ポップマートが「株価急落」「ラブブブーム終焉」より深刻視している自社の弱点

ラブブがドラえもんやセサミストリートのような息の長いキャラクターになれるかに注目が集まっている。
世界的なラブブブームで同製品を販売する中国企業POPMART(ポップマート)の知名度も急上昇している。株価が急落するたびに「ブームの終焉」と結び付けられるが、ブームはいつか終わるものであり、重要なのは企業がその後も成長を続けられるのか、日本視点で見ればサンリオのような存在になり得るのかだろう。
だがポップマートを巡る日本の世論を見ると、動きを伝える側もニュースを見ている側も存在を知ったのがこの半年~1年だからか、短期的な動きだけを見て論評しているように感じる。しかも、そのほとんどが実際の購入者でもなく、店舗に行ったこともない人の声だ。ポップマートが海外進出する以前から5年にわたってウォッチしてきた筆者が、同社とラブブの中長期的な可能性とリスクを掘り下げる。
転売ヤーが株価を左右
最近日本で大きく報じられたのが、ポップマートの株価急落だ。8月26日に最高値をつけて以降、9月16日までの3週間で株価が25%下落し、時価総額が2兆円近く吹き飛んだ。JPモルガン・チェースがポップマートの株式投資判断を引き下げたことと併せ、ラブブバブル崩壊かと話題になった。
ここ3カ月でポップマートの株価が1日で5%以上下落したのは2回あるが、経緯には共通点が多い。
一度目は6月17日で、株価が6%超下落した。ただ、ポップマートの認知度が今ほど高くなかったからか、日本では全く話題にならなかった。
6月上旬に北京で開かれたオークションでラブブの一点物フィギュアが108万元(1元=20.8円で計算、約2200万円)で落札されるなど、ラブブ関連商品の転売価格が急騰したことでポップマートの株価も急上昇を続けていた。しかし6月中旬、ポップマートが在庫を一気に補充して転売バブルが崩壊、株価も一緒に急落した。
二度目の株価急落は9月15日。8月下旬に新商品数点が発売され、店頭に並ぶ前からフリマアプリに商品が出品されて、定価の10倍の値が付いた。「代理購入」の権利までが高値で取引された。8月末にはスマートフォンに付けられる「ミニラブブ」が発売され、一瞬で売り切れた。
8月19日に非常に力強い決算が発表されたことと併せて転売相場の好調ぶりが材料視され、9月上旬まで株価が過熱していた。
9月中旬に入って転売価格が落ちてくると転売ヤーが「儲からない」「在庫がはけない」などとSNSに投稿し、株価が下がり始めた。投資判断引き下げのニュースが出て、下落に拍車がかかった。
商品の転売価格が上昇すると期待先行で株価が上がり、転売マーケットが落ち着くと株価が下がる。市場が小さな材料に過剰に反応し、実需ではなく投機的な動きに株価が振り回されていることが分かる。そして今は期待込みで株価が割高な水準にあるため、ちょっとしたことで雪崩のように下がりやすい。
実際のところ、現在のポップマート成長をけん引しているのは海外市場だ。2025年1~6月の海外売上高は前年同期比5.4倍の55億9000万元(約1100億円)に達し、全体の40.3%を占めた。
同社は今年、中国の店舗数を大きく増やさないと宣言している。海外市場が成長の鍵を握っているにもかかわらず、中国の転売価格や転売ヤーのSNSに株価が左右されているのもおかしな話だ。そのニュースにコメントしているのも最近ポップマートの存在を知った、という人ばかりなので、全てが浮足立っているように見える。
ポップマートがバブル崩壊より心配していること

ラブブのぬいぐるみは生産が全く追いついていない。
巷ではラブブブームがいつまで続くかに関心が注がれているが、ポップマートの最大の課題は別のところにある。
マクドナルドのハッピーセット騒動からも分かるように、転売目的で商品が買い占められ、本当に欲しい人が弾かれる状況は、企業にとってリスクに他ならない。
ポップマートにとって商品がプレミアム化している現状は望ましいものではなく、故に株価や転売価格が過熱していたときに、自ら在庫を大量投入してバブル潰しに動いた。
ラブブは2018年に商品化された古参IPで、中国には昔からのファンもいるが、商品が定価で買えない状況が続くと固定ファンが離れかねない。
需給ギャップの隙をついて偽物が大量に出回っているのも深刻な問題だ。偽造グループの逮捕や裁判、税関での摘発が毎日のようにニュースになっている。
筆者は東南アジアを旅行中だが、ハノイやマニラの商店でラブブの偽物が売られているのを何度も目にした。ポップマートにとっては機会損失になるだけでなく、ブランド価値の低下にもつながる。
ぬいぐるみの生産体制確立が課題

ベトナム・ハノイで売られていたラブブの模倣品と思われる商品。
にもかかわらずポップマートが販売を絞っているのは、生産能力の問題だ。
ポップマートの商品としてカバンにぶらさげるぬいぐるみ商品を思い浮かべる人が多いが、あのぬいぐるみが発売されたのはここ1年のことで、同社の主力商品は室内に飾ることを想定したプラスチックのミニフィギュアだ。
ポップマートはラブブのヒットを受けて2024年に新カテゴリーとしてぬいぐるみ商品を発売し、大当たりした。その結果、2025年1~6月のぬいぐるみの売上高は前年同期の4億5000万元(約94億円)から61億4000万元(約1300億円)に急拡大し、フィギュアの売り上げを上回った。ポップマートによるとぬいぐるみの方が単価、粗利益率が高いため、純利益への貢献も大きい。
そこで課題となっているのが生産体制の整備。ポップマートはこの1年間でぬいぐるみ製品の生産能力を前年同期比で約10倍、月間3000万個体制に拡充したと説明するが、売り上げの伸びはそのペースを上回り、需要に全く追いついていない。

ベトナム・ハノイのスーパーでも、ラブブの偽物と思われる商品を見つけた。。
中国では、これをビジネスチャンスと捉えてポップマート以上のスピード感で偽物を生産する動きが加速したり、ラブブの模倣ブランドなども誕生したりしている。ある中国企業が2024年「WAKUKU(ワクク)」というブランドを立ち上げたが、“ジェネリック・ラブブ”的な立ち位置で驚くほど売れており、日本にも「アジアで超人気のブランド」として輸入されている。
ポップマートは中国企業として初めて、「中国勢の模倣・パクリ」に悩まされる企業にもなっている。
ポップマート幹部は決算会見で、将来的には素材や機械の見直しなどサプライチェーンの自動化に投資するが、足元ではとにかく生産ラインと人員を増やして需要に対応すると説明した。同社が認識している最も大きなリスクは、サプライチェーンの不足によって引き起こされるブランド価値の毀損なのだ。