格安クルーズ旅行「本当の値段」 ドリンク代、チップ、通信費…ゴールデンウィーク前に知っておくべき実費の全貌
ゴールデンウィークが迫る中、遠出をする場合は航空機を利用するのが一般的だ。しかし、最近は大型客船によるクルーズ旅行広告も目につくようになった。
【写真を見る】5500人収容、大型クルーズ船の内部はこんな感じ
日本船は国内の観光地を巡る国内クルーズが多いが、外国船では日本発着のクルーズだと国内数カ所+海外1カ所で5日~1週間程度、あるいは東京、横浜、神戸などの発着で、台湾や上海などへの片道クルーズが多い。那覇発着の数日程度のクルーズも頻繁にある。
増える格安クルーズ
特に日本発着の外国大型客船による「格安クルーズ」が急速に増加しており、従来のクルーズのイメージを大きく変えつつある。
「1日1万円」程度の料金設定も見かける。MSCベリッシマで6月に東京から台湾・基隆に行く5日間の片道クルーズがなんと3万3800円(2人部屋利用の1人当たり)というものもあり、驚きの価格だ。しかも全食事付きだ。
しかし、客船独自の料金システムがあり、この金額だけで乗船できるわけではない。こうした料金設定の仕組みと、賢く利用するポイントについて紹介したい。
日本発着で格安クルーズを提供している代表的な存在がMSCクルーズのMSCベリッシマである。例えば5〜7日程度のショートクルーズでは、6万〜8万円台からの設定が見られる。従来の「豪華客船=高額」という常識を覆している。横浜や東京、神戸、那覇といった主要港を発着し、韓国(済州島・釜山)や台湾(基隆)、沖縄周辺の島などを巡る航路で構成されている。

ベリッシマの船内(筆者撮影)
片道クルーズの場合、航空券付きのパック旅行も販売されている。ベリッシマは総トン数17万1598トン、乗客定員5500人規模という巨大船であり、船内には劇場、ショッピングモール、プール、スポーツ施設など多様な設備が整備されている。
プリンセス・クルーズのダイヤモンド・プリンセスも、比較的手頃な価格帯の商品を提供している。日本周遊や韓国寄港を含む8日程度のクルーズでは、10万円台の設定が見られる。同船は、総トン数11万5875トン、乗客定員約2700人の日本で建造された大型船。大浴場があり、日本語対応等をアピールしている。
高級路線の日本船
これらの外国客船が船旅の大衆化を目指したカジュアル路線であるとすれば、日本船は主に高級イメージのラグジュアリー路線だ。船もより小さい。
よく知られた存在が郵船クルーズの飛鳥Ⅱである。総トン数5万0444トン、乗客定員約870人という規模で、長年運航されてきた。全室海側客室、質の高い料理、落ち着いた雰囲気の船内環境が売りだ。
さらに2025年には新造船である飛鳥Ⅲが就航した。総トン数約5万2200トン、乗客定員約700人と、規模を少し拡大しながらもあえて定員を抑え、ゆとりある空間と高い居住性を目指している。
中型船としては商船三井クルーズのにっぽん丸があり、総トン数2万2472トン、乗客定員約420人と比較的小規模であるが、「食のにっぽん丸」と言われるような料理の質が売り物だ。小回りの利く船体を活かし、地方港への寄港やテーマ性のあるクルーズを多く実施している。
また同社の三井オーシャンフジは、総トン数3万2477トン、乗客定員約450人で、全室スイート仕様という高級志向を打ち出し、日本船の中でも特にラグジュアリー性の高い存在として注目されている。類似船の三井オーシャンサクラも就航予定だ。
これら日本船は乗客数を抑え、質を高めている。その結果、価格帯はかなり高く、外国船の格安クルーズに比べれば数倍以上だ。静かで落ち着いた環境を求める層に強く支持されている。
日本発着の外国船クルーズが格安な理由
数万円台から乗船可能な外国船の「格安クルーズ」は一見非常に魅力的であるが、その価格にはいくつかのからくりがある。ベリッシマの場合をみてみよう。
第一に、表示・広告では基本料金のみが強調される一方、港湾費用や各種税金、サービス料が別途加算されるため、実際の総額は当初の印象より高くなる。港湾費用とは船の港における係留費などで、顧客一人一人にかかるものではなく、船全体にかかる費用で、それを按分して顧客に請求している。
前述した3万3800円のクルーズで1万1600円だ。これに日本の国際観光旅客税が1000円、船内チップが一泊当たり18ドルなので、4泊で72ドル。1ドルを160円とすると1万1520円になる。これらを足せば5万7920円となる。
このクルーズは途中寄港地のない単純片道クルーズだが、寄港地が増えると港湾諸費用も高くなり、ベリッシマの場合、1週間程度のクルーズで3万円程度の場合も多く、かなり高額だ。
第二に、船内消費を前提として基本料金を安くするビジネスモデルだということだ。基本料金には部屋代、移動費、食事代が含まれているが、飲料費は別だ。

