不発だった「並ばない万博」の教訓は 〝現金派〟も巻き込み会場で試したスマート社会

大阪・関西万博の(左から)フランスやアメリカなど人気のパビリオン前では、入場を待つ人々の長い行列ができた。結果的に「並ばない万博」は掛け声倒れとなった=9月21日、大阪市此花区の夢洲(恵守乾撮影)

「先端デジタル技術を用いて、未来を先取りする〝超スマート会場〟を実現する」。大阪・関西万博の開幕を前に、日本国際博覧会協会は力強く宣言した。

協会が描いた「超スマート」とはこうだ。自動翻訳システムが世界中の人たちとのスムーズな交流を可能にする。最先端の通信や映像装置が遠く離れた場所をつなぎ、まだ見ぬ未来社会をみせる。運営面でも、IT(情報技術)で効率化を図るデジタルトランスフォーメーション(DX)を強調した。

大阪・関西万博会場に隣接する人工島・舞洲のパーク・アンド・ライドの専用駐車場。高額の料金設定もあだとなり、利用の低調さが目立った=5月5日午前、大阪市此花区

その象徴的なキャッチフレーズが、来場者に行列を作らせない「並ばない万博」だった。入場ゲートやパビリオンはシステムでの完全予約制を導入。万博は夏場に開催され、来場者を熱中症から守る必要があった。会場の人工島・夢洲(大阪市)へのルートが限られており、輸送網のパンクを避ける狙いもあった。

さまざまなデータや人工知能(AI)を活用した予約システムの構築は挑戦的だったが、協会の見通しの甘さもあり、結果的に「並ばない」は掛け声倒れに終わった。協会関係者は「最新技術と現場の運営がかみ合わなかった」と反省する。

失敗の要因は複合的なものだ。まずは地下鉄駅直結で利便性が高い東ゲートに来場者が集中し、西ゲートに誘導できなかったことがある。駐車場にマイカーを止め、シャトルバスに乗り換える「パーク・アンド・ライド」も1日5千円以上と高額で利用が進まなかった。万博の人気が高まるとパビリオンの予約枠はすぐに埋まり、当日に予約なしで入れるパビリオンなどに長蛇の列ができた。協会の予約システムに乗らない国もあるなど、統率もとれなかった。

大阪・関西万博の会場内に設置された自動販売機。現金は使えずキャッシュレス専用だった=10月11日、大阪市此花区の夢洲(土井繁孝撮影)

だが、その理念が実現していれば、来場者が快適に楽しめるだけでなく、雑踏事故の防止や交通インフラの渋滞や混雑解消にも大きな効果があったはずだ。それにより通勤通学の社会生活や物流も守られる。得られた知見は、今後の国際的イベントで生かされる。

トヨタ自動車がウーブン・シティで運営するカーシェアリングサービスの自動運転ロボット(前方)と車両=9月25日、静岡県裾野市

キャッシュレス加速

「超スマート会場」の目玉が、会場内で現金が一切使えない「全面キャッシュレス」だった。協会幹部は「会場を実証実験の場とし、日本のキャッシュレス化を加速させる」と語った。完全なキャッシュレス社会が実現すれば利便性が向上するだけでなく、業務の効率化や生産性向上も見込め、人手不足の課題解決にもなる。

経済産業省によると、21年の日本のキャッシュレス決済比率は32・5%で、20年の韓国(93・6%)やオーストラリア(67・7%)と比べても著しく低い。政府は万博開催の25年以降、80%までの引き上げを目指す。

日本は他国と比べて〝現金派〟が多いことから万博での取り組みは不安視されたが、不慣れな高齢者らも周囲の助けを得ながら対応し、大きな混乱は見られなかった。

次世代へ「トヨタの街」も始動

一方、これから加速する少子高齢化は世界共通の課題とされ、各国はそれに対応する持続可能なまちづくりの必要性に迫られている。トヨタ自動車が建設し、9月に開業した実証都市「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)は好例で、自動運転ロボットが住民に車を届ける次世代カーシェアリングなどの実証を行う。

ICT(情報通信技術)を活用したシステムを積極的に導入し、AIやビッグデータを活用したスマート社会の実現は喫緊の課題であり、万博はそれらを意欲的に試す場となった。

日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄所長は「万博が数日ではなく、半年間のイベントだからこそ課題が浮き彫りとなり、その解決を目指す試行錯誤の経験が得られた」と評価する。

半世紀後、万博の理念が実を結び、世界で「超スマート社会」が実現しているかもしれない。