〈大学ランキング2027〉東北大が日本初の「国際卓越研究大学」に選ばれた“決め手”とは 冨永悌二総長インタビュー

世界トップレベルの研究力の育成を目指し、国が設けた「大学ファンド」。支援対象となる国際卓越研究大学の第1号に認定されたのが、東北大学だ。かつてない大胆な改革を通して、日本発イノベーションを生み出す大学像を冨永悌二総長に聞いた。発売中のAERAムック「大学ランキング2027」(朝日新聞出版)より紹介する。
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――東北大学はどのような点が評価されて、国際卓越研究大学の認定に至ったとお考えですか。
国際卓越研究大学は研究を深めるだけでなく、それを社会に実装することで社会価値へと高めていくことが求められています。その背景には、経済が停滞した“失われた30年”の間に、世界をけん引するようなイノベーションが日本からほとんど生まれてこなかったことへの反省があります。今改めて、大学が知の発信源としての役割を果たし、日本発のイノベーションを生み出す土台を築くことが、国際卓越研究大学に託される役割なのです。
そのために本学は、かつてない大胆な改革計画を掲げました。日本の国立大学が世界の大学との競争に勝ち抜いていくために不可欠なシステム改革であり、数値目標と具体的な戦略として示したことで、本気のマインドセットが評価されたと考えています。
――国際卓越研究大学では、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドから最長25年にわたって支援を受けることになります。
理想とする教育と研究を実行し、社会に役立つ研究成果を継続的に届けていくには資金が必要です。日本の国立大学の教員の給与はどこも同じですが、世界のマーケットではそんな基準は通用しません。研究は人材が命であり、優秀な人材を集められない状況が続けば、海外大学との研究力の差はどんどん開いていく一方でしょう。
米国など海外の有名大学は莫大な規模の基金を運用し、会計年度に関係なく使える運用益を獲得しています。さらに、産業界と協働し、研究成果を社会に届けていくことで自ら稼ぐエコシステムを築いています。日本の大学も自ら稼いで投資できる大学になるには、何十年、あるいは100年ぐらいの時間がかかってもおかしくありません。国際卓越研究大学の制度はこの途方もない期間を縮め、できるだけ早く世界に伍する大学に成長していくための仕組みだと受け止めています。

――研究者が長期的な視点で挑戦的な研究に取り組める環境を、大学としてどのように整えていますか。
一日も早くその期待に応えるために、研究体制を強化する三つのコミットメントを掲げました。第一が学術的にも社会的にも影響力の高い価値を創出する「インパクト」。第二が世界の優秀な研究者を惹きつける研究環境づくりと、学生が世界で活躍できる教育を提供する「タレント」。そして第三は、経営とガバナンスを高度化し、国際的かつ機動的な大学運営のための改革を実行する「チェンジ」です。国際卓越研究大学の認定を受けたことで学内の機運も高まっており、これらの公約を実現するための行動が着々と進んでいます。
■世界から研究者を集め、若手が挑戦できる環境へ
――認定から1年あまりが経ちました。これまで主にどんなところに力を入れてきましたか。
足元で注力しているのは、優秀な研究者を世界中から集める採用活動です。近年の国際情勢の変化により、卓越した海外の研究者獲得に向けた動きが活発化していますが、本学ではそれに先んじてサンフランシスコやボストンで研究者向けの説明会を開催しました。すでに実績を持つ著名な研究者にも声はかけていますが、中長期的な研究力の引き上げに不可欠な若手研究者に対するリクルーティングに特に力を入れています。
優秀な若手を集めるには、こうした人たちが活躍できる環境づくりも必要です。日本の大学では教授をトップにしたピラミッド構造が固定化する傾向にありますが、本学では若手研究者がリーダーとなって独立した研究環境とフラットで機動的な研究体制の整備を図っています。
こうした取り組みが評価され、これまで実施した公募では軒並み数十倍の高倍率となり、例えば金属材料研究所の倍率は90倍を超える状況でした。多くの応募者の中から優秀な人材を選抜し、すでに100人以上の研究者と契約を交わしました。
――研究で世界トップレベルを目指すというと大学院での教育や研究がイメージされがちですが、東北大学は学部教育の再構築にも取り組んでいます。
優れた研究者を生み出し成果を残すには、学部レベルからの教育が非常に重要です。特に自身の課題意識を深めて言語化し、それを英語で発信できる力は、研究力はもちろん、複雑化する社会課題に立ち向かうための基盤となります。

