サムスン電子が「虎の子の半導体」事業で全てを失う日…前門の台湾TSMCに後門の中国SMIC

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いまやアジア最大の財閥となったサムスングループ。その中核をなすサムスン電子だが、半導体のファウンドリー事業で苦境に立たされている。シェアはTSMCの1割に落ちこみ、後発メーカーの猛追で業界2位の座も危うい。いまサムスンに何が起こっているのか?※本稿は、日本サムスン元顧問の石田 賢『揺らぐサムスン共和国:米中対立の狭間で苦悩する巨大財閥』(文眞堂)の一部を抜粋・編集したものです。
嫉妬されるほど順調だった
「サムスン共和国」のいま
サムスン財閥は、サムスン電子を中核企業とし、系列企業62社から構成されている。サムスン電子は、韓国を代表するグローバル企業である。就職を目指す大学生にとってサムスン電子は憧れの的であり、韓国民にとっては誇りにもなっていた。時に政治との癒着や不透明な支配構造が指摘されて国民の嫉妬を買い、しばしば「サムスン共和国」とも揶揄されてきた。
それでも過去30~40年間、サムスン電子は順風満帆に業績を伸ばしてきた。「選択と集中」や「素早い意思決定」など同社を成功に導く言葉に溢れていた。学術書でもテレビ・マスコミでも、停滞する日本企業との対比で、成長要因の分析が注目を集めていた。
ところがそのサムスン電子が今、内憂外患に見舞われている。その最大の内部要因は半導体事業の不振にある。
2024年のサムスン電子の業績をみると、売上高は前年比16.2%増の300兆8709億ウォン(30兆871億円)、営業利益は396%増の32兆5754億ウォン(3兆2575億円)、売上高営業利益率10.9%と一見順調そうに見える。
しかし韓国内の半導体ライバル企業であるSKハイニックスと米国の半導体メーカーであるマイクロンは、AI(人工知能)半導体に不可欠な広帯域メモリー(HBM)を開発し、その追い風を受けて、2024年の対前年比の売上高伸び率はそれぞれ94%、93%の高い成長率を達成した。両社の売上高伸び率と比べると、サムスン電子の低さが際立つ。
ライバルの後塵を拝する
半導体のファウンドリー事業
SKハイニックスはHBMの量産化でサムスンに先行しており、AI半導体で世界をリードしているエヌビディアにすでに納品している。2025年5月現在、サムスン電子の5世代HBM3E認証は、申請から1年経ってもまだ品質テスト中にある。
HBMは何枚ものDRAMを垂直に重ねた半導体で、既存のDRAMよりデータ処理速度を革新的に引き上げた高付加価値・高性能製品である。この技術開発にサムスン電子は、SKハイニックスとマイクロンの後塵を拝してしまった。
サムスン電子の半導体事業の不安要素は、HBM開発の遅れだけにとどまらない。サムスン電子は、米国テキサス州に建設する半導体工場に総額370億ドル(5兆5500億円)以上を投じる。同工場は最先端ロジック半導体のファウンドリー事業(編集部注/半導体の製造を専門に請け負うビジネスモデル)の拠点に位置付けられている。
だがファウンドリー事業は、台湾のTSMCの牙城であり、サムスン電子はこの事業で赤字を続けている。TSMCは主要顧客をガッチリ掴んでおり、サムスン電子が、TSMCの顧客を切り崩せるか、新規顧客を開拓できるか、不安が付きまとう。
収益性の高いファウンドリー事業が
突破口になるはずだった
同社のファウンドリー(受託生産)事業は、台湾・TSMCの圧倒的な開発力を目の前にして、2024年のシェアは9.3%と一桁台に落ち込んでいる。
下降線をたどるサムスン電子のファウンドリー事業は、2025年第1四半期には、台湾・TSMCの世界シェア67.6%に対して7.7%とほぼ60ポイントの差に広げられている(図表5-5)。

