独立したらまず知っておきたい会計の「基本のキ」 フリーランスが知っておきたい指標とは?

(写真:genzoh/PIXTA)
会計の概念が生まれたのは大航海時代
小山晃弘(以下、小山):会計とはなにかというと、お金の流れや財務状況、経営状態などを可視化したもの、あるいは可視化する行為のことです。だから実は家計簿も会計の一種なんですが、一般的に会計というと、会社のお金の流れを可視化したものを指します。
【図を見る】会計には5つの利益がある
会計の概念が生まれたのは大航海時代。ヨーロッパの国々がインドと貿易する船を準備するには莫大なお金がかかったので、みんなでお金を出し合い、貿易での儲けを山分けする仕組みが生まれました。
郷和貴(以下、郷):東インド会社だ。
小山:そう。株式会社の走りですね。それまでビジネスは個人や一族のお金で行うのが基本だったので、事業資金をどう使ったのかなんて他人に説明する必要はありませんでした。
でも、赤の他人からお金を集めているのに、「情報は開示できません」では誰も納得しませんね。そこで会社のお金の流れを説明するために、「会計」というものが本格的に用いられるようになったんです。
郷:外部と共有することが目的だったんですね。
小山:はい。そしてお金の流れを説明した資料のことを「決算書」、あるいは「財務諸表」といいます。いろんな帳簿にいろんな数字を日々書き込んで、外部報告用に決算書としてまとめる。これが会計の本来の目的です。
フリーランスの場合、株主は存在しませんが、「税務署に見せるための決算書(※)」をつくっているわけです。
※「税務署に提出する決算書」と「株主に向けて公表する決算書」はほぼ同じだが、少しだけフォーマットが違う。「株主向け」のほうが経営状態をより正確に表している
決算書で大事なのは「P/L」と「B/S」
小山:現在、会計の世界で「決算書」といえば、次の3つの書類のことをいいます。
損益計算書(P/L、Profit and Loss Statement) 貸借対照表(B/S、Balance Sheet) キャッシュフロー計算書(C/S、Cash Flow Statement)
このうち、フリーランスにとって重要なのがP/LとB/S。企業の会計の世界でも、C/Sが決算書(財務諸表)に加わったのはわずか二十数年前で、P/LとB/Sが会計の基本なんです。
郷:青色申告で提出するやつ。
小山:はい。では、P/LとB/Sはいったいなにを「可視化」したものかというと、P/Lは「1年間のお金のフロー(流れ)」を可視化したものです。
お金がどれだけ入ってきて、どんな名目でどれだけ出たかが一目でわかる。すなわち、その1年間でどれくらいの利益あるいは損失を出したのかがわかるんです。もっとわかりやすくいえば、1年間の成績表みたいなものですね。
郷:そうだったんだ(笑)。
小山:一方でB/Sとは、お金のフローではなく会社の「ストック(資産)」を可視化したもの。決算をする最終日(フリーランスなら12月31日)時点の会社の資産や借金などが書かれています。過去の成績表を積み重ねた結果がここに示されているということです。
体でたとえるなら、P/Lは1年間どんな栄養を摂ってきたかの記録で、B/Sは健康診断の結果みたいなもの。
郷:フローとストックって、どっちが大事とかあるんですか?
小山:両方大事です。ただし、どの視点から見るかによって「重み」が変わるんです。現場目線からいえば、「この1年でどれだけ利益を出したか」を示すP/Lのほうが大事ですよね。
郷:いかに仕事を取るか、コストを削るか、みたいな話。
小山:そうそう。一方で経営者目線からいえば、「この1年間でどれだけ筋肉質な体質になれたか」を示すB/Sのほうが大事だったりするんです。
ビジネスって基本的に永続させる前提ですから、ときに大胆な借入や設備投資が必要かもしれませんが、P/Lだけ見ていたらその発想にならない。その点、フリーランスは現場目線と経営者目線の両方を持つ必要があるので、いずれもしっかり目を通して、数字を把握しておくことが大事だと思います。
P/Lとは会社の1年間の成績表
小山:P/Lでは1年間の損益(=所得)がわかり、それがB/Sに反映される形をとるので、先にP/Lの説明をしましょう。
郷:お願いします!
小山:青色申告決算書の最初の3枚はP/Lです。このうち、とくに1枚目にP/Lの大事な情報が凝縮されています。この1枚目がまさに成績表なんです。
では、フリーランスにとって成績とはなにかというと「儲け」です。「今年は動画編集のスキルが上がりました」とか、「ヒットメーカーとコネができたので来年に期待です」みたいな数字で表せないことは、決算書には一切反映されません(※)。
※株主に向けたレポートである有価証券報告書などでは、数字で表せないことも発表できる
「儲け」とは具体的になにかというと、会計の世界では「5つの利益」があるんです。これはぜひ覚えましょう。

