大阪・関西万博で使われた100台超のEVバスが野ざらしの負の遺産に 不具合だらけで元運転手は「やばいよ」

 大阪城から徒歩10分ほどのところにある、大阪メトロ(大阪市高速電気軌道)の土地に、見覚えがあるバスがずらりと並んでいる。目視できる範囲で100台以上はあろうか。

「こんなことになろうかと思っていた。けど、現実にこの光景を見ると悲しさ半分、やっぱりなが半分かな」

 こう話すのは同行してくれたAさん。ずらりと並んでいるのは、昨年10月に閉幕した大阪・関西万博の会場移動に使用されていた電気で走るEVバスだ。Aさんは半年ほど、万博会場でEVバスの運転手を務めていた。

「ここに並べられているのは行き場がないから。万博の期間中も故障が多くて大変でした。引き取り先もなく、修理してもすぐに不具合が起きて危険性があるので、野ざらし状態と聞きました」

 とAさんが教えてくれた。

 大阪・関西万博は、目的のひとつに「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」を掲げ、会場への送迎や会場内の移動にはEVバスの導入を進めた。大阪府の吉村洋文知事は、「未来のカーボンニュートラルな社会というのはこうなるというのを、万博会場で示したい」と力説し、大阪府にはEVバス導入を補助する制度もできた。

 これを受けて、大阪メトロと関連会社が導入したのが、EVモーターズ・ジャパン(EVMJ、本社・北九州市)が販売するEVバス190台だった。全長10.5メートルで近隣の駅などと会場とのシャトルバスとして使われたF8 series2-City Busが115台、会場内を移動する7メートル弱のF8 series4-Mini が35台、大阪市内を運行するバスが40台だ。

 だが、万博中からEVバスには不具合が相次いだ。

 昨年9月1日には大阪市内を走るEVバスが中央分離帯に乗り上げる事故が発生。大阪メトロによると、事故現場はゆるやかな右カーブで、運転手はハンドルを左に切ったが、車がコントロールできず、右に流れていったという。

 同じころ、万博会場でもEVバスの不具合が続き、各地のバス会社が導入したEVMJのEVバスでも同様のトラブルが起きていることがわかってきた。

■「ブレーキがおかしくなりパニックになった」

 Aさんは、万博期間中に記者が会場で出会ったときから、EVバスの問題を指摘していた。

「急にブレーキのかかり具合がおかしくなる。『あれ、どうなったのか。やばいよ』と一瞬パニックになったが、その後はなんとか回復したので難を逃れました。私の同僚は、ブレーキが利かなくなったそうですが、乗客がいないときだったので急ブレーキを思いっきり踏んで助かったそうです。ハンドルを切っているつもりなのに曲がれないというトラブルや、アクセルを踏むと異音がするとか、ドアを閉じても半分ほど開いたままになるとか、数多くのトラブルを聞いています。万博会場の外を走っているとき、交差点で動けなくなってレッカー移動された例もあるそうです」

 Aさんはこんな話もする。

「万博期間中には、EVMJのエンジニアが来て、夜遅くまで修理にあたっていました。それでもすぐに不具合が発生するので、万博ではよく『回送』というサインボードを出してテスト運転をしていました。万博中に大事故がなかったのは不思議なくらいですよ」

 国土交通省は9月3日、EVMJに対してEVバスの総点検を指示している。その結果、国交省の中野洋昌大臣(当時)は10月17日、全国に317台ある同社のEVバスのうち3割を超える113台に不具合が見つかったと発表した。油圧をブレーキ装置に伝えるブレーキホースに損傷があるなど重大な不具合もあった。

「バスに乗って15年ほどになりますが、ブレーキホースの損傷なんて聞いたことがない。ブレーキホースが損傷したら、ブレーキがかからなくなって、大事故になる重大な不具合です」(Aさん)

 10月20日、国交省はEVMJに道路運送車両法に基づく立ち入り検査を実施。同社は11月28日にEVバスのリコール(回収・無償修理)を国交省に届け出ている。対象はF8 series4-Miniの85台で、前輪ブレーキホースに不具合があり、使用を続けると最悪の場合、ブレーキホースに穴が空いて、制動力が低下するという。

 大阪府と大阪メトロは23年12月、万博後に府内の南河内地域でEVバスの自動運転の実証実験を進めると公表していたが、相次ぐ不具合を受けて実験は延期された。

■〈日本企業製のバスの導入を奨励した〉

 ではなぜ、こんな質の悪いEVバスが導入されたのか。

 EVMJのEVバスの不具合が相次いだとき、ネットなどで話題になったのが、西村康稔・元経済産業相のXのポスト(投稿)だった。西村氏は、昨年4月の万博開会当時、こんなポストをしていた。

〈経産大臣当時、大阪のバス会社が中国製EVバスの導入を進めていたことに危機感を持ち、日本企業製のバスの導入を奨励しました。民間の取引ですので強制はできませんが、最終的に①会場内・駐車場からのシャトルバスは約100台全て日本企業のEVMJ製造のバスに、(略)全体で約9割が日本企業製造のバスです〉

 西村氏は、中国製のバスでなく国産バスを奨励した結果、日本企業製のバスが導入されたといっているのだが、この認識には誤りがあった。EVMJは日本企業だが、日本企業などからEVバスのオーダーがあると、ウィズダムなど新興の中国企業に発注し、中国で製造したバスを納品していた。実際、EVMJのサイトには、こう書かれている。

〈商用EV車の製造は、当社から指定した仕様・部品をもとに、中国にてOEM製造を委託しています〉

 大阪府の幹部がこう打ち明ける。

「当初、中国で実績ある大手の電気自動車メーカーのEVバスを万博で導入すると聞いていた。それが、日本のEVモーターズ・ジャパンという会社が手掛けるバスにするという話になり、日本製ならトラブルはないだろうとほっとしていた。しかし、ふたを開けてみれば中国製で、トラブルどころかリコールすることになるとは予想していなかった」

 当初の予定通り中国の大手メーカーのEVバスを導入していれば、不具合だらけの欠陥バスを導入することにならなかった可能性が高い。「国産」にこだわったあげく、結果的に「中国製」の不具合だらけのEVバスを導入することになったのが実態のようだ。

 しかも、EVMJのEVバス導入にあたって、大阪府や大阪市、環境省が多額の補助金を拠出している。つまり、野ざらしになっているEVバスは、多額の税金によって賄われたものなのだ。

 大阪メトロの広報担当者に聞くとこんな回答だった。

「当社所有地に駐車されているEVバスの台数は回答を差し控えさせていただきます。EVMJが国土交通省から立ち入り検査をうけたことを踏まえて全車運行を停止しており、営業所での車両運用に支障を来さないよう社用地に順次移送、留置、全車運行を停止しております。万博では、運行に支障の生じるおそれのある不具合が確認された車両については即時に運行を停止。安全性が確認された車両のみを運行に使用していました。EVバスのトラブル、不具合についての詳細は差し控えます」

 万博の“遺産”として大屋根リングの一部が保存される方針になっている。一方で、野ざらしになっている多数のEVバスも、「持続可能な開発」が失敗した“負の遺産”として残っている。

(AERA編集部・今西憲之)

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