「昔はバイトで買えたのに」 新型プレリュード617万円、高額設定にネット反発で若者は遠のくのか?
高嶺化の背景
ホンダが24年ぶりに復活させた「プレリュード」の価格が最低617万円となり、話題になっている。かつて「デートカー」と呼ばれた同車は、今や若者が手を届かない存在となった。
【画像】「えぇぇぇぇ!」 これがホンダ・トヨタの「年収差」です!(14枚)
ネット上では
「かつてはアルバイトで買えたのに」
「ターゲットが誰か分からない」
といったネガティブな声が相次ぐ。
復活モデルは、ホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載する。2リッター直列4気筒エンジンは最高出力104kW(141馬力)、最大トルク182Nmを発生し、これに合計最高出力135kW(184馬力)、最大トルク315Nmのデュアルモーターを組み合わせる。燃費性能はWLTCモードで23.6km/Lを達成し、環境性能と走行性能の双方に注力したモデルとなっている。
高価格の背景には、こうした先進技術の投入に加え、世界的な物価高騰、日本の賃金停滞による購買層の変化、さらにメーカー側の世界市場優先戦略など、複数の要因が絡む。ただの復刻モデルではなく、プレリュードは技術力の象徴として位置付けられているといえる。
20代憧れデートカーの変遷

シート(ブルー×ホワイト)(画像:本田技研工業)
1980年代から1990年代、プレリュードやソアラ、シルビアといった「デートカー」は20代にとって憧れの存在であった。
デートカーとは、若者の初期の自動車体験と恋愛文化が結びついた車種を指す。スタイルや走行性能に優れ、ふたりの時間を演出することを重視していた。バブル経済期の恩恵を受けた現還暦世代は、大学生時代にアルバイトで相応の金額を稼ぐことができた。自家用車を持ち、デートに利用すること自体が一種のステータスとなっていたのである。
一方、Z世代(1990年代後半から2010年前後に生まれた世代)は生まれた時からインターネットが存在し、リアルワールドだけでなくバーチャルワールドでの楽しみも抱く。加えてコロナ禍で親の仕送りが減少し、アルバイトで貯めたお金も学費の補填や奨学金返済に充てられる傾向が強まった。
平成に入った1990(平成2)年前後のプレリュードの価格は200万~250万円台であり、大学生や新社会人にとって
「背伸びすれば届く」
水準であった。当時の平均年収は450万~470万円程度で、現在の600万円超と比べると大きく水準が変化している。時代と世代の経済環境の違いが、プレリュードの購買可能層にも大きく影響している。
アクティブシニア狙う復刻戦略

プレリュードの通販サイト(画像:本田技研工業)
最新のプレリュードが600万円を超える高価格になる理由は、技術面と市場面、そして国内経済の三つの要因が絡む。
技術面では、ハイブリッドシステム「e:HEV」の搭載、安全装備「Honda Sensing」、高性能シャシー(シビックタイプRベース)、環境規制対応などが挙げられる。ホンダはハイブリッド技術の研究開発を長年続けており、その投資回収の意味も価格に反映されている。
市場面では、国内で台数が出にくいクーペの固定費を北米など海外市場で回収する戦略もある。加えて国内経済の要因は大きい。国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」によれば、平均年収は約460万円である。しかしこれは平均値であり、三菱UFJ銀行の推定では全国平均は351万円に留まる。所得格差の拡大により、高額所得者が平均値を押し上げている。
バブル期の平均年収は465万円前後であったが、円安や物価上昇により、実質的な生活は厳しい状況にある。結果として、年収2年分に相当する600万円超の車は、国内の多くの人にとって手が届きにくい価格となる。ここに
「世界基準では妥当、日本では高すぎる」
という二重構造が生まれ、海外市場優先の戦略につながっている。
実際の日本市場におけるプレリュードの購買層は、50代以上のアクティブシニアである。今回のモデルは、50歳~60歳くらいの層を明確にターゲットとしている。自家用車をデートやステータスの象徴と捉えてきた世代で、バブル崩壊の影響を受けたが、現在は比較的資金力がある。メーカーはノスタルジーに着目し、
「かつて憧れだった車を今ならどうか」
と問いかける形を取っている。この構図はクラウンの「いつかはクラウン」に通じるものがある。ミニバンやSUVとは異なる市場への働きかけであり、最新プレリュードはアクティブシニアへのメッセージでもある。
若者はもはや対象外であり、販売台数よりもブランド価値の向上や復権を優先している。したがって「デートカーの再来」という表現は、若者の期待を裏切るものとなる。
若年層切り離す高価格戦略

