金より貴重? アラスカでアンチモン採掘ラッシュ

【エスター(米アラスカ州)】ロッド・ブレークスタッド氏は当地の採掘現場で、光沢のある岩をつるはしで割った。すると石英が見つかった。この岩に金が含まれている可能性があるというしるしだ。

だが、金採掘の経験が豊かなブレークスタッド氏は、その岩を投げ捨てた。同氏が率いる地質学者のチームは、それよりはるかに需要が多くて入手困難なアンチモンを探していた。アンチモンは国防産業で幅広く使われる一般的にはあまり知られていない元素で、現在は激しい米中貿易戦争の中心となっている。

「われわれが金を探しているなら、ハイタッチして喜んでいただろう」とブレークスタッド氏は語った。

金山で発見されることが多いアンチモンは、最近まで金の採掘者たちからは残余物として扱われていた。

だが、この状況は昨年から変わり始めた。中国は昨年、アンチモンの輸出に厳しい制限を導入した。その一環で、米政府が米国製ハイテク製品の対中輸出を制限したことへの報復として、アンチモンの対米輸出を12月に全て禁止した。

こうした制限措置は、弾丸を硬くしたり、装甲貫通弾の強度を高めたりするのにアンチモンを使っている国防関連企業を苦しめている。アンチモンの価格は2年前の4倍に跳ね上がっている。国防関連企業がパレスチナ自治区ガザやウクライナでの戦争で使い尽くされた兵器在庫を補充する必要に迫られている今、アンチモンは供給不足の状態にある。

アンチモンの主要鉱石である輝安鉱(フェアバンクス近郊)

中国の習近平国家主席とドナルド・トランプ米大統領は先月、貿易戦争の休止で合意した。特に中国は、米国が中国からの輸入品に関税をかけ、一部製品の対中輸出を制限したことへの報復措置として、多くの重要鉱物の供給を絞っている。そうした重要鉱物の一部は、自動車やドローン、ジェットエンジンなどの製造に使われている。

アンチモンの約6割は中国で、残りの大半はロシア、タジキスタン、ミャンマーで採掘されている。

ホワイトハウスによると、貿易戦争の休止を受けて、アンチモンの輸出が再開される見込みだ。中国政府はこれを確認し、対米輸出の全面禁止を1年間解除するとしたが、軍事利用を制限する条項はそのままになった。アンチモンの国際価格は先週も高止まりしていた。

アンチモンの価格推移*

2024年のアンチモン生産量(トン)

アンチモンは現在、数十年間にわたる中国の独占によって崩壊したサプライチェーン(供給網)を米国が再建できるか見極めるための重要なテストケースになっている。

米国は長い間、アンチモンをあまり生産してこなかったが、現在、複数の企業が20世紀を最後にアンチモンを生産していないアラスカ州やアイダホ州の採掘場を再利用しようとしている。国防総省は活性化プロジェクトに資金を投じており、9月にはアラスカ州のプロジェクトのために4300万ドル(約66億5000万円)を拠出すると発表した。

ブレークスタッド氏の雇用主であるユナイテッド・ステーツ・アンチモニー(USAC)は、米国でアンチモンの製錬所を運営している。政府は9月、同社と2億4500万ドルの契約を結んだ。同社はこれにより、アンチモンのインゴットを国防備蓄用に供給することとなった。

しかしUSACはまず、アンチモンの鉱石を確保する必要がある。中国当局は今年、同社のアンチモン輸送を一部妨害した。オーストラリアから戻る際に中国の港を経由した同社の貨物が足止めされ、これが解除されるまでに何カ月もかかった。

中国の買い手は巨大な自国鉱山での生産減少を受けてアンチモン鉱石を探し回り、世界各地で買いあさっている。一方、USACは昨年、メキシコの採掘場の操業を停止した。カルテルの存在によって、そこでの操業があまりにも危険になったことなどが理由だ。

