日本郵船【9101】株価5年で10倍(テンバガー)のナゼ、決算でも上昇 株主還元を積極化、総還元性向100%に

日本郵船【9101】株価5年で10倍(テンバガー)のナゼ、決算でも上昇 株主還元を積極化、総還元性向100%に
高値16年ぶり更新 配当利回り4.4%
日本郵船の株価は5年で一変しました。20年3月はコロナショックで上場来安値となる363.7円まで売られますが、その後は強く上昇し、23年9月には当時の上場来高値(4253.3円、07年7月)を16年ぶりに更新しました。24年10月には、現在の上場来高値である5543円まで買われます。
25年4月のトランプ関税ショックでは4133円まで下落しました。とはいえ、下落幅はほぼ取り戻している状況です。同年5月に25年3月期の決算を公表すると、株価は前日比4.6%高と大きめに上昇し、現在は5200円台での売買です。5年騰落率はプラス926.1%(10.3倍)と、日経平均株価(同プラス72.1%)を圧倒しています。
【日本郵船の株価チャート(過去5年間)】
・株価:5271円(2025年5月30日終値)

出所:Tradingview
配当金も高水準です。今期(26年3月期)は1株あたり235円を予定しており、前期比100円の減配ながら、配当利回りは4.46%に達します。
【日本郵船の予想配当利回り(2026年3月期)】
・予想配当金:235円
・予想配当利回り:4.46%
出所:日本郵船ホームページ
配当金の受け取りはNISAで非課税にできます。本来は約2割の税金が生じるところ、NISAなら課税されません。
NISAは成長投資枠を使うと、年240万円まで個別株式に投資できます。日本郵船の場合、足元の株価水準で400株まで投資可能です。1株あたり配当金が235円なら、9万4000円の配当金を非課税で受け取れる計算です。
日本郵船の株価はなぜ急騰したのでしょうか。業績から探ってみましょう。
三菱の大海運会社、自動車船で世界トップ 利益はONEの影響大きい
まずは概要から解説します。
日本郵船は三菱グループの海運会社です。1870年に土佐藩の海運事業を承継した三菱商会(当時は九十九商会)が設立し、1885年に渋沢栄一らの共同運輸と合併して誕生しました。国内海運のトップランナーであり、特に自動車船のシェアは世界トップクラスです。
【海運大手3社の売上高(2025年3月期)】
・日本郵船:2兆5887億円
・商船三井:1兆7755億円
・川崎汽船:1兆479億円
出所:各社の決算短信
日本郵船の利益に大きな影響を与えるのが、持分法適用会社のONE社です。国内海運3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)で設立したコンテナ船の会社で、船腹量で世界ランキング6位の大企業です。
持分法の投資損益は営業外収益に計上されるため、ONE 社の業績は経常利益以降に反映されます。日本郵船の利益を確認するときは、経常利益以降をチェックしましょう。各セグメントの利益も経常利益で整理されています。
自動車と定期船(コンテナ船)以外では、エネルギーの利益が大きめです。エネルギーは、原油やLNG(液化天然ガス)といったエネルギー資源の輸送のほか、専用船を用いた開発事業も担います。
その他はクルーズ事業も手掛けます。クルーズ事業は、25年7月に34年ぶりの新造客船となる「飛鳥Ⅲ(スリー)」の就航を予定します。また、オリエンタルランドが28年度の展開を目指す「ディズニークルーズ」での協業も明かしています。なお、航空運送事業は子会社(日本貨物航空)をANAホールディングスへ譲渡する予定となっており、今後の収益の貢献は縮小する見込みです。
【セグメント情報(2025年3月期)】

