急騰から一点急落の「金(ゴールド)」相場…失敗しない「貴金属」投資の注意点
2025年に急上昇、急落もした「金(ゴールド)」
S&P500も日経平均株価もTOPIXも史上最高値を更新した2025年ですが、2025年のマーケットを代表するのはゴールドだと思います。ドル建て金先物価格の年初来騰落率はS&P500のそれをはるかに凌駕します。しかし、10月21日にはNY市場で過去最大の下げを記録しています。10月に入って価格が急上昇した分、調整するときの勢いも大きくなったということかもしれません。

2025年のドル建て金先物とS&P500の推移 *2025年10月26日時点 チャート提供:TradingView
S&P500との比較を5年にすると、少し見え方が違います。どちらも上げたり下げたりしながら上昇してきたのですが、ゴールドは2025年に入ってから急上昇しています。

5年間のドル建て金先物とS&P500の推移 *2025年10月26日時点 チャート提供:TradingView
マーケットを取り巻くニュースはとかく相対的に変化が著しいものに向きがちで、2025年は価格上昇が著しかったため、ゴールドのプライスについての報道が多く、それを聞いて、自分も買わなきゃと思った方が多かったのでしょうか。
ゴールドは「有事」に買われる
筆者がゴールドというアセットを意識させられたのは2011年でした。当時証券アナリストをしていて、ゴールド価格は日々目に入るもので、プライスが上昇していること知っていました。とはいえ、証券会社員は自由に投資できない身です。純金積立ならできたかもしれませんが、そこまでやろうとも思いませんでした。

2008年からのドル建て金先物の推移 *2025年10月26日時点 チャート提供:TradingView
しかし、仕事で某機関投資家の株式部を訪ねて、株式部長とその部下の方とミーティングをしたときに言われたことを鮮明に覚えています。
部下の方「僕、自分の資産運用をどうしたらいいかなぁって結構考えるんですよ」
機関投資家の株式部ならば証券会社ほどではないかもしれませんが、やはり自由に投資できなかったかもしれません。純金を買うのは時計や車を買うのと同じようなもので制約はなかったでしょう。
しかし、それだけではない理由があったように思います。当時は2008年に起きたリーマンショックから米国経済も復活の途上であり、日本株は東日本大震災後のショックからまだ立ち直れていない時期でした。そもそも株式運用をしてもリターンがほとんど出ない時期だったのです。じゃぁ債券か?といえば、株式がダメな時は金融緩和されているときで、低金利でしたから、債券投資もまたうまみが無い時期でした。さらに、円が非常に高く、為替運用もまた難しかったのです。部下の方のコメントは当時の個人投資家の気持ちを代弁していたと思います。
株式部長「金だ! 金なら最悪10kgぐらい持ち歩けるだろ」
チャートが示すように、リーマンショック後、数少ない好調なアセットの一つがゴールドでした。株式部は本来資金を株式で運用するべき立場なのに、その部長さんから「金」という言葉が出て、なるほど「有事の金」とはよく言ったものだと感じたことをよく覚えています。
ゴールドという資産は株式や債券とは違った性格を持っています。
株や通貨などの他の資産が不安定になる時期に、価値が安定または上昇する傾向があります。古くからゴールドは価値の保存手段として信頼されており、たとえば1970年代のオイルショックや2008年の金融危機時に価格が急騰した例があります。また、戦争やテロといった地政学的緊張、リーマンショックなどの経済危機、パンデミックなどの「有事」の際、投資家がリスクを避けるためにゴールドを購入する傾向が強まり、価格が上昇します。ゴールドが物理的な資産でありどの国でも換金性が高いため、安心して保有していられると考える投資家が少なくなく、「有事の金」と呼ばれます。2020年のコロナショック時、2022年に発生したロシアのウクライナ侵攻時にもゴールドは買われました。

