【解説】“スピード重視”備蓄米放出の弊害とズレ 専門家懸念「価格高騰の要因=流通はミスリード」政府が“見える化”すべき根本解決の対策とは―

 2025年6月11日、新たに20万トンを放出する備蓄米のうち“古古古米(2021年産)”について随意契約の申請が始まりました。“スピード重視”に一定の評価がある中、様々な弊害も…。コメの価格に地域差が?流通がスケープゴートに?読売テレビ・指宿文解説委員の解説です。

■スピード感アップも…地域によって様々な“ズレ”

随意契約でスピード感は急速アップ ©ytv

 競争入札では、3月入札開始分30万トン(2024年産・2023年産)の約13%が、約2か月後に小売りへ。このスピード感が問題視され、小泉進次郎農水相に変わってから随意契約となりました。

 随意契約だと、5月26日受け付け開始分30万トン(2022年産・2021年産)が3日後にはネット販売に、5日後には店頭販売に回り、さらに20万トンが放出されます。“スピード感重視”がよくわかる政策です。

地域でズレ 解消は? ©ytv

 一方、その弊害として、地域でズレが出てきています。京都・舞鶴市にある『まつもと米穀』松本泰社長に話を聞くと、「舞鶴のほうでは安いコメは届いていない。全国津々浦々に届いているかというと、そうではない。偏りが生じている」ということでした。『まつもと米穀』は米屋なのにコメがなく、現在一時休業している状況です。

 そんな中、石川県は『共同購入』を実施しました。随時契約には「年間1000トン以上を取り扱う」など条件があるので、県が条件を満たさない小売業者などを取りまとめ、共同で備蓄米を申し込むというものです。共同購入協議会を発足し、中小小売業者17社で合わせて24トンを申し込み、今後石川県にも届いていく予定です。全国津々浦々に届けるには、自治体などがこのような取り組みをしなければいけないのかもしれません。

ブレンド米の平均価格 ©ytv

 また、ブレンド米の平均価格(備蓄米含む・5キロの中央値)は、全国3480円に対し、福岡県は2757円で最安値、滋賀県は4280円で最高値となっています。関西圏が意外と高く、和歌山県でも4189円です。

近畿なぜ高い? ©ytv

 地域差について農林水産省は公式見解を出していませんが、近畿農政局は「備蓄米は東日本からやってくるため、輸送料がかかる。値段を決めるのは小売店なので、『高くても売れる』という表れでは」と推測しています。

専門家の見解は― ©ytv

 流通経済研究所・折笠俊輔主席研究員は、地域の値段の格差について、「備蓄米をどの程度ブレンドするかで価格も変動する。調査店のサンプル数も少ないので、あくまで地域ごとの参考価格」と話しています。今回、調査といっても滋賀県で5店舗・和歌山県で5店舗しか聞いていないことを考えると、あまりこの値段に振り回されてはいけないと思います。とはいえ、備蓄米を出す時に値段がどうなるか、政府が“スピード感”を求めたが故にデータの追跡調査があまりできていないことが、弊害の一つです。

■「営業利益前年比500%」は本当か?流通現場との“ズレ”

流通現場とのズレ ©ytv

 小泉農水相は、「ある大手卸売業者の営業利益は前年比約500%に。他の会社でも250%超に」と、流通過程に問題があるのではないかという踏み込んだ発言をしました。

 これについて、東京の卸売業者に話を聞くと、「売り上げ自体は単価が上がって大きくなったが、コストも上がって利益は下がっている」と話し、別の大手卸売業者は「今まで薄利多売の商売。コメ不足で料金交渉がすぐに終わるようになり、一時的な収益増になった」と話していました。

そこまで利益を得ていないと主張 ©ytv

 ある大手卸売業者の営業利益を見ると、前年同期比(1~3月期)447%となっていて、小泉農水相の言う500%に近いと思います。2024年に約1.4%だった営業利益率も、2025年には約5%と、確かにすごく伸びています。

 しかし、2022年度の全業種の営業利益率が4.0%だったことを考えると、2024年の1.4%が非常に低い数字だったと言えると思います。数字をどう読み解くかは非常に難しいですが、大手卸売業者としては、今回そこまで法外な利益を得ているわけではないとしています。

■“流通問題”はスケープゴート?根本的な対策は―

流通が“スケープゴート”に? ©ytv

 小泉農水相は、流通に関して「問題があるのでは」と言っています。しかし、それは「スケープゴート(身代わり)なのでは」という指摘が出ています。

コメの流通 現場の本音は? ©ytv

 『まつもと米穀』松本社長は、「これまで、この流通のシステムでやってきた。米価が急に高騰したから“流通システム全てが悪かった”という話にすり替えるのは非常に危険」と話しています。また、流通経済研究所・折笠主席研究員は、「価格高騰の要因=流通はミスリード。実際には、コメ不足→価格高騰→他業種が参入→複雑化しブラックボックスに、という流れがあった」との見解を示しています。小泉農水相は「複雑化しブラックボックス」の部分だけを指摘したので、それが価格高騰の原因になったと受け取る人もいたのではないかと懸念しています。

コメ不足解消への発信に欠ける ©ytv

 今回、コメの値段について政府がどのような方針を打ち出すかに国民は振り回されましたが、根本的な原因は『コメ不足』です。小泉農水相も今までの農政が間違っていたことは認めていますが、今はスピード感を重視しているので、根本的な解決への発信が見えてきません。この辺りも、問題点の一つかと思います。

読売テレビ・指宿文解説委員 ©ytv

 現場が求めるコメ政策には、『データの把握』『増産の仕方』『補償』があります。生産量は確保しても、コメの質は別です。また、もともと高齢化などで農家が減少している中で、大規模化や生産調整とは言うものの、現実的にどうするのか。さらに、天候に左右されるコメ生産の所得補償や、新規参入時の膨大な初期費用はどうしていくのか。そういったところまで含めて、どのように“見える化”していくかが今後、非常に大切になってくると思います。

(「かんさい情報ネットten.」2025年6月11日放送)