出所:日本郵船 決算短信
需給ひっ迫で23年3期に利益1兆円 今期は3社そろって減益、関税に懸念
次に業績を確認しましょう。日本郵船の株価の急騰は、利益の急拡大が背景にあります。
日本郵船の利益は22年3月期に急増しました。コロナやロシア・ウクライナ紛争といった情勢不安から海運の需要がひっ迫し、市況が高騰したため利益が大きく拡大しました。経常利益は23年3月期に1兆1000億円に達します。
利益はピークから落ち着いていますが、従来の水準は大きく上回ります。背景には23年10月に発生したイスラエルとハマスの衝突があります。紅海(スエズ運河)周辺の船舶への攻撃が相次いだことから、アフリカ大陸の南側を通る喜望峰ルートが定着してきました。航行距離が伸びたことで需給が引き締まり、日本郵船の利益を支えています。

出所:日本郵船 IRデータブックより著者作成
今期(26年3月期)の見通しは減収減益の予想です。減収は子会社(日本貨物航空)の譲渡を予定する航空運送を今期の予想には含めていないことが主因です。また、減益はコンテナ船が中心で、新造船の竣工に伴う需給の軟化を見込みます。
【日本郵船の業績予想(2026年3月期)】
・売上高:2兆3800億円(-8.1%)
・経常利益:2550億円(-48.1%)
・純利益:2500億円(-47.7%)
※()は前期比
※2025年3月期時点における同社の予想
出所:日本郵船 決算短信
なお、予想の減益率は海運3社で最小です。ただし、商船三井と川崎汽船は業績予想に米国の関税影響を加味していますが、日本郵船は含めていません。日本郵船は、関税影響は経常利益ベースで最大1000億円の下押しと試算します。
【海運大手3社の予想経常利益(2026年3月期、前期比)】
・日本郵船:2550億円(前期比-48.1%)
・商船三井:1500億円(同-64.3%)
・川崎汽船:1050億円(同-65.9%)
※日本郵船は関税影響含まず、他2社は関税影響を含む
出所:各社の決算短信
株主還元を強化、配当性向および下限配当を引き上げ 30年度に経常益4400億円
今期(26年3月期)は経常利益で約5割の減益ガイダンスですが、冒頭のとおり決算発表後に株価は上昇しています。日本郵船が買われた理由の1つに、株主還元の積極化があるとみられます。
25年3月期の決算では株主還元で方針に大きめの変更がありました。従来は27年3月期までは配当性向30%かつ下限配当として1株あたり100円を設けていたところ、それぞれ40%と200円に引き上げました。
さらに最大1500億円(自己株式除く発行済み株式数の最大11.1%)の自社株買いも公表しました。配当金と自社株買いを合わせた今期の総還元性向は100%に達する見込みです。
株主還元の積極化の背景にはキャッシュフローの拡大があります。営業キャッシュフローは当初、27年3月期までの4カ年で8200億円以上としていました。しかし、ONE社からの配当金などで上振れを見込み、同1兆5800億円以上へ修正しています。
これを反映し、キャッシュアウト計画も引き上げました。配当金や自社株買いの目標を増額したほか、裁量的な投資枠として2000億円のマネジメントアロケーションを新設しました。決算説明会では、マネジメントアロケーションを使い切らない可能性について言及しつつ、成長投資や株主還元への追加投資を示唆します。
【キャッシュアウト計画(2024年3月期~2027年3月期)】
・自己株式取得:4800億円(当初計画:2000億円)
・通常配当:4100億円(同2300億円)
・既存事業への再投資、新規投資、およびM&A:1.3兆円以上(同1.2兆円)
・マネジメントアロケーション:2000億円(同数値目標なし)
※マネジメントアロケーション…裁量的な投資枠
出所:日本郵船 決算説明会資料
日本郵船は31年3月期に経常利益4400億円を掲げます。この実現に向け、27年3月期までの4カ年で1兆4000億円の事業投資を計画します。事業投資は、LNG船やドライバルク船といった中核事業が中心です。株主還元で資本効率を向上させつつ、事業投資で利益の底上げを目指します。
【主な財務目標】

出所:日本郵船 決算説明会資料
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。