保険の請求漏れ防げ、家族分を無料アプリで一括管理 新興企業のIB、大手生損保と提携 月刊Biz

スマホアプリ「保険簿」の請求診断画面。該当保険だけでなく、連絡先も表示する(IB提供)
日常生活で困ったときに頼りになる保険で、請求できるのに気付かなかったことはないだろうか。災害時には保険証券を紛失することもある。こうした保険の請求漏れをなくそうと、生命保険や損害保険の契約内容を管理するスマートフォンアプリを手掛けるスタートアップ(新興企業)がある。2018年設立のIB(アイビー、東京都世田谷区)だ。家族の保険を一括管理できる便利さなどが受け、ダウンロード数は2万件超と好評を博している。

スマホアプリ「保険簿」のスケジュールや保険料を伝える画面(IB提供)
IBによれば、国民1人当たり平均6件の保険に加入している。しかも、契約する保険会社は2社以上という。通常、生損保や保険代理店では自社商品や売れ筋の商品に注力する。競合他社の商品や加入が少ない商品は扱いにくく、多数の商品を網羅する保険管理サービスを提供するのは難しい。保険の請求は加入者が行うものだが、勧められるままに契約したケースも多くみられる。加入していることへの意識が希薄になりがちで、ついつい請求を忘れてしまう。契約先が複数あればなおさらだ。

IBの井藤健太代表取締役。「保険簿で保険の価値を享受してもらいたい」と話す=東京都世田谷区(佐藤克史撮影)
IBのスマホアプリ「保険簿」は、保険証券を撮影して取り込むと自動でデータ化する仕組み。利用者が「病気・ケガ・死亡」「事故・故障」といったタブから該当する事象を選び、原因や状況を続けて通知すると、請求可能な保険を検索できる機能が特徴だ。生損保など300社以上の商品に対応し、手続きに迷わないよう連絡先も表示される。
アプリは無料で提供
さらに、1カ月当たりの保険料をまとめて表示する保険料グラフや、更新時期、自分で設定した見直し・解約予定などを把握できる年間スケジュールの機能も備える。アプリは無料で使用できる。
煩雑な保険を把握しやすくしたアプリに対する利用者の評判はおおむね良好だ。「保険簿の通知で火災保険の更新に気付けた。保険会社から更新案内の封筒は届いていたが書類を見ていなかった」「新型コロナウイルスで夫の保険が請求できるとすぐ気付けた。保険簿がなければ何に入っていたかすら知らなかった」といった声が寄せられる。
保険簿で保険内容を知り、解約を思いとどまったケースもあった。このケースの利用者は「登山保険は登山でしか使えないと思っていたら、加入している保険が自転車事故でも使えることに気付いた。他社の安い登山保険に切り替えようとしたが、補償範囲が広いから保険料が高いのだと納得して継続することにした」と振り返る。
IBは金融企業ではなく中立的な「プラットフォーマー」だからこそ、多くの保険商品に対応できる。社名は「因数分解」のローマ字読みから取った。創業者の井藤健太代表取締役(35)は「複雑な保険も(因数分解と同様に)共通項でくくればシンプルになる。その思いを忘れずにやっていこうと名付けた」と話す。
保険証券のデジタル化が必要
起業は11年に起きた東日本大震災がきっかけ。当時、関西学院大学で保険の制度を研究していた。ボランティアとして訪ねた宮城県気仙沼市で津波によって流された家を見たときに、保険証券もない状況でどうやって請求するのだろうと疑問が浮かび、保険証券をデジタル化する必要性を実感した。卒業後は保険代理店や損保会社に勤めたが、被災地で抱いた問題意識を忘れられず、18年にIBを立ち上げた。翌19年にアプリの提供を始めた。
昨年10月には最初の業務提携先の一社であるSBI損害保険の前社長、五十嵐正明氏を顧問として招いた。保険業界で30年以上のキャリアを持つ五十嵐氏の参加によってアプリ普及に弾みがつく。五十嵐氏は「請求漏れのない社会を実現するためには保険簿が唯一の解決策になる」と力を込める。
IBに賛同する生損保も増え、SBI損保のほか、ライフネット生命保険、三井住友海上火災保険、ジェイアイ傷害火災保険などとシステム利用で提携した。提携先が保険簿上で自社の案内などを告知する際に支払う利用料がIBの収入源になる。現在、提携先は8社。保険加入者へのサービス拡充に向け、参加企業の拡大に力を入れていく。(佐藤克史)