マッキンゼーに16年もいて周囲もまさか…オタク気質なマーケターが最高のキャリアを掴むまで YouTube Japan代表山川奈織美さん

■異色のキャリアは緻密な設計をした結果?, ■自分は見つかった? 16年の在籍で「社内転職」も2回, ■実は「音楽に救われたのです」 エンタメの力を実感した経験から, ■10年後も「次のこと」にまだワクワクしていたい

 昨年10月、Google日本法人 YouTube Japan代表に就任した山川奈織美さんは、異色の経歴の持ち主だ。新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニー日本オフィスに入社し、ベンチャー企業を経て、再びマッキンゼーへ。それから同社に16年在籍したのち、5年前にGoogle日本法人に入社した。よく聞けば、業種や業界は違えども、マーケティングを軸に仕事をしてきた山川さん。さらに無類のエンタメ好きで「オタク気質」だという。この山川さんの二つの軸が合わさって、You Tubeという現在地に行き着いたのかもしれない。これまで歩んできたキャリアを聞いた。

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■異色のキャリアは緻密な設計をした結果?

――異色のキャリアです。マッキンゼーからベンチャーに参画して、再びマッキンゼーに戻り、You Tubeへ。現在の職位は、緻密にキャリア設計をしてきた結果なのですか。 

 いえいえ、キャリアについては機に乗じるというか、何か発生したら考えるぐらいのスタンスでいました。後輩やチームメンバーにキャリアプランを書こうと言いつつ、自分は適当に書いていたタイプです。

 そもそも就職活動をするまで、スポーツジャーナリストになりたかったのです。10代のころ、1988年の冬季カルガリー五輪にいたく感動して、オリンピックムーブメントを追いかけたいとずっと思っていました。それが新卒でマッキンゼーに入ったのですから、その時点でキャリアプランは崩れているわけです(笑)。

 私が就職する時代は、コンサルという職種はまだマイナーでした。ところが、仕事の内容を話してくれた人が魅力的で、課題解決のために行うインタビューを面白いと感じ、マッキンゼーに入ることにしました。

■異色のキャリアは緻密な設計をした結果?, ■自分は見つかった? 16年の在籍で「社内転職」も2回, ■実は「音楽に救われたのです」 エンタメの力を実感した経験から, ■10年後も「次のこと」にまだワクワクしていたい

――そこからなぜ「オイシックス」(現、オイシックス・ラ・大地)でスタートアップに関わることになったのですか。

 話を大学時代までさかのぼると、個人の趣味でインターネットの掲示板をのぞいたり、ブログを書いたりしていました。4年ごとに五輪に感動するくらいのスポーツオタクだったので、特定のスポーツチームの情報をいち早く仕入れたかったのです。世の中の人よりは早くインターネットに慣れ親しんでいる状態でした。

 そんな私がマッキンゼーに入社すると、webに詳しい若者が入ってきたと早速インターネットのプロジェクトのメンバーに加わることになりました。そこからネット流通やイーコマースにも携わり、気づいたら社内で最もインターネットの仕事をしていました。そのタイミングで先輩から声がかかってオイシックスに参画することになったのです。

 この背景には、プライベートなこともちょっと影響していますね。私の母がとても「食」に気を使うタイプで、オーガニックや添加物の少ない食材にこだわっていました。そういう母に育てられたので、オイシックスの化学肥料の少ない食材をもっと気軽に手に入れることができるようにしたいという起業の「夢」の部分に共感ができたのです。

 Webを使ってその夢を実現しようと、イーコマースという前職の経験を生かしました。オイシックスにいる5年間で、ネットスタートアップを実地経験できたわけです。でも、しばらくして「私、ずっとイーコマースやっていくのかな」と疑問に思い始めてきて……。ちょっと振り返る時間がほしくて、自分探しも含めてマッキンゼーに復帰しました。

■自分は見つかった? 16年の在籍で「社内転職」も2回

――そこから16年マッキンゼーに在籍します。「自分」は見つかりましたか。

 私はマーケティングというものが好きなんだな、とは気づきました。ちょうど世の中や会社の機運としても、マーケティングが重要になっていく時期でした。うまくその波に乗れて、リサーチの経験があるので重宝されました。

 実は16年の間に社内転職のようなことをしています。マネジャーからパートナーに昇格する道をすぐには選ばず、一度いわゆる専門職のキャリアパスであるエキスパートのルートに進んだのです。そこで、すてきなリーダーに出会い、「パートナーになるとこんな世界があるのか」とわかって、リーダーシップをとる職位に就くルートへ戻りました。ビジネスという遊びを楽しみたい、そのために戦うカードを増やす道を選んだのです。

