4つの〈金×円シナリオ〉で比較…「為替ヘッジ」の“最適タイミング”はいつ?【金投資アナリストが解説】

(画像はイメージです/PIXTA)
国際市場で、金(ゴールド)は米ドル建てで取引されていることから、円で投資を行う日本の投資家は「為替リスク」を抱えることになります。上場投資信託(ETF)や投資信託には、こうした為替変動の影響を軽減(ヘッジ)したものとそうでないものが用意されています。為替リスクをヘッジするべきか、しないべきか――「金高・円安」、「金高・円高」、「金安・円安」、「金安・円高」の4つの事象に分け、それぞれの事象が起こりうる要因やヘッジの有用性を考えてみましょう。ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが解説します。
金相場で「為替ヘッジ」が最も有効なのはどの局面か?
国際的に金は米ドルで取引されており、米ドルの動向はその他通貨建ての評価額に影響をもたらす可能性があります。
円の対米ドル相場は日米金利差や市場のリスク環境、貿易収支や対内外の証券投資など経常収支といった需給によって動く傾向があり、金相場と円相場の関係は複雑です。このため円を使って投資を行う日本の投資家にとって、為替ヘッジの有用性は重要な視点のひとつです。
ただし、ヘッジは米ドル安・円高がもたらす米ドル建て金価格へのマイナスの影響を取り除くことができる一方、ヘッジするためのコストがかかることからリターンが抑制されてしまうことには留意が必要です。
過去25年で最も多いのは「金高・円高」、最も少ないのは「金安・円高」
金相場と円相場をめぐる4つの事象のうち、過去に最も多かった組み合わせや最も少なかった組み合わせを見てみましょう。
2000年初から2025年7月までの期間の米ドル建て金価格と円相場、それぞれの月間騰落率を見ると、全307ヵ月のうち、金高・円高となった局面が106回と最も多く、次いで金安・円安が92回、金高・円安が68回、そして金安・円高が40回と最も少なくなりました。

[図表1]2000年以降、月次では金と円が同じ方向に動くことが多かった 出所:ブルームバーグ・フィナンシャルL.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント
注)データの参照期間は1999年12月31日~2025年7月31日の月次データ
全体の3分の2を占める2つの事象については、安全資産とされる金と円が相場環境のリスクオン・オフに合わせて同じ方向に動きやすいことが示されています。
こうした環境ではヘッジなしでも金相場と円相場が互いに相殺し合って中和する傾向があるため、必ずしもヘッジが必要とは言い切れません。特に金高・円高といった局面では、金の上昇率が円の上昇率を上回る傾向にあり、ヘッジなしの米ドル建て金投資は比較的プラスのパフォーマンスが維持されています。
また金安・円安局面では、米ドル建て金価格の下落を為替の円安が吸収し、衝撃を和らげているため、ヘッジの有用性は低いといえます。
一方、過去40回しかない金安と円高の組み合わせは比較的複雑なマクロ環境の下で起こりやすいです。たとえば2000年代初頭のITバブル崩壊後の世界的なデフレ圧力が金価格の重しとなったうえ、円高圧力が強まった局面が散見されました。
また世界的に景気に楽観的な見方が広まり、安全資産としての金に対する需要が低下した一方で、円キャリー取引を背景とした過度な円安の巻き戻しが起こった局面でも見られています。こうした局面ではヘッジが有効であるといえます。
「金高・円安」のいま、ヘッジは「控える」がベター
金高・安、円高・安の4つの事象が起こりうる環境はどのようなものか見てみましょう。なお、円安は金の円建て評価額を押し上げることから+、円高は押し下げ要因となることから-と評価しています。
以下の類例については、市場の動きを厳密に示すものではなく、全体的な傾向を示すもので実際の動きを保証するものではない点をご理解ください。

[図表2]金相場と円相場の組み合わせとマクロ要因例 出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。市場の動きを厳密に示すものではなく、全体的な傾向を示すもので実際の動きを保証するものではありません。
1.金高(+)/円安(+)
・想定される要因:特に米国や世界全体への持続的なインフレの恐れが金価格を押し上げる可能性があります。一方、日本で緩和的な金融環境が続いた場合、米国の金融引き締めとの対比で日米金利差が拡大。低金利の円で資金を調達し、高金利通貨やリスク資産へ投資するキャリー取引の活発化が想定されます。
・ヘッジの有用性:米ドル建て金価格の上昇に加え、米ドル高・円安によって金価格の円建て評価額が押し上げられます。ヘッジをすることで、円安による押し上げ効果を享受できなくなります。
2.金高(+)/円高(-)
・想定される要因:世界的な景気不安から投資資金が安全資産(セーフヘイブン)へ向かうケース。この場合、安全資産とされる金や円が受け皿となります。為替市場においても、米国や世界の弱い経済見通しを背景に、米国の金融緩和が行われると米金利低下から日米金利差の縮小で円が買われやすくなります。
・ヘッジの有用性:米ドル建て金価格の上昇は、米ドル安・円高で相殺される可能性があります。このためヘッジすることで円高による円建て評価額の押し下げ効果を和らげることができます。
3. 金安(-)/円安(+)
・想定される要因:米国や世界景気の好調を背景としたリスクオン環境で、安全資産(セーフヘイブン)への需要が減少し、金や円への需要が低下。強い米経済や世界経済見通しから、米金融政策の引き締めによる米金利上昇や米ドル高により円キャリー取引が活発化するケース。
・ヘッジの有用性:米ドル建ての金価格の下落は、米ドル高・円安で相殺される可能性があります。このためヘッジは円安によってもたらされる相殺効果を失う可能性があります。
4.金安(-)/円高(-)
・想定される要因:世界的な景気回復に伴うリスクオン環境で安全資産(セーフヘイブン)需要への減少から金離れが起こる場合や、米国の実質金利が上昇し、金の魅力が低下し価格が下落する場合。
また、世界的にデフレ圧力が強まる場合もインフレヘッジとしての金需要が低下する可能性があります。日銀の金融政策正常化により、キャリー取引の巻き戻しから円が急激に上昇するケースも要因になり得ます。
・ヘッジの有用性:米ドル建ての金価格の下落に加え、米ドル安・円高によって金の円建て評価額がさらに押し下げられることは、日本の投資家にとって、最も影響を与えるシナリオになります。為替ヘッジはこの下落圧力を緩和する手段として有効です。特にこのような局面では、ヘッジによって損失の一部を抑えることが可能です。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。
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