(画像:大和書房提供)
郷:何度見ても覚えられないヤツ(笑)。
小山:使わないと忘れますよね。一番左は1年間に入ってきたお金の合計です。会計の世界では「売上高」や「収入」といいます。「年商」と呼ぶこともありますね。
この売上高から「売上原価」を引いたものを「売上総利益」といいます。一般的には「粗利」と呼ぶこともあります。
売上総利益 = 売上高 - 売上原価
郷:売上原価ってなんですか?
小山:ひとつの売上に対して1対1で必ずかかってくる費用のことです。たとえばラーメンが1杯売れたとしたら、そのラーメンをつくるために必要な原材料のコストのこと。たぶん郷さんのビジネスなら売上原価はゼロだと思います。
郷:ゼロですね。「粗利率」とか「原価率」とかよく言いますよね。
小山:そうそう。以下の式で計算できます。
粗利率=(売上高 - 売上原価) ÷ 売上高 × 100 原価率=売上原価 ÷ 売上高 × 100
業界によって粗利率は違い、サービス業は粗利率が高く、製造業や飲食業は粗利率が下がって、卸売業は粗利率が一番低い傾向にあります。
「本業の儲け」を示すのは何か
郷:人件費や家賃、光熱費などは?
小山:それが次の販売管理費、通称「販管費(※)」に乗っかってくるんです。
※「販売費及び一般管理費」のこと。SGAなどとも呼ぶ

(図表:大和書房提供)
一人親方のフリーランスなら事業の利益が自分の報酬なので人件費は販管費に含みませんけど、家賃やネット代などは売上を立てるために必要な経費ですよね。あるいは広告を打ったり、パソコンを新調したりすることも。そういうものを販管費といって、「売上総利益」から「販管費」を引いたものを「営業利益」といいます。
営業利益 = 売上総利益 - 販売費及び一般管理費
で、この営業利益は一般的に「本業の儲け」と呼ばれていて、その事業の収益性がはっきりとわかります。それが青色申告決算書の1枚目に書いてあるんです。
郷:なるほど。これは大事そうだ。
小山:次が経常利益。通称「ケイツネ」。
こちらは「営業利益」に、本業以外の損益を加味した利益のこと。たとえば払った利子であるとか、余剰資金を投資に回して儲かった・損したという数字は、経常利益に反映されます。
郷:ということは、「経常利益」が「営業利益」より多くなることもある?
小山:ありますし、本業は大幅な黒字なのに、経営陣が財テクに失敗して経常利益は赤字なんてこともよくあります。だから経常利益だけで会社の調子は判断できないんです。
郷:ふんふん。
小山:次が特別損益を加味した「税引前当期純利益」。たとえば震災にともなう損失とか、固定資産を売り払った収益のような、毎年起こるわけではないイレギュラーな損益がここに入ります。そして最後は、法人税を支払ったあとの最終的な儲けを表す「当期純利益」です。
フリーランスにとって重要な指標は何か
郷:なるほど。では5つの利益のなかでフリーランスにとって重要なのは、「売上総利益」と「営業利益」?
小山:そうですね。仕入れをともなうビジネスをしているなら「売上総利益」はちゃんと見ないといけないし、どんなビジネスでも「営業利益」は絶対にこだわらないとダメです。ただ、決算書って引き算をした結果しか書いていないので、パッと見ただけでは「ああ、今年はこれくらい儲けたんだ」で終わってしまいやすいんです。
郷:私のことですね(笑)。
小山:でもそこからひとつ踏み込んで、「売上高に占める営業利益の割合(営業利益率)」を計算したり、その推移を把握したりするひと手間がかけられるといいですね。
ちなみにこの6種の「売上」の順番って、会社運営で大事なことの順番でもあるんです。つまり一番はお客さん(売上高)、次はコスト(売上総利益)。

(図表:大和書房提供)
郷:最後は税金(笑)。