飲食店の「ノー」で入店断念…流動食の子、必死の頼みも届かず 外食は大切なチャンス、レトルトやミキサーの持ち込み認めて

食事を楽しむ永峰玲子さんと長女(永峰さん提供)
「レトルトの持ち込みは禁止です」
東京都調布市の永峰玲子さん(47)は家族で訪れた飲食店で、初めて「ノー」を突きつけられた日のことを鮮明に覚えている。長女楓音さん(16)は重度のてんかん性脳症「大田原症候群」で、食べ物をのみ込む力が弱い。そのため、流動食のレトルト食品を持参したが、持ち込みを断られたのだ。
食べ物を噛む力や、のみ込む力が弱い「摂食嚥下障害」の子どもとの外食。店側から、形やとろみを調整した嚥下食の持ち込みや料理の加工を断られることは珍しくない。入店を諦めざるを得ず、次第に外出がおっくうになり、引きこもる家族も多い。社会との接点が減り、認知や理解が広がらないという悪循環が起きている。(共同通信=一山玲佳)
▽離乳食はいいのに?
永峰さんが都内の飲食店で持ち込みを断られたのは約10年前のこと。「ショックでした」。当時は持ち運べるミキサーもなく、必死でお願いした。
「うちの子、食べられるものがなくて。では代わりに、ミキサーにかけてもらえませんか。本当はお店のものを一緒に食べたいんです」
しかし、店長の男性は「できません」の一点張り。そして表情を変えずに、こう付け加えた。「離乳食の持ち込みはいいんですけどね」
離乳食はよくて、なぜ流動食はだめなのか―。納得できなかったが、諦めるしかなかった。永峰さんは「ピシャッとシャッターを閉められて、もう来るなと拒絶された気がしました」と振り返った。
▽8割が「外食に困難」
永峰さんは「食を通じてインクルシーブな社会を実現したい」と考え、2022年に
一般社団法人「モグモグエンジン」を設立。現在、嚥下障害の子どもの親1800人が加入し、情報交換をしたり、対外的な活動をしたりしている。
アンケートをとると、8割以上が外食時に困難を感じていると回答した。具体的には「子どもが食べられるメニューがない」「レトルトや調理器具の持ち込みに理解がない」といった意見が多かった。
そこで、外食企業に対して、食のバリアフリー化に向けた段階的な対応を提案し始めた。難易度の低い順に、(1)レトルトの持ち込みを許可する(2)調理器具の貸し出し(3)店側が調理器具で加工する(4)専用メニューを用意―の4段階だ。
実際に、提案を受けた「スープストックトーキョー」(東京)が一部店舗で「食べやすさ配慮食サービス」をスタート。調理器具の貸し出しや、スプーンですくって食べられるほど柔らかい食パンの提供が実現した。

スープストックトーキョーの一部店舗で貸し出している調理器具とカトラリー
▽合理的配慮
永峰さんが外食にこだわるのは「出かけた先で一緒にご飯を食べて、思い出も共有したい」と考えるからだ。
楓音さんは会話をすることができない。それでも、表情豊かに思いや感情を伝えてくれる。永峰さんが「山梨で食べたほうとうおいしかったね」と言うと、ニコッと笑顔で応えた。外出先での食事が好きで、いつもより進みも良いという。
2024年4月施行の改正障害者差別解消法は、民間事業者にも「合理的配慮」を義務付けた。障害者の申し出に応じて、負担が重すぎない範囲で障壁を取り除くことを求めている。永峰さんは「お店側にも、どうしたら食べられるのか、どこまでなら許容できるのかを一緒に考えてもらえたらうれしい」と語った。

疑似咀嚼装置で「数の子」を試す塩野響也さん=8月、相模原市
▽ゲーム感覚で咀嚼リハビリ
「嚥下障害=高齢者」というイメージが強く、子どものケースでは社会の認知や理解が広がらないのが現状だ。その一方で、子どもでも使えるリハビリ装置が開発され、支援環境が少しずつ整ってきた。
「プチプチと音がして本当に食べているみたい!」。相模原市で昨年8月に開かれた疑似咀嚼装置の体験会。中学2年塩野響也さん(14)は「数の子」を試して目を輝かせ、熱心に「もぐもぐ」と口を動かしていた。のどの機能が弱く、普段の食事は流動食を胃に直接送る胃ろうから。母親の麻美さん(49)は「咀嚼も食感も初めての体験。これを機に食べ物に興味を持ってほしい」と期待した。
装置は電通が開発した「ファントムスナック」だ。食べ物が映ったモニターを見ながら「咀嚼」するとカメラが認識。口の動きに合わせて、骨伝導イヤホンが音と振動を伝える仕組み。「サラダ」では、葉物やリンゴ、クルトンなど約30種類の咀嚼を再現した。香料メーカーと開発した香りも出す。
記者も「かりんとう」を体験した。一口目であごに「ガリッ」と振動が響き、驚いた。口の動きに伴う「カリカリ」「サクサク」という刺激が心地よい。最後に黒糖と小麦の香りが鼻に抜けた。
実際に食べ物を使うリハビリと違って窒息の恐れがなく、ゲーム感覚で取り組める。開発した和泉興さん(52)は「『必要だから』ではなく『楽しいからやりたい』と思ってもらえれば」と語る。流動食と組み合わせて、食事に張りを出すこともできる。

▽外食は理解の入り口
嚥下障害の専門医で、東京科学大の戸原玄教授に聞いた。
―咀嚼を体験できる新たな装置への期待は。
「リスクなく咀嚼を体に覚えさせることができ、段階的な成長につながると考えられます。新しい形のリハビリで、さらに活用されるべきだと思います」
―戸原教授は障害の有無に関係なく一緒に食べられる「インクルーシブフード」の開発に携わった。子ども向けに、唐揚げやステーキといったおかずを口溶け良く仕上げた。
「これまでの嚥下食は高齢者向けのものがほとんどでした。量が少なく、味が薄い。食べられるものに制限がある中、食を楽しむためにも選択肢を増やすことが大切です」
―嚥下障害の子どもたちへの理解を広げるためには。
「当事者の子どもたちが積極的に外に出ていくことが重要です。街で見かけるようになって、初めて認知され、理解が広がっていきます」
―外出へのハードルが高いのが現状だ。
「外食は、外出のきっかけになります。まずは飲食店側にこそ、こういった子どもたちのことを知ってほしいと思います」

戸原教授が監修した嚥下障害の子ども向けのお弁当「もぐもぐBOX」(永峰玲子さん提供)