【eMAXIS Slim責任者初登場】荻野太陽氏、インデックスなのに「指数より少しだけ上の利益を狙っています」初耳/NISA応援

新NISAの超人気投資信託「eMAXIS Slim」シリーズの運用責任者、荻野太陽さんにインタビュー。顔出しでの登場は本誌初だ。【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025冬号」から抜粋しています】
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三菱UFJアセットマネジメントは東京・港区の東京汐留ビルディングにある。豪華なオフィスでもなく、シャビーな雰囲気もなく、ごく普通のきれいな会社。ここで日本を代表する巨大インデックス投資信託が日々運用されている。
「eMAXIS Slim」シリーズのうち、「米国株式(S&P500)」の純資産総額は8兆9070億円(2025年10月21日現在/以下同)、「全世界株式(オール・カントリー)」(愛称:オルカン)は7兆9664億円。
日本の投資信託の純資産総額ランキング(追加型/確定拠出年金・ラップ専用、ETF〈上場投資信託〉を除く)で3位以下を大きく引き離し、不動の地位だ。
いずれも激安の信託報酬(運用にかかる手数料)とわかりやすい商品設計で投資家に選ばれている。
■運用責任者に初取材
本誌も何度となく紹介しているが、eMAXIS Slimの大事なことを書いていなかった。この投資信託の「5W1H」のうち肝心なWho(誰が)が抜けたまま、ここまで来てしまった。
さて、荻野太陽さん。肩書は「インデックス運用部長」だ。2025年で49歳、運用経験17年。
米国では運用責任者の氏名公表は当たり前のことだ。他の国でも、ほぼすべてのファンドで運用責任者を明示している。だが日本では、運用責任者の氏名公表は緒に就いたばかり。
三菱UFJアセットマネジメントでは2024年4月から自社サイトで投資信託の運用責任者の紹介をはじめた。荻野さんも担当業務の紹介文とともに、力強い自筆署名と顔写真が載っている。
最近はスーパーに並ぶ青果や魚、鶏卵などに生産者の顔写真が付いていることもある。食品より大きなお金を出すことも多い投資信託で顔が見える安心感は大きい。

ちなみに荻野さんの名前は父の命名だという。
「大きくて明るい名前を、ということで『太陽』と名付けてもらいました」
対面すると、その名の通りの方だった。太陽のような笑顔(少し照れ屋でいらっしゃる)、ほっこり温かい空気が場に流れる感じ。この顔に悪人はいない、と言いたくなった。
荻野さんはeMAXIS Slimをメインに、インデックス型投資信託全般を担当している。インデックス運用部のファンドマネジャーは全部で25人だ。
「eMAXIS SlimのS&P500は外国株式チーム6名が担当。オルカンは外国株式、国内株式に全般を見るベビーファンドチームも加わり、総勢16人が関わっています」
■大納会まで仕事
インデックス運用部の仕事は通常、午前8時前にスタートする。
「為替の発注の準備からはじまり、一連の発注作業が終わると午後7時くらい」
午前8時から午後7時……連日11時間は、ややブラックな労働環境?
「週ごとに担当を替えるので、同じ人がずっと早朝から発注作業をしているわけではありません。土日や祝日はカレンダー通りに休みです」
年末は他の大手金融機関と同じく大納会(2025年は12月30日)まで通常営業。年末ぎりぎりまで投資信託が売れるためだ。
「外国株式の運用では、為替の発注作業が片づくのが午前9時半ごろ。その後は前日の発注の確認やこれから発注するリストの作成です。
午後3時30分までに金融機関の注文が締め切られ、夕方になるとその日の注文量がわかってきます」
投資信託の購入はネットで手軽にできる時代。しかも指数に沿って運用するインデックス投資信託となれば運用会社の発注作業もほぼ自動化されていると思ったら、そうでもないようだ。
「投資信託を販売する金融機関から送られてくる注文がリアルタイムでわかるわけではありません。夕方からポツポツと入りはじめ、すべて出そろうまで意外に時間がかかります。
eMAXIS Slim以外のインデックス投資信託の注文もすべてそろうまでは株式などの発注ができません。投資家のみなさんの注文の合計金額がわかってから、それに合わせた発注数量を決めるのです」

