大阪「特区民泊」バブル崩壊へ 中国系企業の「駆け込み」申請急増も専門家は2カ月後の「投げ売りと転売」を懸念

■5月29日の受付終了前に駆け込み, ■大阪市に全国の9割が集中, ■「資本金500万円」で実質的に永住, ■ほぼすべてが「ビザ取得」目的, ■外国人による起業は激減, ■民泊から撤退か, ■転売と投げ売りが始まる

 大阪市で「特区民泊」の“駆け込み”申請が増加している。専門家によると、「経営・管理ビザ」の取得要件が厳格化された余波で、同市の民泊問題が深刻化する可能性があるという。

*   *   *

■5月29日の受付終了前に駆け込み

 2025年8月、降り立った南海電鉄・天下茶屋駅(大阪市西成区)の周辺は民泊だらけだった。朝早くから外国人観光客でにぎわい、駅周辺には一戸建てをリフォームした民泊やマンション型の民泊。入り口には「OSAKA STAY」と、大阪市の民泊認定マークが表示されていた。

 あれから半年、大阪市で「特区民泊」(正式名:国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)の申請が急増しているという。今年5月の新規申請受け付け終了前の駆け込み需要だ。

「今、特区民泊の申請を急いでいるのは、土地や家屋を手に入れて急いで工事を進めてきた民泊デベロッパーと思われます。その多くは中国系企業でしょう」

 阪南大学国際学部の松村嘉久教授によると、大阪市の特区民泊は「中国人の移民ビジネスに利用されてきた」と言う。松村教授は、観光地理学と現代中国研究が専門で、8年ほど前から特区民泊を調査してきた。

 特区民泊の新規申請件数は、コロナ後の23年8月から25年8月までは月平均130件ほどだったが、25年9月から毎月200件を超えるようになった。

 背景には、25年9月、同市が「特区民泊の新規申請の受け付けを停止する方針を固めた」と報道されたことがある。10月27日には、横山英幸・大阪市長は「新規申請を2026年5月29日で終了する」と発表した。

■大阪市に全国の9割が集中

 特区民泊は、通常の民泊とは異なり、年間365日営業できるため、収益を上げやすい。国家戦略特別区域に指定された大阪市では、7929施設(26年1月末時点)が特区民泊として認定され、全国の特区民泊の9割以上が集中する。

 1棟まるごと一括認定されている民泊マンションもあり、「特区民泊の部屋数は認定件数よりもずっと多く、2万室近い」(松村教授、以下同)

■「資本金500万円」で実質的に永住

 これまで松村教授は大阪市内の9500社以上の法人登記簿を調査した。すると、大阪周辺には民泊ビジネスの全工程、すなわち、民泊の建設、リフォーム、不動産仲介、営業、営業代行、清掃、書類申請手続きなどが、中国語だけで完結する「中国人ネットワーク」があることが浮かび上がったという。

 中国系の特区民泊は次のような流れでつくられてきたという。日本への移住を望む中国人が中国在住のまま大阪市内で不動産を購入し、日本で実態のない資本金500万円の「ペーパーカンパニー」を立ち上げる。その不動産で同市から特区民泊の認定を受け、民泊経営者として「経営・管理ビザ」を取得する。民泊の運営は代行業者に任せる。同ビザを取得できたら日本へ移住。犯罪でも起こさないかぎり、日本に住み続けられる。家族を呼び寄せることもできる。

「この一連の流れが移民ビジネスモデル化され、事業者が続々と参入。コロナ禍明けの23年ごろから急速に広まったと見ています」

 22年まで大阪市の特区民泊の申請数は年間200件前後だったが、23年は1089件、24年は1800件、25年は2895件と急増した。

■ほぼすべてが「ビザ取得」目的

 松村教授が、本社の法人設立時の住所か現住所が大阪市内にあって外国人が代表取締役の9557社(3月18日時点)の法人登記簿を確認したところ、資本金500万円、もしくは501万円の法人は7637社あった。このうち、法人設立時の代表取締役の住所が中国、香港、マカオの事業者は4441社だった。

 松村教授によると、その「ほぼすべてが経営・管理ビザの取得目的」と見られ、同市内の特区民泊の少なくとも49%(25年12月末時点)が中国人、もしくは中国系企業による運営で、最も比率の高い西成区は65.7%になるという。

