テスラのロボタクシー"6月開始"実現への懸念

テスラは自動運転車を作れるのか, テスラのロボタクシーはどのようなものか, ドライバーが運転する必要がない「無監視FSD」, テスラのロボタクシーに対する疑問, マスク氏は6月のサービス開始に強気

発売が2026年に延期されたテスラ「Cybercab」(写真:David Paul Morris/Bloomberg)

電気自動車メーカー、テスラのCEOを務めるイーロン・マスク氏は、今年6月からアメリカ・テキサス州オースティンで、自動運転による無人配車サービス「ロボタクシー」を開始すると述べている。

【写真で見る】今年マイナーチェンジしたテスラのModel Y

だがこのサービスの開始を前に、複数のメディアは、テスラが4月時点でいまだ同サービスの自動運転によるテスト走行を行っていないことを報じた。

また、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、テスラに対し、同社の自動運転技術に関する広範な懸念についての質問をリストにまとめた書簡を送付し、6月19日までに回答するよう求めている。

NHTSAは、ロボタクシー車両がどのレベルのシステムを導入しているか「ロボタクシーシステムが当局として許容できる安全な行動能力を達成しているかどうか」について情報提供を求める書簡を送付した。

現地の警察や消防組織を管轄するテキサス州公安局(DPS)も、このサービスにおいて何らかの緊急事態が発生した場合に何が起こるか、どのように対処するかといった計画すら、テスラから受け取っていないとしている。普通に考えれば、このような状況で、数週間後に無人の自動運転車による配車サービスが開始できるとは誰も思わないだろう。

テスラは自動運転車を作れるのか

マスク氏が述べたスケジュールは、ほとんど守られない。

マスク氏は、2019年以降はほぼ毎年、「ドライバーによる介入なしに、あるいはドライバーがハンドルを握ることなく、乗客を安全に輸送できる自動運転タクシーを1年以内に実現する」と、顧客に約束してきた。しかしテスラは、まだドライバーの手を借りずに安全に走行する機能を顧客に提供できていない。

まして、昨年の大統領選挙以来、マスク氏がテスラそっちのけでトランプ氏のサポートや米政府効率化省(DOGE)に肩入れしてきたことを考えれば、ロボタクシーの計画が予定どおりに進んでいる可能性は低い。

さらに、テスラを放置してマスク氏が行ってきたDOGEの活動は、市民からの反発を招いており、テスラディーラー前でのデモや、店舗またはテスラ車への嫌がらせや破壊行為まで生み出した。2025年1~3月期の決算発表では、テスラ車の売り上げは中国や欧州を含む主要市場で急落した。

テスラのロボタクシーはどのようなものか

テスラが6月に開始しようとしているロボタクシーサービスとはいったい、どのようなものだろうか。マスク氏は昨年10月に、カリフォルニア州のワーナー・ブラザーズのスタジオ敷地内で行ったイベントで、ハンドルもペダルもない2人乗りEVクーペ「サイバーキャブ(Cybercab)」を発表した。

マスク氏はこの発表において、サイバーキャブの購入者はクルマを使わない時間帯に、自動運転タクシーとして貸し出すことで、副収入が得られるようになると将来的な構想を語っていた。

そして、マスク氏は今年1月の業績報告の場で「6月にオースティンで、無人の完全自動運転車両による有料配車サービスを開始する予定」だと発表した。この計画は、既存のテスラ車両(主にModel 3とModel Y)でフリートを構成し、オースティンの一部に構築された、ジオフェンスで区切られたエリア内でサービスを展開することが示唆された。

ジオフェンスとは、GPSやその他位置情報をもとに、あらかじめ設定されるエリアのことで、何らかのサービスを仮想のフェンスで囲まれた区域内で提供する際に用いられる言葉だ。

自動運転サービスの検証のためのジオフェンスの場合、車両は位置情報のほかに、あらかじめ走行区域内の道路環境を高精度に3Dマッピングしたデータをコンピューターに登録し、ほかにも可能なら車間通信や路車間通信システムを駆使して、高精度に路側の歩行者までを認識する。

すでにアメリカの複数の都市でロボットタクシーサービスを提供しているGoogleの自動運転車開発部門Waymoも、ジオフェンスで区切られたエリア内でサービスを提供している。

