「農業のテスラ」を狙う日本人起業家 米国に高級イチゴの植物工場、NYで大人気に

オイシイファームCEOの古賀さん
米国でイチゴの植物工場を運営する農業スタートアップ、Oishi Farm(オイシイファーム、ニュージャージー州)の共同創業者で最高経営責任者(CEO)の古賀大貴さん。同社産の高級イチゴはニューヨーク(NY)など米国で話題を呼び、1月12日には鈴木憲和農相が東京都羽村市の同社研究開発拠点を視察するなど政府からも注目を集めている。なぜ米国でフードテックの起業に踏み切ったのか、日本に一時帰国中の古賀さんを訪ねた。
ビッグになるぞ!渋渋でいい意味で勘違い
――子供の頃から米国で起業をしようと考えていたのですか。
具体的に起業までは考えていませんでしたが、子供の頃から日本人として世界をアッと言わせたいと思っていました。私はいわゆる「失われた30年」世代で、日本はもうダメだという声ばかり聞いて育ちましたが、小学校4年の時から3年間を欧米で過ごしました。現地では意外なほど日本に対する評価が高くて驚きました。トヨタ自動車やソニーなどの製品は高品質で、日本はもの作りも文化もクールだと。その頃から日本の技術で再び世界に一矢報いたいと考えるようになりました。
――中高時代はどんなことを学んだり、体験したりしたのですか。
帰国後に渋谷教育学園渋谷中学に編入しました。私は4期生で当時は今のように偏差値の高い有名進学校ではなかったのですが、グローバル人材育成を目的として英語教育に力を入れ、個性的で多様な生徒が集まっていました。私のような根拠はないのに「自分はいつかビッグになるんだ!」という生意気な生徒も認めてくれ、いい意味で勘違いさせてくれました。
他の進学校であれば、「成績も大したことないのに生意気だ」と大口をたたく前に勉強してまず東大でも目指せと言われたと思いますが、大人の尺度を押しつけられず、とにかく自由、いじめもなかったですね。同級生には医師や弁護士もいますが、ロンドンで活躍する世界的な美容師や作曲家などのアーティストもいます。当時はサッカーばかりやり、半年ぐらい受験勉強すれば、東大ぐらい受かるだろうと思っていたら見事に落ちました。そんなうぬぼれた自分の勘違いも気づかせてくれました。

古賀さんらが立ち上げた米国の高級イチゴの植物工場
■バークレーにMBA留学、日本は施設園芸では世界トップ
――その後、どのようにして起業のきっかけをつかんだのですか。
慶応大学経済学部に進学して、短期ですが、スタンフォード大に交換留学する機会を得ました。世界中から優秀な人材が集まっており、強烈な刺激を受けました。米国で経営学修士(MBA)を取得してビジネスの自力をつけ、世界に挑める人材になろうと思い、外資系のコンサルティングファームに入りました。様々な業種を学ぼうと、自動車や金融、製薬などを担当しました。
その後、農業に興味を持つようになり、そこでたまたま当時の日本の植物工場の案件に携わりました。5年ほど勤め、自己資金をためてカリフォルニア大学バークレー校にMBA留学しました。当時、農業のサステナビリティー問題を理由に、米国では植物工場ブームが起きていて、日本での経験を生かし、投資家から植物工場スタートアップのデューデリジェンスをやってくれないかとの依頼がありました。その過程で農業こそ日本発の技術を生かせる分野だと気づいたのです。
――日本では農業は斜陽産業として捉えられていますが、どうしてチャンスがあると思ったのですか。
とにかく日本で作られる野菜や果物はおいしい、味が良くて、品質がいいですよね。日本は施設園芸で世界トップ水準の技術を持っています。施設園芸の種苗技術を持っているのは日本以外ではオランダと、イスラエルぐらいでしょう。しかも日本の消費者は味にうるさいので、農業関係の研究者は品種改良を繰り返して品質を向上させ、ブランド化しています。
一方で日本の農業は生産性が低く、高齢化で農家の人口も激減している。気候変動もあり、天候に左右されやすい農業は成長産業とはみられていません。しかし、テクノロジーを活用して最新鋭の植物工場で生産性を高め、高品質の農作物を365日出荷できる仕組みを構築できれば、外部の環境に影響を受けない植物工場に日本の品種や栽培技術を詰め込んで、世界に一気に展開できる大きなチャンスがあると感じました。

工場内では最新鋭のロボット技術なども活用している
■イチゴに商機!ハチを媒介にした受粉技術も確立
――なぜ米国でイチゴの植物工場を始めたのですか。
イチゴは味や技術、ブランドの3つの点で差別化しやすいからです。イチゴは味の差が出やすく、日本では「あまおう」など高級イチゴが人気ですが、米国では高級ラインのイチゴなどの果物は作られていません。そもそも高級イチゴというマーケットが存在していなかったのです。もう1つは技術の壁がありました。イチゴを植物工場で栽培する場合、ハチを媒介とした受粉技術が不可欠となりますが、安定した技術が確立されていませんでした。しかし、日本の研究者の知恵を集めれば、技術の壁も越えられると思いました。様々な技術を組み合わせ、仮説検証しながら、受粉技術を確立しました。
――米国で日本人がフードテック分野の起業は前例もなく、かなり困難だったのではないですか。
多少英語をしゃべれると言ってもカネも人脈もない日本人に投資する米国人はいません。現地のパートナーが必要でした。バークレー在学中にUCLAに通っていたブレンダン・サマービルと出会いました。彼は元軍人で「食料安保」の観点から農業での起業に挑んでいました。日本に滞在経験もあり、意気投合して2017年にオイシイファームを創業、ニューヨークの隣のニュージャージー州に植物工場を建設しました。22年からニューヨークなどの大手スーパーで高級イチゴの販売を開始しました。
■完全閉鎖型の最新鋭工場、電力・水使用量を大幅削減
――米国では同社産の高級イチゴが大人気だそうですが、採算に乗っているのでしょうか。
販売当初は1パック50ドルで売っていましたが、コストダウンに成功して現在は10ドルで販売しています。既に7.99ドルの商品も市場に投下しております。高級スーパーでおいしいイチゴだと評判を呼び、需要が供給を上回る状況で取扱店舗は全米に広がり、新たな 工場も建設しました。
太陽光の入らない完全閉鎖型の最新鋭工場では、発光ダイオード(LED)やエアコンを活用してイチゴを栽培していますが、太陽光発電施設の併設や水のリサイクルにより電力や水の使用量を大幅に削減し、生産性を向上させています。
会社の業績は非公表ですが、現時点では研究開発費に巨額投資をしているので、決算ベースで黒字とは言えません。それでも商品ベースでは十分に採算はとれています。

政府も植物工場に注目、鈴木農相らも視察
――25年夏には小池百合子都知事が米国の植物工場、1月には鈴木農相が羽村市の研究開発拠点をそれぞれ視察しています。高市政権はフードテックを成長分野の1つに位置付けていますが、日本での植物工場建設を検討していますか。
政府や自治体、企業などから様々なお誘いがあるのは事実ですが、具体的な計画は現時点ではありません。ただ、この植物工場は今後世界に広がってゆくと考えています。イチゴに限らず、最新技術を活用すれば、日本で今話題のコメなど穀物類でも、植物工場で天候に関係なく安定的に供給できる日も来ると考えています。農業は自動車産業より市場規模は大きく、人類にとって不可欠な産業です。
私たちの会社はまだ300人規模ですが、目標としているのは「農業のテスラ・トヨタ」です。「そんなの無理でしょう」と思うかもしれませんが、十分に達成可能な目標だと思っています。
(聞き手は代慶達也)