経済的に恵まれ、快適なシニアライフを謳歌していた70歳妹…母の死で二十数年ぶりの実家帰省。「お前の遺産はない」と言い放つ兄に、弁護士を雇って遺留分請求したお金以外の目的

(※写真はイメージです/PIXTA)
「法律上、きょうだいの遺産分割割合は2分の1ずつ」。そう民法に書いてあっても、現実は教科書通りにはいきません。特に、遺産が実家の不動産のみで、どちらかがそこに住んでいる場合や、長年疎遠だったきょうだいが再会した場合、理屈では割り切れない「感情」が衝突します。日経マネー(編)の書籍『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より、Cさんの事例とともに、こじれた相続のリアルを解説します。
遺産は実家だけ…「100%自分が相続」という主張を曲げない兄

[図表1]相続関係図 出典:『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より抜粋
東京在住のCさんは東北の実家で母と同居する兄と2人兄妹。その母が亡くなった。唯一の遺産は亡父名義のままの実家。兄は自分がすべて相続すると主張。Cさんは法律通り、遺産の半分は自分に権利があると主張している。

[図表2]相続の権利を行使するのに数年かかるケースもある 出典:『絶対に避けたい!損する相続実例25』(日経BP)より抜粋
東京都内で暮らす70歳の女性Cさんの母が亡くなった。母は東北の実家で兄夫婦と同居していた。葬儀のために帰省したが、実家の敷居をまたぐのは実に二十数年ぶりだった。
Cさんは大学進学を機に上京。そのまま東京で就職し、伴侶を見つけ、そして息子をもうけた。経済的にも恵まれ、今は何不自由ない快適なシニアライフを謳歌している。
実家を遠ざけた横暴な兄の存在
実家に寄り付かなくなったのは小さな雑貨店を営む父が亡くなってから。家業を継いだ兄はよく言えば昔気質、悪く言えば横暴。兄嫁とも性格が合わなかった。父が元気だった頃はよく帰省したが、兄が家を継いでからは足が遠のいていた。
母の葬儀を終え、逃げるように帰京した数日後、兄から封書が届いた。封筒の中に入っていたのは遺産分割協議書。内容は唯一の遺産である実家(評価額約3000万円、名義は亡父のまま)を兄が相続しCさんの相続分はなし、というものだった。「実印を押して、必要書類をそろえて送り返せ」と書いたメモも入っていた。
兄からこの手の手紙が届くのは初めてではない。何度か困った内容の手紙を受け取っていたが、我慢して指示に従った。だが、今度ばかりは堪忍袋の緒が切れた。
Cさんは弁護士を立て、遺産分割の調停を家庭裁判所に申し立てることにした。遺産分割調停とは裁判官と調停委員が相続人の言い分を平等に聞き、遺産の分け方について円満な解決を図る手続きだ。
財産の1割で調停は合意するも…
最初の面談で弁護士から落としどころを聞かれたCさんは、「とにかく兄に一泡吹かせたい。結果も費用もこだわらない。すべてお任せする」と伝えた。
弁護士に依頼してから1週間後、兄は烈火のごとく怒ってCさんに電話をかけてきて、「店を継いだワシが実家を相続するのは当然だ。おまえは18歳で家を出ていったきり。母親の面倒もワシの嫁が見た。財産を半分寄こせなど、どの口が言うか」とまくし立てた。
「弁護士に任せているから」と怒声を無視して電話を切ると、時を置かず弁護士からも電話がかかってきた。「法律通り半分ずつ分割と主張したのですが、お兄さんは100%自分が相続という主張を曲げません。もう少し頑張ってみます」。そう言って弁護士は電話を切った。
時が流れ、月1回開催の調停の5回目が終わった後、弁護士から連絡が入った。「譲歩しまくって、お兄さんが300万円を支払うという内容で合意できそうです」
当初、結果はどうでもよいと考えていたCさんだが、調停での兄の振る舞いや言い分を聞かされるうち、気分は闘争モードに切り替わっていた。夫も「3000万円の半分なら1500万円だろ。まだ和解しなくてもいいんじゃないか?」とたきつけてきた。
Cさんが「300万円では負けじゃないですか」と伝えると、弁護士からは「確かにまだ粘れます。ただ、目的は意趣返しだったはずです。お兄さんは十分嫌な思いをしています。この後は恐らく審判、そして訴訟でしょう。あと数年かかりますが、それでもやりますか?」と重ねて問われた。
弁護士の言葉で我に返ったCさんは、目的は果たしたと納得。合意案を受け入れることにした。
【解説】遺産の相続権があっても簡単に手に入るとは限らない
民法では遺産の相続割合を定めています。このケースでは遺産の半分はCさんに相続する権利があります。ただ、法的に権利があると言っても簡単に受け取れるかどうかは別の話です。
お兄さんもCさんも主張を曲げないと、遺産分割調停は不成立となり、遺産分割審判に移行します。審判となれば主張をまとめた追加資料の提出が求められることがあります。数回の審判期日には当事者の出頭も必要です。
遺産が不動産だけのこのケースでは「実家は法定相続分通り、兄と妹で半分ずつの共有にしなさい」という審判が出るでしょう。ここまで1〜2年はかかります。
お兄さんが態度を変えず、Cさんが自分の相続分相当の現金を手にしようとするなら、次は「共有物分割請求調停」を申し立てます。「実家を売却して代金を兄妹で分けなさい」など、共有状態の解消方法を裁判所に決めてもらう調停です。調停が不成立なら「共有物分割請求訴訟」です。
最終的に競売を命じるような判決が出れば、お兄さんも逆らえません。ただ、競売では市場価格より安くしか売れませんし、判決までにはさらに1〜2年かかるでしょう。
お兄さんの旧態依然たる考え方は困ったものですが、そもそもはお父さんが亡くなった時にCさんと話し合って実家の名義を変えておくべきでした。一方、何十年も実家に寄り付かなかったCさんが「あいつは何も要らないだろう」と勘違いされるのは無理からぬところ。たまには実家に顔を出しておけば良かったかもしれません。
色々法律はありますが、円滑な相続に欠かせないのはやはり相続人同士の良好な関係です。
日経マネー(編)
「金利2.5%」はもはや新常態か。衆院選の与党圧勝シナリオで迎える「円高・金利上昇」への歴史的転換点
バブル絶頂期に“苗場の1LDK”を買った〈年収1,200万円〉エリートの後悔。35年後「1円でも買い手はつきません」夢の別荘は“負動産”と化して詰みかけの年金生活
俺の金だ、文句あるか!資産1億円・69歳元役員の夫「1,000万円の投資」に失敗してもふんぞり返る姿に、66歳妻がプツン……それでも決して離婚しない理由