金価格高騰で売る高齢者に買いたい若者、投資ブームで小型地金の製造追いつかず 異例の事態に警戒感、それでも「今後も上昇」との声

1㌘当たり2万18円の金の店頭販売価格を表示する「田中貴金属直営店 ギンザタナカ本店」の電光掲示=9月29日午前、東京・銀座

 金価格の値上がりが止まらない。9月に金の店頭販売価格が1グラム当たり2万円を突破した。10年前(2015年)の4500円前後から、4倍以上になった。

 米国で高関税政策を主張するトランプ政権が誕生し、グローバル経済の不透明感が増していることから「安全資産」とされる金に投資する動きが世界的に強まった。例のない高騰を警戒する声の一方、今後も価格上昇が見込まれるとの見方もある。「金投資ブーム」はしばらく続きそうだ。(共同通信=高田香菜子、李洋一)

▽「売るなら今」

 金価格の近年の上昇は目を見張るものがある。2020年に1グラム=6000円台だったが、2024年に1万円を超え、この1年だけで約2倍になった。10月には2万3000円を超え、値上がりが収束する兆しは見えない。

 地金大手の田中貴金属工業(東京)が毎日設定している金の店頭販売価格が初めて1グラム当たり2万円を突破した9月29日、中古ブランド品を扱うコメ兵(名古屋市)の東京・銀座の店舗は貴金属を売りに訪れる客でにぎわっていた。

 約30年前に買った18金やホワイトゴールドの指輪など数点を持参した東京都在住の50代の女性はこう語る。

 「あの頃は今よりも安かったのでいろいろ買った。ニュースで2万円を超えたと知り、今だと思って売りに来た」。家族旅行の費用に充てるつもりだという。

▽年配者はまとめて売却、若年層は新規に購入

 コメ兵では金価格の上昇を受けて、新規客が増加している。特に年配者が多く、売却点数も以前は数点程度だったのが、20~30点を一気に持ち込む人も増えている。価格上昇を好機と捉え、相続した貴金属など家にある物をまとめて売っているとみられる。

 金を購入する人も増えている。非鉄金属大手で金の地金などを取り扱う三菱マテリアルによると、将来への不安から資産の一部を金で保有する動きが広がっている。金価格が上昇を続けた9月の金の販売量は、買い取り量を大幅に上回った。現在は40代以上が中心だが、若年層など新規購入を希望する人からの問い合わせが増えている。

▽世界的な投資対象、国内では地金製造追いつかず

 田中貴金属では金の需要急増で製造が追いつかず、50グラム以下の金地金の販売を一時的に取りやめた。三菱マテリアルも同様の理由で小型地金の購入や引き出しを停止している。2千万円以上になる1キロの地金は高くて買えないが、家計の資産の一部を安全な金商品に換えておきたいという購入者の心理がうかがえる。

 田中貴金属の親会社の田中和和(まさかず)取締役専務執行役員は「日本から金がなくなって手に入らなくなるという誤解から焦って買う動きもある」と指摘した上で、商品の原材料に当たる金は十分に確保できていると強調。消費者に冷静になって購入するよう呼びかけた。11月下旬の販売再開を目指し、24時間体制で小型金地金の生産を急いでいるという。

三菱マテリアルが取り扱う金地金

▽新型コロナ、ウクライナ侵攻、高まる不安

 金は株式や債券のように投資の対象となっており、世界中で取引されている。

希少な安全資産として、国際情勢が不安定になると値上がりする傾向がある。

 ではなぜこんなに上がったのか。理由は二つある。

 一つ目は、世界情勢の大きな変化だ。2020年までは米国と中国の貿易摩擦や、新型コロナウイルス感染症の拡大で人の動きが制限されたことから、経済活動が停滞した。世界的な景気悪化を受けて、将来への不安から「安全資産」としての金を買う人が増え、値段も上がった。2022年のロシアによるウクライナ侵攻や、自由貿易体制を否定するトランプ米政権の誕生も、世界的な金投資ブームの追い風となった。

 二つ目は、外国為替市場の円安ドル高だ。新型コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻の影響で欧米ではインフレが深刻化し、欧米の中央銀行は政策金利を引き上げた。一方の日本では低金利政策が続いた。為替市場では原則、金利の高い通貨の方が運用利回りが良いとして買われやすい。その結果、低金利の日本の円は売られ、円安を招いた。

 世界的には金はドル建て換算で取引されるため、円換算した場合の価値が高まるとして需要が増えた。日本独自の事情も金価格の高騰につながった。

コメ兵の店頭に並ぶ金のネックレス=9月29日、東京・銀座

▽米利下げ観測が拍車、利息なしでも「魅力的」

 特に9月に入ってからは、米国の景気減速への懸念から米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを継続するとの見方が広がり、金価格の上昇に拍車をかけた。金利が下がると預金や債券から得られる利息が減るため、利息はつかないが価値が安定している金の方が魅力的に映る。金の需要が高まることを見越して買う人が増えるので、価格が上がるという仕組みだ。

 同時に米国経済や米ドルで決済する経済圏からの脱却を図ろうとする中国や新興国の中央銀行が、保有する米ドル資産を金に移す動きを加速させている。個人だけでなく、国単位でも金への需要が強まっている。

▽今後も上昇の可能性

 市場関係者の間では過去に例がない金価格の急騰を警戒する声もある。高値への警戒感から前日のニューヨーク商品取引所の金先物相場が急落した10月22日、国内の店頭販売価格も1500円以上急落した。ただ、地政学リスクやインフレ、円安など、資産を脅かす状況は続いており、その後は持ち直している。

 ニッセイ基礎研究所の上野剛志主席エコノミストの見方はこうだ。

 「トランプ関税がどのような影響を与えるのかまだよく分からない部分が多く、(世界経済の先行き不透明感から)金の需要は根強い。今後も価格は上昇する可能性は高い」