高島平団地、解体される33街区の住民に思いを聞いた 「何を言っても無駄」「できればタワマンに行きたい、でも…」
〈タワマンができる 高島平団地で50人に聞いた〉①(全8回)
東京都板橋区にある高島平団地。都市再生機構(UR)はこの団地の一部建て替えで、賃貸専用のタワーマンション(高さ約110メートル)の建設を計画している。
この計画では、都営地下鉄三田線高島平駅前の33街区(7棟1955戸)が解体される予定だ。住民はどのように感じ、何を考えているのか。(増井のぞみ)

高島平駅(手前左)の向かいにある高島平団地2丁目33街区。右下に旧高島第七小学校がある=東京都板橋区で(本社ヘリ「あさづる」から、石橋克郎撮影)
◆埼玉・熊谷出身の男性(82)「動かされる方が大変」
5月8日朝、33街区の真ん中に位置する「お山の広場」でベンチに座る男性がいた。
「人が住んでいる所で、相手を動かそうというのは間違い。そんな簡単な問題じゃない。動かされる方が大変」

平日夕方に子どもでにぎわう「お山の広場」=東京都板橋区で
男性は埼玉県熊谷市出身の82歳だという。
板橋区は2025年度の当初予算にタワマン建設予定地の旧高島第七小学校(旧高七小)の解体設計費を計上。URは早期にタワマンを建設し、希望する33街区の住民に住み替えてもらい、33街区の解体着手を2031~35年度と想定している。
男性は続けた。「暮らしている人は、そう簡単にはいかない。子どもやおじいちゃん、おばあちゃんがいる。出て行くつもりはない」「買い物する店、駅、公園が近い。ここよりいい所ないだろう。そう簡単にはいかない」
駅前の33街区は、スーパーと商店街が二つずつあり、団地を含め人口約5万人が暮らす高島平地域の中心的な場所。男性がいたお山の広場は「高島平駅に広場がないため確保した駅前広場」(URの「高島平の設計記録」)。すぐそばには都立赤塚公園がある。

◆定期借家の女性会社員(37)「千葉に引っ越す」
5月12日夕方、お山の広場で、7か月の赤ちゃんを抱っこひもで抱える女性(37)がいた。お山で友達と遊ぶ年中の長女を見守りながら。
女性は率直に語った。「タワマンを建てても絶対に足りない」
タワマンは板橋区が高さ制限を45メートルから110メートルに緩和することを受け、URが建設する。戸数は未定だが、建設予定地が狭いことなどから、高島平2丁目団地自治会は400~450戸程度と推定している。
URは建て替えに向け、21年以降、建て替えと団地内移転の準備として、33街区と他の一部街区で3年または5年の定期借家を取り入れている。

タワマン建設の代わりに解体される33街区=東京都板橋区で
女性は、社宅の期限が切れるため、33街区の2DKに5年の定期借家で入って3年目だという。
女性は続けた。「公園で子ども同士が一緒に遊ぶママに建て替えの話をしても『何の話?』と言われる。知らない人がいる」
「エレベーターを降りたら八百屋さんがある。住みやすい。だからお年寄りも住んでいるんだと思う」
しかし、一大決心を打ち明けた。「来年の春に千葉に引っ越すことにした」
女性はまずは、高島平地域で3LDKを探した。団地より安い賃貸はなかった。家賃が月20万円以上で掛け捨てになるより分譲を求めた。
「近隣は築10年で6千万円からスタート。共働き子ども2人でもきつい」
職場は大手町で高島平駅から約30分。これに余計に20分ほどかかることになる千葉市内ならば、新築マンションが6千万円を切るくらいであり購入を決めた。でも頭金1千万円は決して楽ではないという。
高島平の未来に何を思うのか。女性は語る。「再開発することに反対ではない」
気がかりなことを次のように語った。「建て替えで行く場所がない人たちをどこまでカバーしてくれるのか。完全に違う街に行く人も出るだろう。できるだけのことをしてあげてほしい」
◆元警視庁職員の80歳すぎの女性「動きたくないけど…」
5月13日朝、お山の広場で、手押し車を置いてベンチに腰かける女性がいた。
63歳まで働いて官舎に住み、退職後に団地に来てひとり暮らし。女性は力を込めた。「20年いるんだから。ここしかない」
「足が悪いので手押し車を使っている。駅が近い。買い物も便利。棺おけにここまで入っている」。そう言って、胸に手のひらを向けた。

33街区に住み、手押し車を使う元警視庁職員の80過ぎの女性=東京都板橋区で
タワマンが建ったらどうするのか。「高島平の空いた所(空室)に行く。高齢だから民間アパートには入れてもらえない」
板橋区の都市計画決定の後、URはこの夏に33街区の住民を対象に計画概要説明会を開き、建て替えを正式に表明する。
その際、(1)タワマンなど新しく建設する賃貸住宅(2)高島平団地内(3)高島平以外の団地(4)UR賃貸以外―の4つの選択肢を住民アンケートで示すが、タワマンの家賃は発表しないという。
女性はつぶやいた。「住民説明会には行かない。何を言っても無駄。動きたくないけどしょうがない」
板橋区は3月15日、旧高七小に感謝と惜別を伝えるとしてイベント「棟下式(むねおろしき)」第1弾を開いた。来年3月まで計5回開いた後、来年度から旧高七小の解体工事に入る。
そして、女性は願った。 「高七小を1日でも遅く解体してほしい」

3月15日、旧高島第七小学校の玄関前に置かれた棟下式(むねおろしき)の看板=東京都板橋区で
◆団地に住んで3年目の40代中国人女性「いろんな国の人がいる」
5月13日夕方、お山の広場で、保育園児と小学生の男の子2人を世話する40代の中国人女性がいた。
女性は、ポストに入っていたチラシで建て替えを知った。「年寄りが反対している。タワマンは家賃が高いだけじゃなくてちょっと不便」
定期借家かどうかは「夫が契約しているのでわからない」という。
お山の広場でアジア系の人に声をかけると、「中国人(ジョングォレン)」と断られることが多い。なんで中国人が多いのか。
女性は解説する。「民間の(賃貸住宅の)オーナーは、入居を希望する人が外国人だと入居条件が厳しい。外国人だったらだめという所もある。この団地は公団なので東南アジアなどいろんな国の人がいる」
確かに、お山の広場では、言葉があまり通じなかったベトナムの若者や、33街区に住むおいっ子に会いに来たインドネシアの女性にも出会った。
◆派遣社員の男性(29)「タワマンに憧れ」
5月14日朝、お山の広場でベンチに座り、缶チューハイを飲む若者を見かけた。
子どもの頃から暮らしてきた男性(29)は言った。「できればタワーマンションに行きたい。憧れだから」
そして続けた。「でも家賃月15万円以上は払えない」
高島平団地の今の家賃は月約6万~12万円。URによると、タワマンの家賃は未定で、移転期限のおおむね2年前の条件提示説明会で示す。
33街区の解体着手は2031~35年度の想定のため、家賃が分かるのは早くても4年後の2029年度ごろと見込まれる。地元の不動産会社の代表は取材に「新築のタワマンなら月20万円以上もありうる」と話す。
男性の仕事はスキマバイト。三田線で水道橋まで出て、居酒屋やピザ店の店員、タピオカジュースの販売などをする。
この日は休みなので一杯飲んでいたという。

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