「ホンダ」希望退職、「日産」工場閉鎖…中国市場で“総崩れ”の日本車メーカー。最後の砦「トヨタ」も例外ではない苦境

日本車、光と影の中国市場20年, 一過性の問題ではない低迷…日本車の転換期, ホンダ、日産、マツダ、トヨタの中国事業の現在地, 2020年をピークに低迷続く窮地の「ホンダ」, シルフィ・セダンに過大依存、ゴーン時代にブランド力低下…底入れが見えない「日産」, 中国事業の再編続く「マツダ」、販売激減でガソリン車の活路探る, 販売台数維持のための値下げ攻勢が、最大の武器「トヨタブランド」を蝕むジレンマ

(※写真はイメージです/PIXTA)

かつて高品質と低燃費を武器に中国市場を席巻した日本車が、今、深刻な転換期を迎えている。BYDなど現地メーカーのNEV攻勢の前にシェアは急落。ホンダは希望退職に踏み切り、日産は工場を閉鎖。最後の砦と見られたトヨタでさえ、ブランド力の低下が囁かれる。湯進氏の著書『2040中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より、中国市場における日本の自動車メーカー各社の戦略と課題を分析していく。

日本車、光と影の中国市場20年

日本の自動車メーカーは、1980年代に地場企業に対する技術供与の形で中国事業をスタートし、1993年から2004年の間に、スズキ、ホンダ、トヨタ、日産、マツダがそれぞれ乗用車合弁企業を立ち上げ、本格的中国展開をスタートした。

2012年には長安マツダ(マツダと長安汽車の合弁)、広汽三菱(三菱自動車と広州汽車の合弁)に加え、日本の自動車メーカー6社が乗用車合弁計10社を展開するようになった【図表1】。

日本車、光と影の中国市場20年, 一過性の問題ではない低迷…日本車の転換期, ホンダ、日産、マツダ、トヨタの中国事業の現在地, 2020年をピークに低迷続く窮地の「ホンダ」, シルフィ・セダンに過大依存、ゴーン時代にブランド力低下…底入れが見えない「日産」, 中国事業の再編続く「マツダ」、販売激減でガソリン車の活路探る, 販売台数維持のための値下げ攻勢が、最大の武器「トヨタブランド」を蝕むジレンマ

[図表1]中国における日系乗用車合弁企業の概要 出所:各社発表より筆者作成

2008年、日本車は高品質、低燃費などの特長を武器に強い競争力をつけ、31%の市場シェアで先発組のドイツ勢を抑えて、最大の勢力となった。

リーマン・ショック以降、中国政府が実施した小型車減税策に応じて、欧米系各社はいち早くモデルチェンジや新車種の投入を行っていたのに対し、日系各社は、市場戦略の転換が遅れた。当時、欧米系メーカーに比べて日系企業の事業基盤は弱く、2012年に発生した「尖閣諸島問題」の影響を受け、日本勢は積極的なマーケティング施策を展開しにくい面もあった。そして2012年、ドイツ系企業に販売台数で抜かれて以降、日系企業は首位奪還には至っていない。

2015年以降、中間所得層の広がりやクルマ消費の高度化に伴い、日系各社は中国で新車投入や中国専用車の開発などを通して、消費者ニーズにきめ細かく対応するマーケット戦略を打ち出し、着実に製品競争力を高めてきた。これまでの車種別プラットフォーム生産から、車種の枠組みを超えた大規模な部品共通化戦略や兄弟車戦略による生産へ切り替える一方、日本企業が得意とするHVが中国で強い競争力をみせており、独占状況が続いている。

一過性の問題ではない低迷…日本車の転換期

中国市場では、日本車は、軽量化ボディで衝突に弱いなどの安全性の問題やパワートレーン技術投入の遅れなどにより、欧米系ブランド車とのイメージギャップに長年苦しめられてきたが、ここに至ってクルマの機能性や省エネ性能が評価されるようになってきた。

中国の乗用車市場における日本車のシェアは2018年に18.8%、尖閣諸島問題以前の水準に回復し、2020年には23.1%のシェアとなり、直近10年間で最も高い実績を示した【図表2、3】。日本車の中国販売台数も、2012年の315万台から2020年の520万台へと増加した。

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[図表2]日本車の中国販売台数の推移 注:スバルは輸入車、スズキは2018年に撤退、三菱自は2023年に撤退

出所:中国汽車流通協会や各社発表より筆者作成 [図表3]中国乗用車市場の日本車のシェア 出所:中国汽車工業協会の発表より筆者作成

日本車は、低燃費や信頼性などの優位性から、中間所得層以上の層の買い替えニーズを満たしてきた。なかでもセダンは、ブランドのコストパフォーマンスと機能のバランスを重視する消費者層から支持を獲得。SUVも、長距離走行で重視する乗り心地の良さやデザインなどが評価され、若年層の取り込みに成功した。