ベリッシマの甲板にはジョギングコースも(筆者撮影)
ベリッシマにはフルサービスでコースメニューを提供するメインレストランが複数あり、そのほかにビュッフェレストランがある。クルーズ中、どちらでも選ぶことができる。どちらも食べ放題で、メインレストランでは、前菜もメインディッシュもデザートも何品頼んでもよい。ビュッフェレストランは早朝から深夜まで利用でき、品ぞろえも豊富だ。
しかし、飲み物は水も含めて有料でかなり高い。ビール小瓶が7.5ドルくらい、カクテル類は10ドルくらい、ミネラルウォーター・ソフトドリンクは3.5ドルくらいでさらに15%のサービス料が加算される。ビール1杯が約1300円、お茶やコーラでも1杯640円ほどだ。ビュッフェでは普通の水、コーヒーやティーバッグ類は無料で、朝だけは一部ソフトドリンクも無料だ。
ドリンクパッケージという一括前払いのシステムもあり、筆者がこの3月にベリッシマで5泊6日のクルーズをしたときの乗船前料金はイージーパッケージというアルコールを含むパッケージが230ドル(3万6800円)、より高額なアルコールを含むプレミアムエクストラパッケージが350ドル(5万6000円)、ノンアルコールフリーパッケージが150ドル(2万4000円)だった。

バルコニーでの朝食もクルーズ旅行の楽しみ(筆者撮影)
船内で購入するとより高額となる。また同室者は同じパッケージを購入する必要がある。このパッケージを購入するかどうかは悩みどころだ。パッケージだとつい飲みすぎてしまいよくないという意見もある。
海上でのネット利用は高額
海上だとインターネットは使えないことが多い。そのため必要なら有料のインターネットサービスを購入する必要があるが、これも高額だ。筆者が5泊6日のクルーズをしたときの料金は1デバイスで139.95ドル(2万2400円)、2デバイスで229.90ドル(3万6780円)だった。
第三に、一番安い表示対象は最低価格の部屋とサービス内容についてのものということだ。ベリッシマの場合、客室のグレードに加え、「エクスペリエンス」と呼ばれる独自のクラス分けが導入されている。
まず客室等級は、大きく「内側客室」「海側客室」「バルコニー客室」「スイート」に分かれる。内側客室は窓がない分価格が抑えられ、格安クルーズの中心となる。海側客室は固定の窓付き部屋だ。バルコニー客室には専用のバルコニーがついている。
これに加えて設定されるのが「エクスペリエンス」であり、同じ客室でも付帯サービスが異なる。「ベッラ」「ファンタスティカ」「アウレア」の3段階があり、価格とサービス内容に応じて選択する。