Honda S+ Shiftドライブモードスイッチ(画像:本田技研工業)
国内の実質賃金はバブル経済期後半の平均467万円から、この30年ほぼ横ばいだ。経済政策の効果が限定的で、額面こそ変わらないが購買力は低下している。車両価格だけがグローバル基準で上昇し、円安が続けばメーカーは海外市場を重視せざるを得ない。
日本では税金、保険料、車検など車両維持コストの負担が欧米より高い。若者を対象にした調査でも、購入時の初期費用だけでなくランニングコストの増加が購入を阻害する要因として挙げられている。さらにサブスクやカーシェア、レンタカーといった
「所有しないモビリティ」
が普及し、購入の必然性は薄れた。所得停滞、高負担、物価上昇という三重苦のなかで、若者は新車購入が困難となり、中古車への需要にとどまる構造が定着している。
ホンダはSUVやミニバン市場で後手に回り、ブランド再構築を迫られている。そこで50代を中心としたアクティブシニアにノスタルジーを訴求し、プレリュードを高付加価値商品として少量でも利益を確保する戦略に動いたと読み取れる。だが、若年層のモビリティ文化を切り捨てれば、将来の市場基盤をさらに縮小させかねない。長期的に妥当な路線かどうかは残る問いだ。
市場の声に応えるためには、いくつかの方向性が考えられる。第一に、環境性能を備えつつ200万~300万円帯の小型スポーツを再構築することだ。かつてのCR-Xやシルビアのように電動化で再現し、グローバル小型スポーツカーとして展開すれば中国やアジア市場の電動車戦略への対抗策ともなる。第二に、若者支援スキームの拡充がある。メーカー主導でサブスクや残価設定ローンを低利化し、自治体や大学と連携したカーアクセス制度を整備すれば、若年層の市場参入を後押しできる。第三に、ブランド戦略の刷新が欠かせない。懐古主義に依存せず、新世代が共感できる物語を提示する必要がある。都市型の電動スポーツを
「シティコミューター」
として再定義する発想も有効だろう。
参考となる成功例は既にある。トヨタのGR86は300万円台に抑え、若者が手を伸ばせる価格で一定の成果を上げた。スズキのスイフトスポーツも低価格ながら運転の楽しさを提供し、国内外で評価を得ている。プレリュードも同様の戦略を採れば別の展開があったかもしれないという“if”が浮かぶ。
若者不在が揺さぶる自動車産業

プレリュード(画像:本田技研工業)
最新プレリュードの価格が600万円を超える水準は、日本の若者にとって現実的ではない。ただし技術の進化にともなう付加価値の上昇や、原材料費の高騰といった社会情勢を踏まえれば、値上げが理不尽とはいい切れない。問題の核心は車の高騰ではなく、日本人の所得が
「30年間ほとんど伸びていない」
ことにある。
この停滞が続けば、若者と車文化の断絶が進み、自動車という基幹産業の国内基盤が脆弱化しかねない。かつて車は移動手段であると同時に、
・世代を超えた憧れ
・コミュニティーを生み出す文化
だった。だが今、若者にとって新車は遠い存在となり、中古車やカーシェアが主流になりつつある。
打開策は残されている。低価格で運転を楽しめるスポーツカーの復活や、若者の購入支援制度を整備すれば、クルマが再び世代をつなぐ共通文化に戻る余地はある。企業は利益確保を命題としつつ、将来を担う層との接点を意識した経営が求められる。
プレリュードはその問いを突きつけている。高価格とブランド戦略の裏で、日本の自動車産業が進むべき方向を示唆しているのだ。