アフターコロナの中国のガソリン車市場は、ドイツ系高級車ブランド、日米欧系大衆車ブランド、地場系低価格車ブランドの三つ巴の状況になっている。

ドイツ系高級車ブランドは、値下げで大衆車ブランドの需要層をハイエンド車の需要層にシフトさせ、取り込もうとしている。

一方、日米欧系大衆車ブランドは、現地調達の拡大によって一層のコスト削減や値下げ攻勢を進めながら、逆に低価格車市場を開拓する姿勢を示している。低価格車の収益率が低下傾向にあるなかで、地場メーカーはこうした状況を打開するため、相次いで電動車を投入し、ガソリン車ブランドと異なる戦略をとっている。厳しい戦いを強いられるなか、日本車の市場シェアは急落し、2024年に11.2%となり、2025年には10%を割る可能性がある。

少し前までは中国で好調だった日本勢が足元で陥っている苦境は、決して一過性の問題ではなく、日本車が転換期に入ったことを示唆する。なぜならば、大衆車市場で構築してきた日系のブランド力が中国勢のNEVに太刀打ちできない状況も出現しているからだ。

この状況を読み解くカギは、急拡大するPHV市場にある。そのPHVの存在感を急速に高めた立役者がBYDである。BYDのPHVの価格破壊に対し、日系各社は販売促進キャンペーンを展開したものの、競合車種の値下げを受け、苦戦を強いられている。

ホンダ、日産、マツダ、トヨタの中国事業の現在地

市場の変調は、ガソリン車を中心とする日系自動車メーカーの中国事業に影響を与えはじめ、各社の明暗を分けている。2025年以降の中国市場で日本車は再興できるのか。各社の主力モデルの立ち位置から、今後の見通しを考えてみたい。

2020年をピークに低迷続く窮地の「ホンダ」

ホンダの中国事業は1990年代、二輪車の合弁事業から始まった。1998年には、広州汽車との合弁で広州ホンダを設立し、2003年に東風汽車と合弁で東風ホンダを設立し、現在に至っている。

主力モデルは中国の合弁会社2社から新車をそれぞれ投入する兄弟車戦略を実施しており、着実に製品競争力を高めてきた。HVの投入もあり、2020年には販売台数162.3万台を記録し、日本勢でトップのトヨタとの差を17万台まで縮めた。しかし、現在のところ2020年が販売のピークであり、主力モデルの低迷が続いている。

2016年以降、ホンダは、高効率ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-MMD」を投入し、HVラインアップの拡大を進めてきた。HVの中国販売台数は2021年に23万台を記録した後、減少する傾向にあり、2024年には約11万台にとどまった。ホンダのHVは、ガソリン車と比較して、CO2排出量の低減や省エネを実現しているものの、PHVやEVの増加により、中国で「技術のホンダ」を象徴するパワートレインの優位性をアピールするのは困難となっている。

またホンダは、1つのプラットフォームをベースに内外装を変えることで、中国の合弁会社2社から新車をそれぞれ投入する兄弟車戦略を実施している。クロスオーバーSUVの「CR-V」(東風ホンダ)と「ブリーズ」(広汽ホンダ)、グローバルミッドサイズプラットフォームを採用した「インスパイア」(東風ホンダ)と「アコード」(広汽ホンダ)、ハッチバックの「シビック」(東風ホンダ)と「インテグラ」(広汽ホンダ)のように、兄弟車が存在する。

ガソリン車市場のパイが縮小するなか、ディーラーの値引き競争を受け、ホンダの兄弟車同士でカニバリゼーションを起こしている。

中国勢が仕掛ける値下げ競争に慎重な姿勢を続け、在庫が積み上がっている。ホンダは2024年に従業員14%にあたる1700人規模の希望退職者の募集を実施し、コスト削減を行う一方、中国にある7工場のうち3工場で稼働を止め、生産能力は2024年の149万台から現在は96万台に減少した(EV工場を除く)。2024年の中国販売台数は3割減の85.2万台となり、100万台を下回った。

生き残りをかけてEVシフトを進めるホンダは、今後ガソリン車の事業規模をさらに縮小せざるを得ない。

シルフィ・セダンに過大依存、ゴーン時代にブランド力低下…底入れが見えない「日産」

日産は1993年に河南省鄭州市で小型ピックアップ車を中心とする商用車の合弁事業を開始し、2003年には東風汽車と合弁で東風汽車有限公司を設立し、本格的に乗用車事業を開始した。2024年の販売台数は前年比12.2%減の69.6万台となり(ピークの2018年比55%減)、6年連続での前年割れとなった。

課題の一つは、大衆向けセダンのシルフィに過大依存し、有力車種が少ないことである。シルフィは、2018~21年に中国乗用車市場のトップモデルとなり、2024年の販売台数は34万台に達して、日系車の首位を維持している。それに伴って、日産の中国販売台数に占めるシルフィの割合は、2018年の30%から2024年は49%へと上昇した。

