マムダニ氏を止められなかったウォール街、NY市長選

マムダニ氏は、多くのニューヨーク市民が感じている生活費の高騰への不満を利用した
ウォール街の重鎮たちは、ニューヨーク市の有権者が民主社会主義者の市長を選出するのを阻止できなかった。今後はどうなるのか?
4日夜にゾーラン・マムダニ氏(34)がニューヨーク市長選で勝利したことが明らかになると、当地の上流階級には敗北感が漂った。同市の金融業界の有力者の中には、マムダニ氏の市政は到底受け入れられないと感じ、他の候補者を支援するために数百万ドルを費やした者もいた。
今や彼らは新市長と協力せざるを得ない。そしてマムダニ氏が同市のビジネス環境に与える影響について自分たちが抱いている最悪の懸念が現実にならないことを願っている。
シティグループ幹部で、マイケル・ブルームバーグ元市長政権で副市長を務めたエド・スカイラー氏は「問題は治安と、より広い意味での生活の質だ。これらが悪化すれば、どの雇用主も優秀な人材を引きつけ、維持するのは難しいだろう」と述べた。
マムダニ氏は、多くのニューヨーク市民が生活費の高騰によって街から締め出されることに対して感じている広範な不満を利用し、ニューヨーク州議会の郊外選出の一介の議員からニューヨーク市長へと一気に上り詰めた。同氏は無料バス、保育サービスの拡充、市営食料品店の財源として、富裕層への2%増税と企業への増税を約束している。
こうした政策はウォール街では歓迎されなかった。当初、マムダニ氏の勝利の可能性は低いとみられていたが、6月の民主党予備選での同氏の予想外の勝利が金融業界を行動へと駆り立てた。選挙戦が激化する中、米プライベートエクイティ(PE)投資会社アポロ・グローバル・マネジメントや米ヘッジファンド大手シタデルなどは従業員に投票に行くよう呼び掛けた。ヘッジファンドの億万長者ビル・アックマン氏はマムダニ氏の当選を阻止するため200万ドル以上を費やしたが、競争力に欠ける代替候補に資金を投じたのはアックマン氏だけではなかった。

選挙当日、ウォール街は閑散としていた
マムダニ氏は10月に放送されたポッドキャストで、アックマン氏について「彼は私に対抗するために、私が彼に課すことになる税金よりも多くの資金を費やしている。毎日100万ドル、100万ドルという具合だ。そんな大金、欲しくもない!」と述べた。
ウォール街は歴史的に、ニューヨーク市が繁栄した際に恩恵を受けてきた。そしてウォール街の企業と同市の協力関係は、老朽化したインフラの修繕やセントラルパークの清掃に役立った。
マムダニ氏の政策を懸念する一部の人々にとって、街頭での無差別犯罪が最大の懸念事項だ。殺人件数はピークだった1990年の2000件超から2017年の292件まで減少した。ニューヨーク州会計監査官事務所の報告書によると、同州のヘイトクライム(憎悪犯罪)は23年に12.7%増加し、記録されたヘイトクライム事件の44%近く、また宗教に基づくヘイトクライムの88%がユダヤ系住民を標的としていた。
一部のビジネス関係者は、マムダニ氏がニューヨーク市警のジェシカ・ティッシュ本部長に留任を要請する意向を示していることに安堵(あんど)している。長年公職に就き、億万長者の娘でもあるティッシュ氏は、犯罪の大幅な減少を統括したことや、7月にマンハッタン・ミッドタウンのオフィスビルで4人が殺害された事件などへの対応で、ビジネス界から高い評価を得ている。同氏が要請を受け入れるかどうかはまだ分からない。

殺害された警官の葬儀に参列するニューヨーク市警のジェシカ・ティッシュ本部長(7月)
オンデマンドヘリコプター会社ブレードのロブ・ウィーゼンタール最高経営責任者(CEO)は「犯罪に関して言えば、多くの人にとって、ジェシカ・ティッシュ氏は炭鉱のカナリアのような存在だ。もし彼女が交代させられれば、それは警察署が法執行よりも地域の福祉に重点を置く公共安全局のような組織に変貌する可能性を示す最も明確なシグナルだ」と述べた。
アポロのマーク・ローワンCEOは10月のある週末、パーク・アベニュー・シナゴーグのラビであるエリオット・コスグローブ師がマムダニ氏はニューヨークのユダヤ系住民にとって「危険」だと会衆に語った際、聴衆の中にいた。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認したコピーによると、富豪のケン・グリフィン氏が率いるヘッジファンドのシタデルは6月、ニューヨークの従業員に投票を促す電子メールを送り、「あなたの価値観と一致しない極端な見解を持つ候補者」について警告した。
マムダニ氏はイスラエルを批判し、警察予算の削減を主張してきたが、この主張は後に撤回した。グリフィン氏は数年前、シカゴの犯罪率を理由の一つに挙げて、シタデルをシカゴからマイアミに移転させた。
また、マムダニ氏とドナルド・トランプ大統領の力関係から生じる可能性のある不安定さを懸念する声もある。トランプ氏は土壇場でマムダニ氏の最大のライバルだったアンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事への支持を表明した。トランプ氏は移民・税関捜査局(ICE)の捜査官と州兵の市内への増派や、180億ドルのインフラプロジェクト向け連邦資金の凍結をちらつかせている。
ラザードの元投資銀行部門責任者アントニオ・ワイス氏は、ニューヨーク市と米国政府との関係が最も差し迫った課題になる可能性が高いと指摘した。
「ニューヨーク市民が市の利益のために結束することを心から願っている」と述べた。同氏は金融業界の多くの同業者とは異なりマムダニ氏を支持した。その理由の一つは、マンダニが「手頃な価格」に重点を置いていたことだった。
現状では、ニューヨークはなお野心の代名詞であり、これは長らく金融業界の優位性を支えてきた重要な原動力の一つだ。マンハッタン・ミッドタウンのパーク・アベニューでは、JPモルガン・チェースが先ごろ、総工費30億ドルの新タワーのテープカットを行った。クイーンズ生まれのジェイミー・ダイモンCEOは業界のマスコットとも言える存在であり、留任を表明している。マムダニ時代に耐えられない人々は異なる判断を下すかもしれない。
ベンチャーキャピタリストのブラッド・タスク氏は「マムダニ氏が選出されたという理由だけでニューヨークを離れるという考えは馬鹿げている。ビジネスがうまくいかないなら、ニューヨークを去るべきだ」と述べた。同氏はブルームバーグ氏の3期目の市長選を指揮し、後に同政権の顧問を務めた。