「もう中国とはサヨナラしたい」が企業の本音か…拘束リスクが高いのに儲からない「中国ビジネスの悪夢」

反スパイ法のリスク

かつてのような中国ビジネスの旨みは失われ、多くの海外企業が中国と距離を置き始めている。背景にあるのは、不動産バブル崩壊によるデフレ圧力の高まり、労働賃金の上昇、過当競争による収益性の悪化だ。

自動車業界では、フォルクスワーゲンが南京工場を閉鎖し、三菱自動車が中国事業から完全撤退を発表。その他の業界でも三井化学や日本製鉄が合弁事業を解消した。小売業界でも、撤退や閉店が相次いでいる。家具のニトリが象徴的だ。

前編記事〈中国のニトリがひっそりと大量閉店していた…似鳥昭雄会長の想像を超えていた「中国市場の悲惨な現状」〉では、こうした現状の詳細を解説している。

こうした企業撤退の背景には、経済的要因に加えて、より深刻な政治的リスクも存在している。

反スパイ法のリスク, スタンフォードに中国スパイが?, 対中投資は99%減, 早期退職の実施が増える可能性も

習近平国家主席/photo by Gettyimages

合弁事業の停止要因として、反スパイ法の影響は大きい。この法律を理由に、中国が多国籍企業の従業員を拘束するケースは相次ぐ。

わが国では、2018年に愛知県出身の男性が拘束され、懲役12年の判決が下された。2019年には伊藤忠商事の社員が拘束され、懲役3年の実刑判決を受けている。最近では、わが国のアステラス製薬の60代社員が実刑判決を言い渡され、上訴しない意向と報じられた。

スタンフォードに中国スパイが?

中国駐在や出張を禁止する先進国企業も増えている。

一回拘束されてしまうと、解放の実現は容易ではない。2018年12月、カナダの元外交官マイケル・コブリグ氏が、中国当局に拘束された。

これは、対イラン制裁違反の疑いがあったファーウェイの孟晩舟(当時副会長)が、カナダで逮捕されたことへの対抗措置だったようだ。コブリグ氏はその後、米加中政府間の交渉により孟氏の釈放と引き換えに解放された。

ただ、反スパイ法で拘束され、懲役刑を科された場合、交渉を重ねたとしても中国政府がどう反応するかは読めない。

中国は一旦参入すると、簡単に出られない市場になっているようだ。特に、反スパイ法に関しては、何が法令違反になるか、客観的な論拠がわからない。中国当局の判断次第でスパイに認定される可能性は極めて高い。

米国は、自国の製造技術や知的財産が中国に流出しないよう監視体制を厳格化している。

2019年、米司法省はGE元技術者らを産業スパイの容疑で起訴した。今年5月には、スタンフォード大学の学生新聞(スタンフォードレビュー)が、中国の学術スパイに関する記事を掲載。同紙はインタビューの結果、大学内に中国政府のスパイがいるとの懸念が高まっていると指摘している。

対中投資は99%減

中国と距離をとる企業は急増している。

2024年、海外企業による対中直接投資は、ピークの2021年比で99%減だった。米中対立への対応として、中国と別の国に製造拠点を置く “チャイナ・プラス・ワン”を実施する企業は増えている。

米アップルやグーグルは、スマホの生産を中国に加えインドでも開始した。また、新疆ウイグル自治区での人権問題もある。独BASFは昨年、新疆での合弁事業から撤退した。中国の景気減速、反スパイ法、政治体制の不安定化リスクの上昇により、“脱中国”を目指す企業はこれからも増えるだろう。

反スパイ法のリスク, スタンフォードに中国スパイが?, 対中投資は99%減, 早期退職の実施が増える可能性も

photo by Gettyimages

さらに米国では、中国事業自体から撤退する企業が増え始めている。

昨年の大統領選前後の数週間だけで、大手法律事務所が中国の事務所の閉鎖を相次いで発表した。具体的には、ミルバンク、ポール・ワイス・リフキンド・ワートン・アンド・ギャリソン、ウィルマー・カトラー・ピッカリング・ヘール・アンド・ドーなどだ。

中国での法務サービスへのアクセスが低下すれば、米国をはじめ主要先進国企業が中国で安心、安全に事業を行うことは難しくなる。

一方、中国企業の海外進出も加速している。

早期退職の実施が増える可能性も

BYDは、わが国での販売店の整備を急いでいる。中国以外の市場で事業基盤を整備し、中国政府の締め付けから逃れるという目的もあるだろう。iPhoneの受託製造を手掛けるラックスシェアは、ベトナムやマレーシアで製造拠点を構え、家電のハイアールはメキシコに工場を持つ。

企業の脱中国の加速は、わが国企業の事業運営に無視できない影響を与える。

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photo by iStock

今後はリスク管理を徹底し、中国でのシェア維持を目指すことになるだろう。一方、米国やアジア新興国市場への展開を加速し、中長期的な収益増加に取り組む必要がある。そのために、パナソニックのように早期退職を募る企業は増えるかもしれない。

その意味で、企業の脱中国はわたしたちの生活にも無視できない影響を与える可能性がある。

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