一方、中国の新車販売台数ランキングでは、2022年からBYDの王朝シリーズ「宋」に抜かれ、2024年には第5位に転落した。しかし、日産はシルフィのほかに人気モデルを生み出せていない。2番手モデル不在、といえるのである。また廉価帯の中国専用ブランド「ヴェヌーシア(啓辰)」の低迷が響いているなか、販売台数の底入れは見えない状況だ。

「カルロス・ゴーン時代」は、中国市場を強化する方針を掲げ、販売台数の目標を優先した。その結果、値引き販売が行われることになり、ブランド力の低下を招いたともいえる。こうした方針が、中国事業全体にも大きく影響を与えている。

コロナ禍以降、ファーストカーを買おうとしていた消費者の収入が減り、買い替え検討者のクルマ選びは、安全性や信頼性を重視する傾向にあり、新車需要も廉価車から中高級車へシフトしつつある。だが、地場ブランドのコストパフォーマンスに及ばないなか、ファーストカー需要を狙うシルフィのさらなる値下げは現実的ではない。

2024年には、年産能力13万台の常州工場を閉鎖したが、中国での生産能力を最大3割減らす計画もある。稼働率の低迷が深刻化しているなか、生産能力適正化やリストラ対策は避けられない。

中国事業の再編続く「マツダ」、販売激減でガソリン車の活路探る

マツダは1992年に海南汽車(1997年に第一汽車に吸収された)に対する技術供与の形で中国事業をスタートし、2005年には第一汽車と合弁で一汽マツダを設立した(マツダ車両の委託生産)。2012年にはフォードとマツダの資本提携解消を受け、長安フォードマツダは「長安フォード」(重慶市・フォードブランド車生産)と「長安マツダ」(南京市・マツダブランド車生産)の2社に分離された。

マツダの販売台数は、2024年に8.3万台となり、ピークであった2017年の4分1程度に縮小。MAZDA3とCX-5の販売台数が中国販売全体の7割を占めている。2023年には、第一汽車への生産委託を終了し、生産を長安汽車との合弁会社、長安マツダの南京工場に集中させている。ラインアップが少なく、従来のパワートレインの最適化で差別化を図るマツダにとっては、厳しい戦いを迫られている。

国有パートナーとの提携関係を勘案すれば、「ニッチなガソリン車ブランド」のレッテルを貼られながらも、黒字体制を維持すべく工夫する必要がある。

販売台数維持のための値下げ攻勢が、最大の武器「トヨタブランド」を蝕むジレンマ

日本の自動産業を牽引するトヨタには、中国市場でも厳しい試練が待ち受けているといえる。

VWが1984年に上海汽車と合弁で上海VWを設立し、外資の先陣を切って中国に進出した。その16年後の2000年、トヨタは一汽トヨタ(第一汽車との合弁)を、2004年には広汽トヨタ(広州汽車との合弁)を設立し、中国での2社合弁体制を確立。その後は、中国のモータリゼーション拡大に伴い、トヨタの販売台数は右肩上がりで伸びてきた。

トヨタは、豊富なラインアップでHVを強みとし、多様なニーズに対応している。カローラやレビンなど主力セダンの販売台数が減少するなか、トヨタは最新HVシステムの「第5世代THS」を搭載した小型クロスオーバーSUVの「カローラクロス」および姉妹車の「フロントランダー」を投入し、10万元を切る水準まで値下げして、セダン販売の減少分を埋めている。

こうした製品戦略により、トヨタの販売台数は2021年から3年連続で190万台を超え、中国進出以来最も高い水準を維持していた。2024年には、前年比6.9%減の177.6万台となり、他社と比較しても落ち込み幅は小さい。

一方、日系企業同士の競争も激しい。2024年の中国に投入する車種数をみると、ホンダが24車種、トヨタが19車種で、ともにフルラインアップ戦略をとっている。日産が7車種、マツダが5車種となり、車種数を絞っている状況である。2024年の出荷台数5万台超の車種をみると、トヨタが13車種であるのに対し、ホンダと日産はそれぞれ4車種、3車種にすぎない。

現在、トヨタの中・高価格車の販売台数は、中国販売全体の3割超を占めている。トヨタが値引き攻勢で販売台数を維持していくと、それが日系同士の新車販売に影響を与える。しかし、さらなる値下げに踏み切ると、日本車のブランド力の低下が懸念される。競合ブランドと比べて中古車として売る際のリセールバリューの高さ、ブランド力が反映される重要な指標となるが、ここで気になる動きが見られる。

中国汽車流通協会による2024年末の平均リセールバリュー(車齢3年)をみてみると、日産が50%、マツダが51%であるのに対し、トヨタは56%となり、初めてホンダ(57%)に抜かれた。ガソリン車ブランドのなかで、トヨタのリセールバリューは高いといえるが、2021年に87%であったことから、近年の値下げ販売により、ブランド力に低下の傾向があると考えられる。

湯 進

みずほ銀行

ビジネスソリューション部上席主任研究員

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