備蓄米放出と「アベノマスク」に共通点…「随意契約」は流れを変えた 識者は「ぎりぎり超法規的対応」と

 小泉進次郎農相就任で政府備蓄米の放出が加速している。これまでの一般競争入札から随意契約へと切り替えたことで小売業者からの申し込みが殺到。ネットや店舗では5キロ当たり2000円程度で販売されることになる。コメの価格低下に期待がかかる一方で、随意契約は過去には不正の温床となってきた。国民の主食を巡る取引で公平性、透明性を保つことはできるのか。(中川紘希、太田理英子)

◆「スピード感ある」小泉進次郎評価の声も

 随意契約で安価に放出され始めた備蓄米。「こちら特報部」は30日、東京都板橋区の「ハッピーロード大山商店街」で消費者に政策の評価を尋ねた。

◆「スピード感ある」小泉進次郎評価の声も, ◆最低申込数量10トン「諦めることにした」, ◆「どこまで透明化を図れるかがポイント」, ◆「政治判断による、ぎりぎり超法規的対応では」, ◆「大臣が契約前に企業のトップ面会するのは…」

小泉進次郎農相(資料写真)

 会社員女性(31)は「家計を考えつつ子どもにたくさん食べさせようと麦ご飯に変えた。国が安く販売してくれればありがたい」と歓迎する。29日夕方に通販サイト「楽天市場」で5キロ2138円(税込み)で販売された備蓄米を確認したが既に売り切れていたという。21日に農相に就任した小泉氏には「大臣交代からスピード感がある。早く買えた人が得するだけにならないように多く流通させて」と望んだ。

 近くに住む三掘三枝子さん(88)は「今のコメの高さは異常。でも食べないわけにはいかない」とため息をつく。スーパーで「あきたこまち」10キロを6000円ほどで買っていたが、今は1万円近くに値上がりした。「小泉農相も本当にコメの値段を下げられるのか。せめて消費税がなくなれば助かるのに」と嘆いた。

 政府が一般競争入札から随意契約に切り替えて売り渡す備蓄米は全体で30万トン。毎日先着順で受け付け、国が提示した価格で契約する。透明性確保のため、契約した事業者名と販売量は公表し、販売実績の報告を義務づける。ただ26日に開始した分は、年1万トン以上を扱う大手小売業者を対象に絞るなど「大企業有利」の仕組みとなった。

◆最低申込数量10トン「諦めることにした」

 「早い者勝ち」となった結果、申し込みが殺到し27日に受け付けを休止。大手小売業者61社計22万トン(2022年産20万トン、2021年産2万トン)の申し込みが確定した。29日には備蓄米は一部業者に引き渡され始めており、アイリスオーヤマ(仙台市)のネット通販も5キロ2160円(税込み)が開始後すぐに完売した。イオン(千葉市)やイトーヨーカ堂(東京)などの一部店舗で順次販売が始まる予定だ。

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29日の販売開始後すぐに売り切れとなった楽天グループ通販サイトの備蓄米

 残ったのは、より古い2021年産の約8万トン。30日に中小事業者向けの随意契約の受け付けが始まったが、小規模の小売店からは不公平感やコメ全体の値下げ効果への疑問の声が聞かれる。

 東京都板橋区の山口米穀店店主の山口隆さん(69)は「最近はお客さんに『高いね』と言われてしまっている。来なくなった人もいる」と明かす。だが、今回の随意契約は最低申込数量が10トンだったため申し込みをしなかった。「小さな店では売り切れない。(規模の大きい)スーパーに任せて諦めることにした」。一方で「一つ銘柄が増えたとしてもなくなれば終わり。コメの値下げには全くつながらない」と嘆く。

 宇都宮大の小川真如(まさゆき)助教(農業経済学)も政策の効果について「備蓄米を含めたブレンド米は一時期極端に安くなるかもしれないが、消費者になじみのある特定の品種や産地が指定された銘柄米は高いままになるのでは」とみる。「現在の価格帯でも極端な買い控えがないなどの理由から、2025年産のコメも争奪戦が過熱しうる。その場合、価格はさらに高騰する可能性がある」と懸念した。