2025年でいえば「トランプ関税ショック」など、なぜか定期的にやってくる相場の乱高下場面では、荻野さんたちの仕事も忙しくなる?
「ものすごい量のお金が出たり入ったりする日はスピードを求められる場面もあります。先物を使った微調整で済むことが多いですが、出入りする資金が多いと株式にも触ります。
インデックス型は指数にきれいに連動させる使命があるので、局面ごとにブレを抑えるための最適なポートフォリオを考えます」
さらなるコスト圧縮の追求にも余念がない。
「たとえば外国株式を保有するためには海外の保管機関に支払う保管費用がかかりますが、値下げに向けて交渉します。
先物取引を使う際に必要な証拠金も預け先によって金利が微妙に違うので、常に有利なところをウォッチしています」
■オルカンが無かった理由
オルカンが指標とするのは全世界の株式市場の値動きを示すMSCIオールカントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)。
今では世界分散投資のスタンダードな指数だが、10年前は低コストで気軽に買えるものはなかった。
「そもそも世界の株式市場に分散投資をし、長期的な値上がりを期待するという発想がありませんでした。オルカンが昔なかったのは、顧客ニーズが強くなかったからに尽きるのでしょう」
インデックス投資信託自体は平成バブル期の前から存在したが、主流は日経平均株価に連動するタイプだった。投資信託といえば、運用担当者が銘柄を厳選するアクティブ投資信託が主役。
「インターネット」や「新薬」といったテーマ型や日本株の高配当株の投資信託などに顧客も販売会社も熱を入れていたものだ。
そういえば、S&P500に連動する投資信託も昔はほとんど目にしなかった。
「S&P500に連動する投資信託自体はありましたが、法人向けでした。それを個人に売ろうという流れに進展しなかったのは、やはりニーズがそこまでは強くなかったからでしょう。
分散投資をするにしても『日本50・海外50』のような配分のバランス型投資信託でした」

S&P500もオルカンも現状の組み入れは米国株がメイン。2000年頃まで時を戻すと、ITバブル崩壊の直後だったのでネット企業を市場の混乱要因とする見方さえあった。
今の米国市場で主力のエヌビディアは1999年の上場。それより古株なのは1986年上場のマイクロソフト、1997年上場のアマゾン・ドット・コムだ。
グーグル(現アルファベット)は2004年。テスラは2010年、フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)は2012年。
「トップ企業が米国に次々と出てきたことで、米国株投資への強いニーズが生まれました」
ところでオルカンは米国株を筆頭に先進国23、新興国24の国と地域の2507銘柄(2025年9月30日付の月次レポート)に投資する。これほど多岐にわたると面倒なこともありそう。
「国ごとに制度が違うのは当然として、新興国への発注ルールには気を使います。東南アジアでは必要な額しか為替を取ってはいけないなど、細かい制限を設ける国もあります」
■質のよい運用って?
S&P500やオルカンの成功を追う形で、楽天投信投資顧問や野村アセットマネジメントからもほぼ同じ商品設計のインデックス投資信託が登場している。
eMAXIS Slimほどではないが、順調に資金を集めている。信託報酬は下がるところまで下がったので、より正確な「質のよい運用」をアピールする流れになってきた。
「S&P500やMSCI ACWIの円建て、配当込みのリターンと基準価額の値動きを一致させるには、決められた通りの比率で銘柄を買うことがベースになります。
オルカンのように対象が約2500銘柄もあると、指数の構成比率通りに買い付けて運用するには大きなお金が必要になります。純資産総額が大きいほど有利です」
ただ、インデックス投資信託は指数と少しズレてしまうこともある。このズレをトラッキングエラーと呼ぶ。もちろんeMAXIS Slimは「打倒トラッキングエラー」ですよね?
ここで荻野さんから意外な一言。

「指数と動きを合わせつつ、ほんの少し、本当に少しだけ利益を出すように運用しています」
えっ? 初耳なのだが!
「業界用語で『アルファ(超過収益)を取る』と言うのですが、0.01%とか、微小な範囲で有利になるように。
アルファの追求に力を入れすぎると指数とのズレが広がるリスクが増すので、さじ加減が重要です。
不要なブレは徹底して避けながら安定させてちょっと稼ぐみたいな発想ですね。
純資産総額がある程度の規模以上になれば、指数とのズレをゼロに近づけることが容易になります。
ただ、リスクを取らずにわずかなリターンを積み重ねることには技術が要ります」
無機的な自動運用を想像していたが、実際には職人芸の世界があった。
取材・文/中島晶子(AERA編集部)、大場宏明
荻野太陽(おぎの・たいよう)/三菱UFJアセットマネジメントのインデックス運用部長。2007年、三菱UFJ投信(当時)に株式トレーダーとして入社。株式インデックス運用に携わり(一時、銀行に出向)、2025年より現職。「eMAXIS Slim」をメインに25人のファンドマネジャーの先陣を走る
編集/綾小路麗香、伊藤忍
『AERA Money 2025冬号』から抜粋
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