同書より転載
収益力の差は歴然としている(図表5-6)。

同書より転載
サムスン電子が半導体市場を切り拓く突破口として期待を寄せていたのが、ファウンドリー事業であった。ファウンドリーは、基本的に顧客から注文を受けてから生産するので、メモリー系半導体が注文の前に需要を見込んで生産を先行させるのとは異なり、在庫水準を低く保つことができ、収益力が高い。
1年先のスケジュールが埋まる
TSMCの圧倒的な受注数
台湾・TSMCは2030年までに米国・アリゾナ州に第1、第2、第3工場を建設する計画であり、総額650億ドル以上を投資する。米国政府は、半導体産業の振興を目的としたCHIPS法(米国内に半導体産業の振興を目的とした法律)により、TSMCに対して66億ドルの補助金を提供する。ただしトランプ政権下で補助金は白紙となった。
TSMCの第1工場(4ナノ工程)は2025年上半期に稼働し、第2工場(3および2ナノ工程)は2028年中、第3工場(2ナノおよびそれ以上の微細工程)は2030年末の生産を計画している。
2025年3月、TSMCは米国における半導体事業への投資を1000億ドル追加すると発表した。追加投資には3つの新半導体製造工場、2つの先進パッケージング施設、研究開発チームセンター1つが含まれる。これによりTSMCの対米投資額は、アリゾナ州の650億ドルに1000億ドルを加えた1650億ドルとなる。
TSMCは欧州への投資も明らかにしている。2023年8月、ドイツ・ザクセン州ドレスデンに合弁会社(出資比率:TSMC70%、ボッシュ、インフィニオン、NX各10%)を設立し、車両用半導体工場(投資規模:100億ユーロ)の建設を決定している。
さらにTSMCは日本政府の支援を得て、2024年2月、熊本県菊陽町に第1工場(投資額86億ドル)を完成させ、年末には量産化に入った。日本政府はこの第1工場に4760億円、そして2027年末稼働予定の第2工場(同139億ドル)には7320億円の補助金を与えるとしている。両工場合わせて1兆2000億円を上回る補助金である。
TSMCは現在1000社以上の顧客を有している。主な顧客は、アップル、インテル、クアルコム、エヌビディア、テスラ、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)などである。これら半導体設計専門企業から注文を受けて、前工程のファウンドリーと後工程のパッケージングを行っている。受注は2027年以降まで満杯と伝えられる。
中国の後発メーカーは
サムスンの顧客を奪いにいく
サムスン電子のファウンドリー事業の不安は払拭できない。ライバルはTSMCではなく、SMIC(中国・中芯国際集成電路製造、本社:上海)やUMC(台湾・聯華電子)が、足元に迫っているからだ。

『揺らぐサムスン共和国:米中対立の狭間で苦悩する巨大財閥』 (石田 賢、文眞堂)
中国の後発メーカーSMICの台頭は、TSMCの市場を狙うのではなく、サムスン電子のファウンドリー顧客を切り崩す公算が大である。SMICは、中国政府の補助金と急増する内需の追い風に、ファウンドリー投資を拡大する計画である。SMICの世界シェアは、2025年第1四半期基準で、サムスン電子と1.7ポイント差まで迫っている。
第4位の台湾UMCは、2025年4月の現地報道によると、第5位の米国グローバルファウンドリーズとの合併交渉に入ったと伝えられた。両社の合併が成立すると、世界シェアは8.9%になり、サムスン電子を抜き去り、TSMCに次ぐ第2位へ躍進する。
また未知数であるが、米国政府の支援を受けたインテルの新規参入も無視できない。2030年にサムスン電子を追い抜き、世界ファウンドリー市場で第2位になる目標を掲げている。
ファウンドリー事業は、断トツのTSMCを除く下位メーカーが乱立しており、まさに生き馬の目を抜く局面に入っている。サムスン電子は、TSMCのような主要顧客を抱えておらず、顧客のきめ細かな要望に合わせて製品化するのを得意としていない。しかも中国企業と米国企業に足元を脅かされる状況になっている。
サムスン電子が、ファウンドリー事業の世界シェアをズルズルと過去最低を更新している状態では、現状でさえ赤字続きであることから推し測ると、さらに赤字が膨らむとみて間違いない。