 形式的な法人設立による在留資格の取得は、国会でも問題視され、昨年10月16日から経営・管理ビザの取得要件が厳格化された。たとえば、資本金は「500万円以上」から「3000万円以上」に引き上げられた。

■5月29日の受付終了前に駆け込み, ■大阪市に全国の9割が集中, ■「資本金500万円」で実質的に永住, ■ほぼすべてが「ビザ取得」目的, ■外国人による起業は激減, ■民泊から撤退か, ■転売と投げ売りが始まる

■外国人による起業は激減

 経営・管理ビザの取得要件の厳格化によって、外国人による起業は「激減している」という。

 松村教授が確認した法人の設立年次と事業者数は、2023年1660社、2024年2022社、2025年2645社だったが、経営・管理ビザの取得要件が厳格化された25年10月16日を境に、資本金3000万円以上で起業した外国人代表の会社は10数社にとどまる(3月18日時点)。

 にもかかわらず、なぜ特区民泊の申請が増えているのか。

「新規申請の受け付けが終了する5月29日が迫っていることから、中国系のデベロッパーは特区民泊用に開発した一戸建てやマンションの買い手が見つからなくても工事が終わり次第、自分たちで申請して、認定を受けるケースが多いと見られます。住居用よりも資産価値が上がり、後で買い手を見つけて高値で転売できるチャンスが増える」

 経営・管理ビザの取得要件が厳格化されて以降、資本金を500万円から3000万円以上に増資した企業も50社近く確認されているという。こうした企業の大半は、日本在住の外国人が起業した会社か、代表取締役がすでに来日して居住している会社と見られる。

 一方、日本からすでに撤退した会社もあるという。松村教授は法人登記簿を基に作成したデータベースを示しながら、こう解説する。

「たとえば、この会社は浪速区のビル8階を所在地とし、中国・北京市に住む人が昨年7月に立ち上げた。資本金は500万円。でも同年12月に解散している。日本に来ることをあきらめたのでしょう。同様な事例が30社ほどあります」

■5月29日の受付終了前に駆け込み, ■大阪市に全国の9割が集中, ■「資本金500万円」で実質的に永住, ■ほぼすべてが「ビザ取得」目的, ■外国人による起業は激減, ■民泊から撤退か, ■転売と投げ売りが始まる

■民泊から撤退か

 経営・管理ビザの取得要件厳格化によって増資した会社や撤退した企業はまだ少数だ。

「ほとんどの会社は資本金500万円で代表取締役が海外在住のまま、事態の推移を見ている状態です。今後、日本移住を目指して資本金を3000万円以上に増資するか、あきらめて会社を清算するかの二択しかないでしょう」

 一方、すでに日本へ移住してきた人たちの最大の壁は、ビザの更新だろう。更新は基本的に1年ごとで、これまでは書類審査のみで更新できたが、これからは経営実態が厳しく審査されると見られる。

「日本に来たとしても、日本に住み続けられなければ、民泊物件を購入した意味がなくなる。なかには必死になって事業を継続する人もいると思いますが、移民をあきらめて民泊事業から撤退する人が多いでしょう」

■転売と投げ売りが始まる

 松村教授は今後2カ月から半年くらいの間に大きな動きがあると予想する。

「5月29日までに特区民泊の認定を受ければ、後に高値で転売できる可能性があるので、申請はますます増えるでしょう。ただ、海外在住のままペーパーカンパニーを設立して、特区民泊を保有している人たちは、来日しても住み続けることが難しいので、物件を手放す可能性が高い」

 松村教授は、民泊物件の投げ売りと転売が一斉に始まることを心配する。

「これまで大阪市の特区民泊は騒音やゴミ捨てなどの問題で周辺住民との軋轢を生んできた。今後、物件の転売が増えることで、民泊の管理者との連絡がますますとりづらくなり、住民の生活環境が悪化するかもしれません。特区民泊や経営・管理ビザ取得ねらいの企業がどう動くのか、注視していきたいと思います」

(AERA編集部・米倉昭仁)

・【写真】中国人が購入した新築の民泊用の家はコチラ

・【写真】「民泊マンション」化した新築ビル。今後何が起こるのか

・「民泊」を足掛かりに中国人が続々移住 専門家が指摘する制度の穴 「日本は世界一ゆるい国」なのか