2008年からのドル建て金先物の推移 *2025年10月26日時点 チャート提供:TradingView
2025年にゴールド価格が上昇している背景
さて、改めて2025年にゴールド価格が上昇している理由を考察します。3点あると考えています。
一つ目は米中貿易戦争の激化とトランプ政権の関税政策です。
ドナルド・トランプ大統領の再選後、関税政策によりグローバル貿易が混乱の渦中にあります。貿易の混乱は経済の混乱を招きます。よって、投資家がリスク回避のため金に殺到しました。貿易摩擦は、インフレ再燃の懸念も呼び、金の「安全資産」需要を高めています。

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二つ目は、いくつかの国の中央銀行がゴールドを買っていることです。中国人民銀行(PBOC)が2025年9月まで11ヶ月連続で金を購入し、インド、トルコ、ロシアなどの新興国の中央銀行も金備蓄を増やしました。2025年はゴールドを求める資金が多いということです。ほしいと考える人が多ければ、プライスは上昇します。
三つ目は地政学的・経済的不確実性の増大です。
ウクライナ情勢の長期化、中東・台湾有事の懸念、米大統領選後の政策不透明感が、金の「有事の資産」としての魅力を高めた形です。
銀やプラチナもプライス上昇
2025年はゴールドだけではなく、銀やプラチナ価格も上昇しています。
銀やプラチナはゴールドとは異なり、工業用途があることも価格を動かした理由と考えられます。
銀は50%以上が産業用で、太陽光パネル、EV電池、5G機器に不可欠です。プラチナは自動車の排ガス浄化触媒、燃料電池の触媒、ペースメーカー、カテーテルなどの医療器具、電子部品、ガラス製造といった工業用途があります。モノづくりに欠かせない貴金属です。
しかし、銀は2019年から現在まで供給不足が続いています。
銀は銀の鉱山から生産する量が全体の供給量の3割で、残りの7割は銅鉱山、鉛亜鉛鉱山、ゴールド鉱山の副産物だそうです。副産物は基本的にコントロールはできないので、シルバーの生産の70%は銅や鉛亜鉛、ゴールドと言った金属生産に依存します。ですから、銀そのものの生産量だけをシンプルに増やすことが難しいそうです。
プラチナは3年連続で供給不足です。
プラチナの主要産出国である南アフリカで、2025年初頭に洪水が発生し、鉱山稼働に支障が出たことで生産量が減少しており、供給不足は2028年まで続くという見込みがあるようです。
ETFのおかげで投資しやすくなったが…
ゴールド、銀、プラチナというのは証券ではなく、現物があるものゆえ、商品市場で取引されるものですが、近年はこれらの現物価格や先物価格に連動する金融商品が増えて、小口でも投資しやすくなりました。
今年、マーケットでこれらの貴金属価格がしばしば話題になるのは、投資環境がよくなったことを裏付けているようにも思います。
一方で、価格上昇に乗り遅れてはいけないと貴金属ETFに資金を投入する投資家が増えた結果、取引価格と基準価額との間に大きな乖離が発生することがありました。
基準価額とは裏付けとなる資産、この場合は貴金属の価値のことです。投資家が現物貴金属より流動性の高いETFを優先した結果、現物調達が追い付かなくなり、乖離が発生したと考えられます。
この乖離が収束するときはETFの取引価格が下落します。貴金属ETFを取引する人はそのような現象が起きるかもしれないことを想定しておくべきです。
金利がつかないアセットである
ゴールドをはじめとした貴金属は、金利がつかないアセットです。ですから、通貨の金利が低い局面では好まれますが、金利が上昇する局面では投資妙味が減るアセットです。
供給に難があり、米国の金利が低くなると見込まれる足下では、投資家が好むアセットでしょう。しかし、山高ければ谷深しとマーケットで言われます。一本調子で上昇すると考えるのは好ましくありません。長期的にはマイルドにプライスが上昇すると想定していますが、プライスの急落はどんなアセットでもあることを念頭に置き、あくまでも補完的につき合う方がいいと考えます。