小型鋳造機メーカーだったが、08年にイタリアの大型鋳造機メーカー、イドラを買収したことなどにより業容を拡大してきた。

 中国深セン郊外のBYDのサプライヤーパークがあるLKの最新鋭の工場にも訪れたが、日本では見たことのないような巨大設備が並んでいた。同社が製造する鋳造機は巨大だ。

 これまで複数の部品で構成されている部分を一体成型するため、大きな金型が必要になる。この金型に溶けたアルミ合金を流し込み、瞬時に固めるために高い圧力をかけて押し出す。テスラが導入した初期は、圧力が4500トン程度だったが、LKはすでに1万6000トン級を商品化し、2万トン級の開発も進めている。

 ちなみに6000トン級で鋳造機の大きさはおよそ縦20メートル、幅30メートル、高さ15メートルで、重さは100トン以上ある。鋳造機自体を車体工場に運ぶノウハウも重要になる。現在、日本国内では6000トン級以上の鋳造機を作ることができるメーカーは存在しないだろう。

 LKは今後、欧州など世界市場への進出を強化する計画。劉CEOは筆者の取材に対してこう語った。

「世界でLKグループの存在感を高めていくことを大きな目標として掲げている。現在は中国向けが8割、海外向けが2割のところを今後5年から10年かけて海外向けを4割に高めていきたい。海外はサービスの拠点が中心だったが、今後は現地生産を強化していかなければならないと考えている」

 こうした鋳造技術には、金型、材料、熱制御などのノウハウが求められる。日本はこうした領域で強かったはずだが、ここでも劣後し始めているのではないかと感じた。勢いでは完全に劣勢だ。

自動運転ソフトで世界をリード

 LKをハード領域の企業だとすると、ソフトウエア領域に強い企業にも訪れた。自動運転のソフトウエアを開発しているポニーaiやWeRideなどだ。

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トヨタも出資するポニーaiが開発したシステムが載る無人運転のロボットタクシー(写真:2025年7月筆者撮影)

 中国の広州や深センでタクシーを呼ぶと、運転手がいない「ロボットタクシー」がやってくることがある。無人運転バスも走行しているが、こうした会社の技術を使っている。こうした中国のソフト領域の会社は「割り切った社会実装力」に強みがあるように感じた。新しい技術を実社会に導入し、軌道修正しながら確実なものに仕上げる力ともいえる。

 前述した小鵬汽車やソフトウエア会社には、筆者の視点では4つの共通項があった。①「AIカンパニー」を目指していること、②米国に開発などの拠点を持つこと、③米国市場で上場していること、④経営のスピードが速いことだ。

 米中の政治的な対立ばかりが注目されるが、資金調達や部品調達などの面で米中の産業界は実は密接につながっていることが分かった。筆者が半導体調達について尋ねると、「米中両政府の顔を立てる形で調達している」と答える企業もあった。第三国経由で調達しているのだという。

 日本は、米中の政治的な対立を過剰に意識し、かつ日本の同盟国である米国を過剰に信用した結果、対中戦略を誤ると、いずれ米国からも梯子(はしご)を外され、日米、日中関係がともに崩れる結果になるのではないかと感じた。これは言い過ぎかもしれないが、米中対立は「プロレス的要素」もかなりある。

 台湾問題に関する「高市発言」により、日中関係は悪化した。SNSなどでも中国を叩けば盛り上がる。しかし、日本の国益を考えれば、果たしてそれで良いのだろうか。

 また、今の日本国内では、中国は共産党一党支配が続く「特殊な国」だと指摘する声も少なからずある。軍事力の台頭とともに、「中国は怖い」といったイメージもある。経済力、軍事力が共に強大となった隣国を「怖い」と思うのは、自然な国民感情なのかもしれないが、果たしてそれで済ませてよいものなのか。

 さらにそうしたイメージも、中国に直接行った人が発信しているものは少なく、また聞きによる間接情報やSNSでの真偽不明の情報に基づくものが多いと感じている。現政権の閣僚や自民党の役職者で中国に行って現地を見たことがある、あるいは中国の政治家と直接交流がある人がどれほどいるのか。

 政治や経済領域の日本のリーダー層は、中国の現状を自分の眼で直視せず、間接情報のみで「中国が怖い」「中国は異質だ」などと言って現実から目をそらしてしまいがちだ。だが、主体的に関係を構築していくことを避け、米国を頼りにしていれば何とかなるといった感覚でいると、いずれ米中が手を組み、日本ははしごを外されるのではないか。

いまや日本が技術を「盗む」立場に

 まず中国と付き合ううえで必要なことは、冷静かつ多面的な現状分析と、それに基づく対応策の検討だろう。多面的な分析には、まずは接近しての「アリの眼」による分析、続いて俯瞰しての「鳥の眼」による分析、そして潮流から判断する「魚の眼」による分析が必要だ。日本では、「アリの眼」による分析が欠如しているきらいがある。

 日本の自動車産業が中国勢に伍していくためにも多面的な分析は欠かせない。孫氏の兵法にある「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という考え方にもつながる。

BYDや浙江吉利だけではない、中国勢が世界を席巻, 日本を圧倒する巨大「ギガキャスト」メーカー, 自動運転ソフトで世界をリード, いまや日本が技術を「盗む」立場に

中国のグーグルと言われる百度(バイドゥ)が開発したシステムが載る無人運転タクシーの室内。運転席のハンドルにはカバーがかけられていた(写真:2025年7月筆者撮影)

 日本の自動車産業は90年代半ばから、中国企業との合弁会社設立により、技術を供与してきた一面がある。率直に言うが、そのプロセスで日本は技術を盗まれてきた面は否定できない。しかし、そのフェーズはもはや終わったに等しい。ものづくりのハード・ソフト両面で中国に先を越されつつある。

 そうした現状を踏まえれば、今度は日本が盗み返す番ではないか。それくらいのしたたかさがないと、国際競争では負けてしまう。

 中国企業は国際化を望む中で、日本市場にも関心を示している。法治国家の日本は制度の透明性が高いことが、中国企業が興味を示す一因らしい。大統領が変われば政策が大きく変わる米国とは対極にある、という意味も含まれる。

 中国車に日本車が追い越される今、中国の悪口や批判を言って留飲を下げるのではなく、中国の強みと弱みを冷静に多面的に分析する必要がある。手を組めるところは組み、相手の進んだ部分から学ぶくらいの姿勢がないと、日本車は世界で存在感を失ってしまいかねない。

 日本の保守系論客は「EVの時代など来ない」と声高に叫ぶ。しかし、自動運転などとの相性の良さから確実にEVシフトは進む。テスラが今展開している「FSD」と呼ばれる無人運転の技術は、人型ロボットの進化に繋がる。もはやEVは脱炭素の視点から求められているのではなく、クルマのスマート化の中で欠かせない流れになっている。この点も中国は進んでいる。

 日本の自動車メーカーは世界の情勢を鑑みて、負けは負けと認める謙虚さと、反転のためにはこれまでの常識を否定するくらいのしたたかさが求められていると言えるだろう。

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