「カッコいい車」の時代は終焉か? 技術の日産が挑む、価値観変化の先にある新しい「やっちゃえ NISSAN」像

技術力とブランドの軌跡

 かつて世界を席巻した日産は、今また大きな岐路に立っている。EVシフトの遅れ、米中市場での苦戦、巨額赤字――逆風は強い。しかし新型リーフやマイクラEVの投入、ハイブリッド戦略、生産体制の再構築など、未来への挑戦は止まらない。 本リレー連載「頑張っちゃえ NISSAN」では、厳しい現実と並走しながらも改革を進める日産の姿を考える。

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 日産自動車は逆風下にある。米中市場での販売不振により、2024年9月末時点の中間決算(上半期)では営業利益が前年同期比で約90.2%減少した。さらに、2024年度(2025年3月期)決算では約6708億円の最終赤字を計上した。短期的な経営危機に陥っているわけではないが、次世代技術や商品開発、組織改革などで手を打たなければ将来の成長は難しい。

 日産のブランド力を支えてきたのは技術力と、それが生む市場でのインパクトである。1989(平成元)年に復活した「R32 GT-R」や、2010年に発売された日産初の量産型電気自動車(EV)「初代リーフ」は、技術力が注ぎ込まれた車として市場に衝撃を与えただけでなく、当時のメディアや自動車ファンの間で高い評価を受け、ブランドの象徴となった。こうした車は、開発チームの挑戦精神や試行錯誤の物語をともなっていたことも強みである。

 2015年ごろからは「やっちゃえ NISSAN」というキャッチコピーでCMを展開し、挑戦的な姿勢を示した。特に、CM内でハンドルから手を離すシーンは強い印象を残した。これは、日産が技術力を裏付けに、消費者に驚きや期待を提供しようとした試みの象徴である。しかし市場の価値観は変化した。

「技術力の衝撃を理由に車を購入する時代」

は終わりつつある。所有欲を満たす技術エピソードよりも、利便性や利用の柔軟性を重視する消費者が増えた。若年層の一部では、車を所有するよりカーシェアなどで「利用」する傾向が強まり、価値観の多様化が進んでいる。日産が長年育んできた技術の信頼性は依然として強みである一方で、

「その価値をどのように現代の生活や消費者体験に結びつけるか」

が、今後の課題となるだろう。

無用の長物化の可能性

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スカイライン GT-R(画像:日産自動車)

 では、日産の技術力や挑戦する姿勢は「不要」になったのだろうか?

 決してそうではない。基礎体力としての技術力や挑戦姿勢は依然として不可欠である。ただし、保有する技術力を特化させ、挑戦すべき分野を明確に見極めることが必要だ。幅広い技術を持つだけでは競争優位にはつながらず、ユーザーや市場に届く成果をともなうことが求められる。

 2024年末に発表されたホンダとの経営統合に向けた基本合意は、わずか2か月で協議が打ち切られ、実現しなかった。VALUENEXによる分析では、両社の過去12年間の国内特許公開情報、約4万5000件を対象に技術差異が検証された。その結果、ホンダはオールマイティーな技術を持つ一方、日産は

「リチウムイオン電池領域」で突出している」

ことがわかった。また、振動制御やギア制御などの車体制御技術でも強みを示している。

 こうした強みは、車の使い勝手や乗る人の体験価値に直結する。例えば、車体制御技術を子ども連れの家族向けやドライバーの運転スタイルに応じてチューニングすれば、日常の運転の安心感や楽しさを高めることができる。このように競合との技術差異から生まれる付加価値を形にする取り組みこそ、日産が今後挑戦すべき分野である。

 さらに、技術力は社内文化や開発のスピードとも密接に結びつく。挑戦を支える組織や人材の柔軟性があって初めて、特化した技術が市場やブランド価値として機能する。技術力と挑戦姿勢を持つだけでなく、それを生かす仕組みと文化を整えることが、日産の今後の成長のカギとなる。

求められる企業文化改革

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日産で自分らしいキャリアを歩む社員たち(画像:日産自動車)

「やっちゃえ NISSAN」のキャッチコピーは現在もCMで使用されている。しかし、スローガンだけが先行し、かつての技術力に裏打ちされた説得力は薄れている。クルマの価値観が変化し、技術力だけで業績を伸ばす時代は終わった。今の「やっちゃえ NISSAN」は、

「新しい根拠」

が必要である。その説得力となるのが

・社内風土の変革

・人的資本の確保

である。EV化の進展や新しいモビリティサービスへの対応は、従来注目されなかった分野での人材を必要とした。外部からのキャリア採用によって多様性を確保することは、異業種・異文化の人材を受け入れる企業の柔軟性を試す場ともなっている。

 日産は、多様な人材が自由に意見を交わし、個々のポテンシャルを最大限に発揮できる職場風土の構築に取り組んでいる。具体的には、

・女性管理職比率の向上(グローバルで2024年3月時点約15.9%)

・育児休業からの復職支援

・LGBTQ+への配慮

など、多様性と包括性を高める制度を整えている。また、チームミーティングやプロジェクトでは、異なるバックグラウンドを持つ社員が積極的に意見を出し合い、新しい技術やサービスのアイデアが生まれる場になっている。

 社員教育制度も見直され、全社教育と部門別教育の二本柱でスキル習得を図る。全社員が自由に受講できるe-Learningには外部コンテンツを取り入れ、部門別研修では実務に即した専門性の高い内容を用意。これにより、多様化する自動車開発の現場に対応できる人材を育成するとともに、異なる視点を持つ人材同士が対話できる土壌を整えている。社員が日常的に

「挑戦できる」

と感じる文化の醸成は、技術力を成果として市場に還元するための重要な基盤となる。

変化する消費価値

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日産のブランドロゴ(画像:日産自動車)

 日産の経営再建計画「Re:Nissan」は、車両生産工場の削減や市場戦略・商品戦略の再構築を盛り込んでいる。技術の日産は、先進的な技術力を背景に市場に衝撃を与えてきた。また、技術力を土台に挑戦する「やっちゃえ NISSAN」の精神が、これまで日産を支えてきた。

 しかし、消費者の価値観は大きく変化した。「凄い車に乗りたい」という欲求は次第に衰退し、クルマは生活を豊かにする道具のひとつという認識に置き換わっている。都市部ではカーシェアやサブスクの利用が増え、通勤や買い物、趣味の移動など日常の利便性に重きを置く傾向が強まった。若年層の一部では、所有ではなく利用体験を重視する価値観が顕著である。

 こうした消費者行動の変化に対応するため、日産は技術力と商品開発の方向性を見直す必要がある。先進的な性能を追求するだけでなく、利用シーンに応じた快適さや安心感、運転の楽しさといった体験価値を提供することが求められる。これまでの技術と挑戦を礎に、日産ならではの「やっちゃえ NISSAN」を新しい意味で体現できるかどうかが、赤字という現実を乗り越えるカギとなるだろう。

 最終的には、CMで流れるスローガンだけでなく、社内から湧き上がる実感として「やっちゃえ NISSAN」の声が聞こえる時、日産は苦境を乗り越え再生への一歩を踏み出すことになるだろう。技術、商品、組織の三位一体で挑戦できるかが、未来のブランド価値と成長のわかれ目となる。