アラスカに注目

USACは米国内での採掘に大きくかじを切りつつあり、アラスカの大きな可能性に目を向け始めている。

同社は地質に関する古い資料を頼りに、フェアバンクス周辺の鉱区に目を付け、開発権を取得した。この資料は、付近の金山にアンチモン資源が存在していることを示唆していた。

アラスカでの資源探査チームを率いるブレークスタッド氏は、遠くはマリ、ガーナなどで金を探した経験があり、米最大級の金山の発見で果たした役割が高く評価されている。

かつて金の採掘が行われていたモホーク鉱山には、金鉱石処理のための崩れかけた木造施設がまだ残っていた。ブレークスタッド氏のチームは、1世紀前からある鉱山の地下に伸びる崩れた坑道の道筋をたどって進む。こうした坑道は、何十年も前に、鉱山労働者たちが金鉱脈を見つけた証しだ。その鉱脈にはアンチモンが含まれていた可能性がある。彼らはまた、ハーディーアルダーの木(ハンノキの一種)を探す。この木が生えている場所は、以前に金採掘が行われたことを示す場合がある。有望な場所を見つけると、同氏のチームは溝を掘ってサンプルを採取する。

ブレークスタッド氏は「彼らが残していった物をわれわれは探している」と語った。

USACはモンタナ州の製錬所を拡張するとともに、同州の鉱山での採掘を再開した。この鉱山は、極めて安価な中国産アンチモンとの競争が不可能になったため、1980年代に閉鎖されていた。

同社のゲーリー・エバンズ最高経営責任者(CEO)は「この問題が解決可能だと、われわれには分かっている」と述べる。米中貿易戦争の休止が最近実現したものの、アラスカでのプロジェクトに変更はないと言う。

他の企業もアラスカでアンチモンの開発を進めている。豪企業フェリックス・ゴールドは、フェアバンクス近郊のトレジャークリークと名付けられた鉱区の地表付近で、ハイグレードのアンチモン鉱床を発見した。同社は、開発許可が下りれば年内に採掘を開始できるよう準備を整えている。この地区のアンチモン鉱床の広がりを調査するため掘削を進めており、より深部にある資源の採掘を目指す可能性もあるという。

フェアバンクスのアンチモン採掘プロジェクトには、へき地ではないという利点がある。だが、アラスカ最大級の都市に近いため、採掘計画に不満を持つ住民への対応が必要になる。

この地域の「マッシャー」と呼ばれる犬ぞりレースの競技者たちは、フェリックス・ゴールドがホワイトマウンテン国立森林公園へのアクセスを妨げたと訴えている。彼らは毎年開催される1000マイル(約1600キロ)の「アイディタロッド」レースに向けて、このホワイトマウンテンで練習をする。犬ぞり競技者のジェフ・ディーターさんとカッティジョ・ディーターさん夫妻は、私有地を通り抜ける以外に公園にアクセスする手段がないと語る。夫妻は、観光客に複数頭立ての犬ぞりに乗る体験を提供する会社を経営している。

フェリックス・ゴールドは10月、レクリエーション利用者のための歩道を整備し、アクセスできるようにした。カッティジョさんは新ルートが設けられたことに感謝している一方で、採掘活動が盛んになるにつれて新たな問題が生じるのではないかとの懸念を示した。「こうしたやり取りが、毎年続くことになるのではないかと少し心配だ」と彼女は語った。

ディーターさん夫妻とそり犬(フェアバンクス)

トレジャークリーク採掘プロジェクトの近くにはユルト(移動式住居)があり、観光客はそこでオーロラを観賞する。しかし現在、フェリックス・ゴールドの採掘現場の照明が、時折夜空を刺すように照らしている。本来ならこの空には星が輝いて見えるはずだ。

観光客をユルトに案内する「1st・アラスカ・ツアーズ」のジョシュ・フーベ氏は、このプロジェクトの拡大に伴う状況悪化を懸念し、もっと離れた場所にオーロラ観賞スポットを整備しようと準備している。費用は約20万ドルの見通しだ。「投資分を回収し、再び黒字化するには4~5年かかるだろう」と同氏は話した。