テスラは自動運転車を作れるのか, テスラのロボタクシーはどのようなものか, ドライバーが運転する必要がない「無監視FSD」, テスラのロボタクシーに対する疑問, マスク氏は6月のサービス開始に強気

サンフランシスコの街を走るWaymoの自動運転車(写真:David Paul Morris/Bloomberg)

ただ、ジオフェンスを使うことは、マスク氏にとっては大きな方針の転換でもある。マスク氏は長年、あらゆる場所に設置することができ、人間の監視なしで使える汎用自動運転ソリューションを開発できると主張してきた。これはエリアが制限されるジオフェンスとは異なるものになると考えられた。

だが1月の話に続いて、4月に行われたテスラの第1四半期決算発表でも、マスク氏はジオフェンス導入の構想を示唆した。ただ、やはりマスク氏はジオフェンスという言葉は使わず、初期のロボタクシー事業では「地域固有のパラメータセットが使用される可能性が高まっている」とだけ述べていた。

ドライバーが運転する必要がない「無監視FSD」

マスク氏は、昨年10月のロボタクシーを発表したイベントの場で「テキサス州とカリフォルニア州でModel 3とModel Yを使って無監視FSDの試験を開始する」と述べた。

現在のテスラ車に搭載されているFSDオプションは、より正確には「監視付きFSD」と呼ばれるものだ。FSDは「Full Self Driving」、直訳すると「完全自動運転」の意味だが、ここで言う監視とは、ドライバーが常に覚醒状態にあり、車両周囲の状態を自ら目視確認し、なおかつハンドルを握っている状態のことを指す。

この状態は、米自動車技術会(SAE)の定める自動運転レベルの定義で表すなら、レベル2に該当する。この定義では、レベル3以上が一般的に自動運転と呼ばれる。つまりテスラのFSDオプションは、正確には自動運転ではなく、運転支援のレベルでしかない(Waymoがアメリカで展開している自動運転タクシーは、レベル4だ)。

一方「無監視FSD(Unsupervised FSD)」という言葉は監視付きFSDと区別するために持ち出された言葉で、ドライバーがハンドルを握る必要も、走行時に周囲の安全を確認する作業もない、誰もが想像する完全自動運転機能を有することを意味する。

オースティンでロボタクシーサービスを開始するにあたり、この無監視FSDを実現可能にするのが、ジオフェンス方式だと考えられる。マスク氏は以前、当初のロボタクシー事業では「地域固有のパラメータセットが使用される可能性がある」と述べ、ジオフェンスについては明言しなかった。

テスラのロボタクシーに対する疑問

すでにWaymoがやっているのと同様のことをするのなら、それほどハードルは高くないかもしれない。だが、それでもテスラがすぐにロボタクシーサービスを開始できると考えるのは難しい理由がいくつかある。

Waymoは、ジオフェンスで区切られたサービス提供エリアの道路環境を3Dデータとしてマッピングしたうえで、自社の完全自動運転車両が安全に走行できると確信する現在の形に仕上げるまでに、オペレーターを乗せた車両数百台を、延べ何千万kmにもわたって走らせ、これに約10年の年月をかけた。

一方のテスラは、6月からロボタクシーサービスを開始すると述べている。しかし、テスラは4月の段階でまだオペレーターが搭乗しない無人状態での公道テスト走行を行っておらず、スケジュール的に6月にサービスを開始できる可能性は低いことがメディアなどから指摘されている。

ほかにも問題はある。テキサス州公安局(DPS)は、ロボタクシーサービスにおいて何らかの緊急事態が発生した場合に、何が起こり、どのように対応するかをまとめた緊急対応ガイドライン文書をまだ受け取っていないと述べている。

また、ロボタクシーという名称についても、問題が発生している。米国特許商標庁(USPTO)は、テスラからの「ロボタクシー(Robotaxi)」の商標登録申請を却下し「サイバーキャブ(Cybercab)」の同申請を一旦停止した。

その理由は、サイバーキャブに対しては他社がすでに同様の「サイバー」と名前に付く商標を出願しているため、いったん停止の措置が取られていることが理由とされた。ちなみに、サイバーキャブは発売が今年8月の予定だったが、最新の情報では2026年まで遅れる見込みとされているため、とりあえず申請が一時停止されても慌てることはなさそうだ。