◆「どこまで透明化を図れるかがポイント」

 随意契約とはどのようなものか。一般的には発注者となる国や地方自治体が契約先を任意に決めることができる。公共契約に詳しい筑波大の楠茂樹教授は「手続きが簡便」と、一般競争入札に比べて迅速に進められるメリットを挙げる一方、契約までの過程が見えにくいとし「不透明さや恣意的運用の恐れがある」とデメリットを指摘する。

 江藤拓前農相が放出に踏み切った当初、備蓄米の売り渡しは一般競争入札で実施されてきた。だが、高値を提示した業者が契約するため、価格高騰への効果が疑問視された。政府主導で価格を下げるため、小泉氏が農相に就任すると同時に、随意契約へと方針の転換が進められた。

 「今回のように価格を下げる目的のためなら随意契約の方が確実」と楠氏は説明する。その上で、「どこまで透明化を図れるかがポイントで、政府の説明責任は重い。価格設定や業者選択の妥当性、適正価格での販売をコントロールできているのかなど、検証が必要だ」と説く。

 随意契約は公平性の観点でも問題視され、不正の温床になったこともある。

◆「政治判断による、ぎりぎり超法規的対応では」

 旧日本道路公団や旧防衛施設庁での談合事件が相次いだことを受けて財務省は2006年に各省庁に通達を出し、不正の温床になりやすい随意契約は一般競争入札へ移行することを求めた。元防衛次官が逮捕された汚職事件では、防衛省の装備品調達における随意契約の割合の高さと、不透明な「防衛ビジネス」の実態が明るみに出た。

 近年もずさんな契約実態が指摘されている。新型コロナ禍で、政府が進めた「アベノマスク」と呼ばれた布製マスク調達や接触確認アプリ「COCOA(ココア)」開発・保守の随意契約で、仕様書を作成せずに業者に口頭で指示していたことなどが判明。いずれも緊急時の政策として進められたが、2021年に会計検査院が問題を指摘し、検証などを求めた。

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新型コロナの「緊急対応」として政府が調達した「アベノマスク」。随意契約で進められたが多くが使われず、倉庫に保管されたままとなった

 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は「過去に事件になった(国が業者に発注する)調達のケースと違い、今回は(国有財産の)売却の随意契約。分けて考える必要がある」と指摘。その上で、今回、随意契約に切り替えた根拠が「非常に疑問」という。

 会計法では、売買などは競争が原則とし、随意契約ができる条件を▽契約の性質または目的が、競争を許さない▽緊急の必要により競争にできない▽競争することが不利になると認められる—場合と規定。郷原氏は「どの要件を満たしたといえるのか分かりにくい。政治判断による、ぎりぎり超法規的対応ではないか」と話す。

◆「大臣が契約前に企業のトップ面会するのは…」

 小泉氏は随意契約への転換の発表後、楽天グループの三木谷浩史会長兼社長や、アイリスオーヤマの大山晃弘社長と相次いで面会。郷原氏は「最終決定権を持つ大臣が(契約前に)面会するのは公平性を欠く」と批判。「業者の選定や価格も決定プロセスが不透明だ」と断じる。

 備蓄米放出を巡る小泉氏の手腕をどうみるか。中央大の山崎望教授(政治理論)は「強権的手段といえるが、危機的状況に対応している姿勢をアピールする狙いがあるのでは」と分析。企業側との接触はその一環で、企業にとっても「行動的」な小泉氏との協力態勢を公に示すことは「ポジティブイメージにつながるメリットがある」という。

 ただ、「小泉氏のようなパフォーマンスはポピュリズムと相性が良く、批判や疑問が封じられやすくなる恐れがある」と危ぶむ。「政策の効果が本当にあるのか、手続きや手法のプロセスが正当か、議論していく必要がある」

◆デスクメモ

 「小泉詣で」とでも言うべきか。随意契約での備蓄米の放出に向けて動くさなかに政府責任者と契約を望む企業のトップが握手を交わす姿に強烈な違和感を覚えた。備蓄米の価格は下がった。だが小泉氏の強調する「緊急事態」を理由に政治の公平性と透明性が軽んじられていないか。 (祐)

◆「スピード感ある」小泉進次郎評価の声も, ◆最低申込数量10トン「諦めることにした」, ◆「どこまで透明化を図れるかがポイント」, ◆「政治判断による、ぎりぎり超法規的対応では」, ◆「大臣が契約前に企業のトップ面会するのは…」

農林水産省(資料写真)

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