ベリッシマの夜の屋外デッキプール(筆者撮影)
条件によって料金に大きな差
最も基本的なベッラは客室指定ができず、メインレストランのディナー開始時間が指定され、料金が最も安い。ファンタスティカでは客室の選択や朝食ルームサービス無料、メインレストランディナー開始時間のリクエスト可などの条件が加わる。
さらに上位のアウレアでは、客室の位置が船体中央・上階で、メインレストランでの夕食開始時間自由、スパ利用無料、専用デッキへのアクセス可などの条件が加わる。
MSCヨットクラブはエクスペリエンスとは別枠で位置付けられ、船首によりゴージャスな専用区域があり、専用レストランやラウンジ、バトラーサービスがある。
ダイヤモンド・プリンセスも客室のグレードに加えて3つの料金プランがあり、料金の差はかなりある。
船の旅は客船のサイズが大きいほど格安のクルーズが多い。それは大型化によって効率化が追求できるからである。数千人規模の乗客を一度に運ぶことで、燃料費や人件費などの固定費を分散し、1人当たりの運賃を抑えることが可能となる。
ただし、港湾費用などは船のサイズに比例して増加するため、すべてが安くなるわけではない点には要注意。ベリッシマの港湾費用はかなり高額なのでチェックが必要だ。
客船特有の空室リスクを回避するための価格戦略にも注目すべきだ。空室の客室はまったく利益を生まない。通常のホテルも同じだが、混雑する時だけ人を雇うことも可能だ。しかし、客船の場合は満室を前提とした乗務員が乗船したままだ。ある航路は乗船客が少ないからといって乗務員を減らすような対応は基本的にできない。
ベリッシマの場合乗客5500人程度に対して乗組員が1500人ほどもいる。極力、客室が埋まるようなマーケティングをしていると考えられる。客室が埋まれば、前述の船内消費も期待できる。出航日が近づくにつれて価格を引き下げる販売手法もみられ、これも格安クルーズが登場する一因となっている。逆にダイヤモンド・プリンセスでは「早割」料金が目に付く。

ベリッシマでは毎日、無料のショーが開催される(筆者撮影)
大型客船クルーズのデメリット
筆者がベリッシマを複数回利用して感じたことは、とにかく乗客が多いということだ。最大5000人近くが乗船しているわけで、船内がごったがえしていることはよくある。フルサービスのレストランでは一斉に食事が始まるため、料理が出てくるまで1時間近く待たされることもあり、調理が雑なこともたびたびあった。
混雑を一番感じるのは乗客が一斉に移動する乗下船時だ。筆者が台湾の基隆からクルーズを開始したときは、客室に入るまでに2時間かかった。途中寄港も、初めて外国の港で入国するとき、海外からはじめて日本の港で帰国するときは入国手続きでかなりの時間が取られる場合がある。筆者の経験では最大2時間船から出るまでにかかった。
特に苦痛に感じるのは最後に下船するときだ。クルーズの終了と次のクルーズの開始が同日の場合が多い。そのため、最終地の入港が朝の8時くらいになり、部屋をやはり同時刻くらいに空けることを求められる。
下船は順番となり、部屋ごとに下船予定時刻が通知される。まず、MSCヨットクラブの乗船客が優先され、その後、部屋のグレードや階数により下船時間が指定されるのだが、下船開始から終了まで3時間ほどかかるのだ。
もっとも時間がかかったときは、8時入港、同時刻に部屋を空け、下船開始が9時頃だったが、筆者の客室に割り振られた下船時間はほぼ最後で12時に近かった。すなわち、部屋を出てから約4時間後だった。船内は部屋を追い出された人であふれ、座る場所がないほどだ。
また、海上は陸地以上に天候に左右される。大型船は比較的に揺れが少ないが、ベリッシマのような超大型船ですら、ゆらゆら揺れることはあり、船酔いをする人もいる。また、クルーズスケジュールが変更になることも少なくない。寄港自体がキャンセルになることもあるので、寄港予定地でレンタカーや飲食店を予約する場合は注意が必要だ。

ベリッシマの屋外プール。夜には映画も上映される(筆者撮影)
クルーズの特性を理解して選択を
日本のクルーズ市場は大衆化の進展とともに多様化し、利用者にとっての選択肢は大きく増えている。その一方で、価格やサービスの関係は複雑化しており、理解不足での選択は期待との乖離を生む可能性がある。クルーズは単なる移動手段ではなく、船内での時間そのものを楽しむ旅行商品と言えるので、選択違いがあると影響は大きい。
客船クルーズの特性を理解し、自身の目的に合った選択を行うことが満足度の高い船旅を実現するカギとなるだろう。