ロボタクシーに関しては、抵触する商標は存在しないものの、この名称が「単に記述的」、つまり商品の生来的な識別性や顕著性を持たず、「Robotaxi」という言葉がすでに「他社の類似の商品やサービスを説明するためにも使用」されているため「商品やサービスの文脈において一般的な文言であるように思われる」として、却下したという。

USPTOは、この判断について、テスラに「最初の拒絶通知(non-Final Office Action)」と呼ばれる書面を発行し、3カ月以内に回答しなければ出願放棄と見なすことを伝えている。

マスク氏は6月のサービス開始に強気

5月20日、テスラのロボタクシーサービスに対して、さまざまな疑問や不明点が残されているにもかかわらず、イーロン・マスク氏はCNBCのインタビューに答え、改めてこのサービスを6月に開始することを明言した。

マスク氏は、このサービスはまず、同社の小型SUVであるModel Yの無監視FSDバージョンを投入し、公道上を無人で運行する予定であることを確認した。

テスラは自動運転車を作れるのか, テスラのロボタクシーはどのようなものか, ドライバーが運転する必要がない「無監視FSD」, テスラのロボタクシーに対する疑問, マスク氏は6月のサービス開始に強気

今年マイナーチェンジしたModel Y(画像:テスラ)

さらに、オースティンの走行エリアは「ジオフェンス」されたものになるが、当初は安全性優先して約10台からのサービス開始とし、意図的にゆっくりと段階的に車両を展開していく方針であるため、当初は乗客に対して車両が不足するだろうとも述べた。

ロボタクシーの車両にはオペレーターは搭乗しないものの、テスラ従業員が車両を遠隔監視するとも、マスク氏は述べている。「われわれは、車の挙動を非常に注意深く監視するつもりだが、信頼性が高まれば、そうした監視の必要性は減っていくだろう」とマスク氏は語った。

また、現在マスク氏は、6月中にロボタクシーサービスを開始することに集中しているとし、今後5年間はテスラを率いることに全力を尽くすと述べた。

ちなみに、Waymoなどの自動運転車メーカーでは、オペレーションセンターを設置し、自動運転タクシーを常に監視し、必要に応じて遠隔操作を行う人員を配置している。

Waymoはこのオペレーションセンターから直接車両の操作や制御は行わず、その代わりに、センター側の従業員が自動運転システムと通信して適切な状況を伝え、問題の解決を支援する作業に当たるようにしているとのことだ。

テスラは、オースティンとサンフランシスコの工場敷地内で従業員向けのロボタクシーの試験走行を行った際には、安全要員としてオペレーターが搭乗していた。そのため、テスラの従業員のなかにも、この乗り物が本当にドライバーレスになるのかを疑問に思った人もいたという。

だが、最新の情報では、テスラは5月26日月曜日に、オースティン市の担当者数名とともにロボタクシーの実走行試験を実施、閉鎖された住宅街の路上で、ロボタクシーを緊急車両と並走させてみせたという。また、テスラがまだ提出していないという緊急対応ガイドラインについても、かならずサービス開始までに提出すると述べたとのことだ。

5月28日にはテスラが6月12日にロボタクシーのサービスを開始すると報、複数のメディアが報じた。

一方、イーロン・マスクCEOは、5月29日のXへの投稿で「ここ数日、テスラはオースティンの公道でモデルYの自動運転車(運転席には誰も座っていない)をテストしているが、事故は起きていない。予定より1ヵ月早い」と述べた。これは5月26日に行った実走行試験のことを指していると思われる。

マスク氏は6月12日という日付について言及してないが、「数日間」のテスト走行だけで乗客輸送サービスを始めるに樽だけの安全を確保できるのかについては、さまざまな意見が出そうだ。

比較のために紹介しておくと、Waymoは今年はじめにオースティンで無人配車サービスを開始したが、乗客を乗せて走り始める前に安全監視オペレーターが搭乗して6ヵ月、無人でさらに6ヵ月のテスト走行期間を設け、不具合の洗い出しとソフトウェアの調整を行っていた。

はたして、6月の終わりごろに無人のテスラModel Yをベースとするロボタクシーがオースティンの街を走っているのだろうか。それともマスク氏が自ら設定した期限をやっぱり延期してしまうのか。