日産・ホンダ「アリア/ZDX」生産停止の衝撃――米国EV鈍化・共和党政策が突きつける「米国依存」からの脱却

日本車の米国戦略迷走

 2025年9月25日、NHKは日産「アリア」とホンダ「ZDX」の米国向け電気自動車(EV)生産停止・終了を報じた。トランプ政権は、バイデン前政権下で進められてきたEV普及策の見直しを進めている。9月末には、EV向け税制優遇措置の廃止を決定した。制度面での逆風が吹き始め、米国のEV販売は減速している。

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 米国のEV市場は成長率が鈍化している。2024年のEV販売台数は130万台以上に達したが、前年の成長率40%から

「10%」

に大きく落ち込んだ。販売シェアを見ると、2025年第1四半期時点でテスラが43%、フォードが8%、シボレーが6%、ホンダが3%、日産が2%となっている。

 日産リーフの米国販売は2024年に1万1226台で、2023年の7152台から増加した。アリアは1万3464台から1万9798台へと伸びた。EVリースの活用も広がり、日本メーカーのEVはわずかに成長の兆しを見せていた。しかし総じて、米国のEV市場は急速な普及期を終え、成熟期に入ろうとしていた。

 そのタイミングで共和党の厳しい政策が打ち出され、日本メーカーの好調の兆しは阻まれた。日本企業にとっては、制度疲労や構造的問題も重なる。米国向けの税制や補助金政策は変動しやすく、生産・輸出体制の硬直性も課題だ。さらに、グローバル仕様の標準化遅れや関税問題も重くのしかかる。

EV普及の逆風到来

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ZDX Type S(画像:本田技研工業)

 米国では市場シェアの大きいテスラでさえ、2020年の60%から2024年には38%に低下した。これはEV市場で勝ち抜く難しさを示している。ライバルの増加とメーカー戦略の変化も影響している。グローバル市場を視野に、EV・ハイブリッド車(HV)・プラグインハイブリッド車(PHV)のラインアップを強化する全方位戦略を採るメーカーも増えている。

・消費者の多様なニーズ

・充電インフラの整備状況

・ガソリン価格の動向

を踏まえれば、この戦略は不可避である。米国市場にも同様の影響が出ており、EVに対しては逆風が強まっている。

 補助金制度も揺れ動いている。クリーン車両税額控除制度では、新車購入時に最大7500ドルの割引が受けられる。しかし対象となるEVは限定的で、消費者の選択肢は広がっていない。農村地域を中心に充電ステーションの不足も残る。こうした状況で、共和党政権はEVに否定的な姿勢をとる。

 これだけEV普及の課題が山積する米国市場では、普及の鈍化は避けられない。日本メーカーの収益も圧迫される。日産やホンダは、米国向け生産を止めざるを得ず、

「ラインアップの最適化」

が必要になると考えている。自動車分野の専門家やアナリストも、米国向けEVの停滞は避けられないと指摘する。競争力維持の難しさや規制変化への脆弱性が、日本メーカーの課題として浮き彫りになっている。

アジア市場への軸足

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中国(画像:Pexels)

 では、日本メーカーの戦略的選択肢にはどのようなものがあるのか。マーケティングでは4Pのフレームワークが用いられる。

・製品(Product)

・価格(Price)

・流通や販売場所(Place)

・プロモーション(Promotion)

の四つである。

 地域戦略の再編も現実的な選択肢となる。従来のEV投資コストや国際的なSDGs対応を考慮すれば、Placeを見直すことが重要である。ブルームバーグNEFの調査リポート「電気自動車の長期見通し」(2025年6月)によると、リチウムイオン電池の

・価格低下

・低価格モデルの生産拡大

が進み、今後の世界EV販売台数の約3分の2を中国が占めると予測されている。欧州は17%、米国は7%にとどまる見込みだ。

 さらに、アジアを中心とした新興国市場も、中国メーカーのけん引で急速に成長するとされている。この状況を踏まえれば、EV販売をアジア圏にシフトし、集中投資する戦略が現実的である。EVに前向きな政策環境と成長市場への資源配分が、市場拡大には有利だ。日本メーカーにとって、EVの生産・販売リソースを再配分するタイミングに差し掛かっているといえる。

 米国市場での潜行戦略(表立って攻めず、目立たずに進める戦略)も、日本メーカーの選択肢として挙げられる。あえて提案するのは

「政権交代を見据えたR&D継続」

である。米国は共和党と民主党の二大政党制であり、歴史的に民主党政権の復帰は十分に想定できる。EV政策が再びポジティブになる可能性もあるわけだ。政権交代に即応できる生産・開発体制を維持することは、米国市場では重要な戦略となる。ただし、この戦略はあくまで潜行戦略である。アジア圏でのEV推進を踏まえ、前述の地域集中戦略と組み合わせるかどうかが意思決定のポイントになる。

 Productの観点では、米国向けに

「車両仕様」

を吟味する戦略もある。現状の米国市場や自動車利用の特性を考慮し、水素エンジンなどの代替駆動方式を検討することもあり得る。Promotionの面では、共和党が重視する国内雇用や部品供給の維持に寄与する方針を示すことも有効だ。米国経済への貢献をアピールし、市場環境の安定化を図る狙いである。

 国際ベースモデルの開発も戦略のひとつである。Productの観点から、世界市場向けの共通EVモデルを開発する方法だ。基本車両を用意し、国や地域ごとのオプションで現地需要に対応させる。自動車研究の世界では一般的な考え方だが、日本メーカーには柔軟性が不足している。

 ベースカーを増産することでPrice面での競争力も高まる。さらにマーケティング強化も必要だ。日本メーカーはPR戦略が弱く、生活者との接点作りにも課題を抱えている。依然として「自社の技術で作りたい車を作る」という発想が主流である。

技術と市場の最適化

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アジアの国々を見つめる人々のイメージ(画像:写真AC)

 EVのアジア市場シフトは、現地経済や雇用への効果が期待できる。途上国では、自動車産業の経済的波及効果に加え、製造ノウハウの蓄積も政策的に重視される。研究力が向上すれば、日本メーカーの国際的貢献にもつながる。

 一方、米国でのEV潜行R&Dは次世代の技術競争力を高める。潜行期間を逆手に取り、大国での販売戦略をじっくり練ることが可能だ。EVの国際ベースモデルは、国際市場の拡大につながる。規模の経済やサプライチェーン効率化の面でも魅力が大きい。環境政策やEV普及の国際的連鎖反応に、よりよい効果を期待できる。いずれの選択肢も一定の成果が見込める。

 本稿の問いは、米国のEV市場縮小を前提に、日本メーカーがどのように成長余地を見いだすかであった。筆者(近澤眞吉、モータージャーナリスト)が示した日本メーカーの生き残り戦略は、すでに述べたとおりである。マーケティングの4Pに沿って、地域戦略の再編や新技術への投資が、日本メーカーの生き残りにどこまで効果を発揮するかを考えてきた。

 現在は技術選択肢が増え、政策にも左右される時代だ。生活者のニーズや充電インフラなど、地域事情も多様である。あらゆる側面から、日本が取るべき方向を慎重に考える必要がある。