なぜ管理職の役割は変わったのか? 部長クラスが本来の役割に専念できない「罰ゲーム化」時代

かつて日本の企業は、既存事業を磨き込むだけで成長できる時代にありました。管理職は目の前の業務を監督していればよく、終身雇用が前提で社員のエンゲージメントに深く気を配る必要もありませんでした。しかし、少子高齢化が進み、経済成長が妨げられる「人口オーナス」期に入った今、状況は一変しました。事業変化のサイクルは速まり、転職も一般化。管理職、特に部長クラスには、これまでとは全く異なる多様な役割が求められています。朝日新書『上司はリスクばかりを指摘する 会社を潰す「大課長」問題』から抜粋して、時代変化が管理職に与えた影響を解説します。(第5回)
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会社組織の中で、部長や本部長に昇進しても、そのマインドや振る舞いは課長の頃のまま。肩書だけが偉くなってしまい、仕事ぶりの伴わない部長クラス以上の管理職を、私たちは「大課長」と呼んでいます。
この言葉は、10年ほど前から人事コンサル業界で使われ始めました。また、本書でいう「大課長」問題は、部長以上の管理職が課長と同じような仕事を続けている状態や、それによって引き起こされる、さまざまな会社の機能不全を指しています。今、日本中の多くの会社で、この「大課長」問題が深刻になっています。
■管理職に求められることが時代とともに変わってきた
ここで、冒頭の「部長ならできます」のエピソードを思い出してください。
20年前までは普通だったこの言葉の裏には、それまでの恵まれた社会情勢があります。1990年代初頭の日本にはまだ、1960年代からの好景気の名残がありました。
15歳から64歳の生産年齢人口比率が、従属人口(14歳以下と65歳以上の人口合計)に対して高い「人口ボーナス期」が続いており、社会構造自体が経済成長を支えていました。既存の事業を繰り返して磨き込んでいれば、新しいことを始めなくても、企業の業績が伸びていく時代でもありました。そのため管理職は部長に昇進してもなお、目の前の業務を管理・監督していれば、それでよかったのです。また、就職というよりも終身雇用制度を踏まえた「就社」という考え方が強かったため、現代のように転職も当たり前ではなく、社員のコンディションに今ほど気を遣う必要がありませんでした。愛社精神に支えられ、社員のエンゲージメントを高める必要性が低かった時代でもあります。

しかし、少子高齢化が進む今では、そうはいきません。生産年齢人口比率は1995年をピークに減少し始め、かつては7割近かった数字が、2024年には50%台後半まで下がりました。
このように従属人口割合が高い構造を「人口オーナス」といい、社会保障費などの負担が増えることから、経済成長が妨げられるとされています。
また、社会が移り変わるスピードも上がっています。事業変化のサイクルも速くなっており、企業活動の転換が常に求められるようになりました。これまでの事業を大切に磨き続けているだけでは、企業は成長できないばかりか、衰退していく時代になっているのです。そのため、新しい顧客層の開拓や新しい事業開発などが求められるようになっただけでなく、終身雇用・年功序列が弱まる中で、転職という選択肢も一般化しました。これらの変化によってエンゲージメントやチームビルディングなど多くの取り組みが求められるようになってきました。それらをまとめた図1―3を見ると、とくに2000年代以降は、管理職の役割がより多様になっていることがわかります。

近年のもう一つの傾向として、マネジメントだけに徹する課長職が少なくなっていることが挙げられます。産業能率大学による2023年の調査では、上場企業で働く課長のうち、実に99・5%が、いわゆるプレイング・マネージャー化していることが明らかになっています。もちろん各社で差はありますが、この理由の一つは、課長の業務範囲が広くなっていることにあります。管理職の人数は年々減っていますが、階層が簡略化されたり部署が統合されたりといった組織改編のトレンドにより、一人ひとりの仕事量が増えています。マネジメントに専念していると仕事が回らないというのも、管理職のあり方の変化の一つだと言えるでしょう。
※朝日新書『上司はリスクばかりを指摘する 会社を潰す「大課長」問題』より抜粋
≪著者プロフィール≫
林宏昌 はやし・ひろまさ
リデザインワーク株式会社代表取締役社長。早稲田大学理工学部情報学科卒業。2005年株式会社リクルートに入社し、経営企画室長、広報ブランド推進室長、働き方変革推進室長を歴任。2017年にリデザインワーク株式会社を創業し、大手企業を中心とした経営戦略・人事戦略・働き方改革のコンサルティングを推進。2025年には2社目となる株式会社スキルキャンバスを創業。情報イノベーション大学客員教授。本書が初の著書となる。
・【ショート動画】大課長問題あるある①~⑤はこちら あなたの会社にも?
・第1回)『上司はリスクばかりを指摘する』著者が指摘 会社の成長阻む「大課長」5つの兆候チェックリスト
・第2回)なぜ若手は報われない? 多くの部長は求められる役割を知らない「大課長」問題が深刻化