こうしたスキルを養うため、2027年度に新しい学部教育の拠点となる「ゲートウェイカレッジ」を新設します。日本人学生と留学生を半々とし、授業は主に英語で実施、国際経験を必須とする予定です。入学時に学部は決めず、分野横断の幅広い学びの中で自身の興味関心を深め、適性を見極めてもらい、3年次に専攻を選ぶレイト・スペシャリゼーションの仕組みを採用します。卒業後は大学院への進学を想定し、学部から博士まで一貫したカリキュラムを提供します。
また、25年には入試を統括する組織である「アドミッション機構」を設立しました。入学者選抜のプロ組織として世界中から多様な学生を集めることに加え、教員の入試業務を軽減し研究と教育に専念できる体制を整えることも大きな目的です。現状の総合型選抜の比率は30%ですが、2050年までにこれを100%まで引き上げ、高い意欲と目的意識を持った優秀な学生を呼び込みます。
――学部を卒業したら社会に出る学生もいます。大学院進学を選択しない学生にとっても、研究力の高い大学で学ぶ意義はあるのでしょうか。
研究と教育は両輪であり、分けて考えるべきではありません。
東北大学は建学以来「研究第一」の理念を掲げてきましたが、これは決して教育を軽視しているのではなく、世界一流の研究こそが世界一流の教育を可能にするということを意味しています。
研究力の高い大学で教育を受けるということは、最先端の研究から導かれた学びが得られるということです。研究の道を志す学生はもちろん、ビジネスや行政など社会の多様な舞台で活躍したい学生にとっても、研究力の高い大学ならではの質の高い教育を受けることに大きな価値があります。
■社会課題の最前線から、世界を変える研究を
――あらゆる情報やリソースが東京に集中する中で、地方の大学が果たすべき役割やその存在意義はどんなところにあるでしょうか。
地方は何もしなければ、人や産業の流出は避けられません。仙台は東北各地から人が集まる地域ではありますが、こうした人たちも含めて大都市圏に流出していく構図は同じです。学生や研究者、企業にとって魅力的な大学であり続けるためには、常にポジティブな変革に挑み続ける必要があります。

東北大学は1913年に日本で初めて女子学生を受け入れたほか、設立当初から旧制高校以外の卒業生や留学生に門戸を開き、多彩な人材を受け入れてきた歴史があります。多様な才能を呼び込むオープンマインドと変革へのチャレンジ精神を今日まで育んでこられた背景には、地方の大学としての矜持と危機感もあったのかもしれません。
また、地方の大学はそれ自体が強みにもなりえます。本学の外国人教員に話を聞くと、「仙台は東京より家賃や生活費が安く、職住近接で海も山も近くにあって住みやすい」と口をそろえます。地方のキャンパスは都市部に比べて拡張性が高く、本学もゴルフ場だった場所を利用して2017年に青葉山新キャンパスを開設し、最先端の放射光施設「ナノテラス」や企業・研究機関の連携施設が集積する世界最高水準のイノベーション拠点を整備しています。企業が大学との共同研究拠点の近くに生産拠点を持ちたいと考えたときでも、地方であればそのハードルが低いのです。
東北地方は全国を上回るペースで深刻な人口減少と少子高齢化が進んでおり、がんの死亡率が高いといった課題を抱える地域もあります。東日本大震災の影響が残る地域もあります。ただ、これは決して東北固有の問題ではなく、世界中の国々が抱える共通の課題でもあります。日本の地方は、いずれ世界が直面する社会課題解決の最前線でもあります。大学が中心となって地域課題の解決アプローチをグローバルに展開していけば、世界を変える力になれるはずです。
東北大学総長 冨永悌二(とみなが・ていじ)
1982 年に東北大学医学部を卒業し、フィラデルフィア生体膜研究所、バロー神経学研究所へ留学。2003年に東北大学大学院医学系研究科教授。東北大学病院長、同病院産学連携室教授、理事・副学長(共創戦略・復興新生担当)を経て、24 年4月から現職。
(取材・構成/森田悦子)
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