 マッキンゼーでは自分も楽しく仕事をして、会社の生き字引のようになっていて、周りもこのままずっとこの人は楽しく仕事をしていくんだろうと思われていました。だから、2021年に転職するとき、周囲には驚かれました。

■異色のキャリアは緻密な設計をした結果?, ■自分は見つかった? 16年の在籍で「社内転職」も2回, ■実は「音楽に救われたのです」 エンタメの力を実感した経験から, ■10年後も「次のこと」にまだワクワクしていたい

――Googleでは、YouTubeのマーケティングディレクターに就任します。なぜ、YouTubeだったのでしょうか。

 よく異色のキャリアと言われるのですが、私の中では突飛なことをしているつもりはなく……。仕事はずっとマーケティングを軸としていたので、そのスキルがあったから動きやすかったとは思います。

 一方で、個人としてはエンタメをずっと追いかけてきました。漫画も大好き、アニメも大好き、音楽も大好き。もともとスポーツジャーナリストになりたかったくらいスポーツも好き。ハマってすぐ情報に課金してしまうタイプで、一言でいうと「オタク気質」なのです。

 新しい興味の対象ができても好きは上書きされず、好きの対象がどんどん増えていって、時間がなくなるのが悩みのタネです。

 そんな私ですから声をかけていただいたとき、素直に「YouTubeで働ける世界線があるんだ」と心が動きました。もちろん、ワクワクする未来を創るために挑戦できる会社だから惹かれたという理由もあります。

■実は「音楽に救われたのです」 エンタメの力を実感した経験から

――オタク気質というだけでなく、エンタメの力を人生でリアルに体感した経験があるそうですね。

 ベンチャーで働いていたとき、音楽に救われたのです。創業から間もない会社でしたから、軌道に乗せるために働く量がハンパなかったし、それこそ、なかなか黒字が見えない時期もあった。気がついたら、土日も夜も仕事のことばかり考えているようになっていました。そういう状況が楽しい人もいれば、ストレスになる人もいる。私は後者で「病み」の一歩手前、ストレスで体を壊しかけた時期がありました。

■異色のキャリアは緻密な設計をした結果?, ■自分は見つかった? 16年の在籍で「社内転職」も2回, ■実は「音楽に救われたのです」 エンタメの力を実感した経験から, ■10年後も「次のこと」にまだワクワクしていたい

 何か自分の生活を変えなきゃいけない。久しぶりに音楽のライブに行ってみようと、好きなアーティストのライブに何年かぶりに行ってみたんです。そしたら頭の中が真っ白になるくらい楽しくて。そこで一回自分を浄化できて、物理的に元気になれたのです。気持ちも回復しました。

 仕事とは関係のないことを一定量、生活に投入することで元気でいられるんだと、自分の法則がわかったのです。それからちゃんとご褒美を意識的にとるようにしています。

 結婚して子どもがいる人ならば、家族行事で強制的に仕事から離れることになりますが、独身だと生活の9割を仕事に振ることもできる。そうならないためにバランサーとしても、私にとってエンタメはとても大事なのです。

 音楽はどんなジャンルも聴きますよ。夏にはフェスにいくので真っ黒になります。先週末も地方に遠征していました。

■10年後も「次のこと」にまだワクワクしていたい

――山川さんは「どうやったら仕事を楽しくできるか」をその時々で真剣に考えていますね。最後に、そんな山川さんは10年後に何をしていると思いますか。ご自身の「こうなっていたい」姿を教えてください。

10年後は還暦に近い年齢です。ただ何歳であっても「次のこと」にまだワクワクしていたいですね。

今は60歳でピタリと仕事が終わる時代ではないと思うので、どの組織にいてもこの社会と何らかの形でかかわっている気がします。今の会社なのか、違う組織なのか、はたまたNPOなのか……。

具体的な何かまではわかりませんが、周囲の人や友人に「今やっていることって、面白くってさー」と話せるようではありたいと思っています。

■異色のキャリアは緻密な設計をした結果?, ■自分は見つかった? 16年の在籍で「社内転職」も2回, ■実は「音楽に救われたのです」 エンタメの力を実感した経験から, ■10年後も「次のこと」にまだワクワクしていたい

(聞き手/AERA編集部 鎌田倫子)

山川奈織美(やまかわ・なおみ)/東京都出身。慶應義塾大学を卒業後、1999年マッキンゼー・アンド・カンパニー日本オフィスに入社。2001年から05年まで、創業直後のオイシックス(現、オイシックス・ラ・大地)に参画。05年にマッキンゼーに復帰。19年にパートナーに就任。21年11月Google日本法人に入社し、YouTube Japan マーケティングディレクターに就任。25年10月から現職。

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